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第十二章錦州
第十二章第第二十節(空言)
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二十
繞陽河で錦州軍と衝突してからほどなくした二十七日午後零時三十分、東京の金谷参謀総長から本庄司令官へ、「天津事件への対応は参謀本部が引き受けるので、関東軍の出動は別命があるまで禁止する」と伝えてきた。すでに出発した先頭部隊も、「絶対に遼河以東へは行ってはならない」との厳しいお達しだ。
関東軍にはこれまで度々煮え湯を飲ませてきただけに、今度ばかりは総長も容赦がなかった。進軍停止の厳命を下した上で、命令受領時における部隊配置まで報告させた。
平素「兵は勢いなり」が信条の石原参謀は、すでに彼我の間に戦闘が起こり、自軍に死傷者まで出したままで撤退するのでは、前線の士気に影響すると渋面をつくった。だから、同日午後以降に奉天へ移動してくるはずの第二師団については、原駐地の遼陽へ帰還するよう伝達したが、すでに奉天を発った混成第四旅団に向けては先頭部隊を溝帮子付近に停止させ、今後の情勢を見るよう指示した。
その上で中央へは、「通信手段がないため前線の状況を把握できず、直ちに進軍中の両旅団を引き返させることはできない。最寄りの要地に停めて機を見て後退させる予定」と報告した。
だがその日の午後五時半、三度総長の電報が届く。
「当面の状況如何にかかわらず、すでに遼河以西に進出した部隊を悉く同河以東へ遅滞なく配置せよ」
「すべてはお見通しだ」とばかりである。
かてて加えて、参謀本部内では本庄司令官が中央の指示を仰がずに部隊を動かしたことが問題となっていた。総長の電報に先立つ午後四時には、建川美次第一部長から満洲へ出張中の二宮次長へ宛てて、こうも言ってきた。
「軍司令官は以前、錦州へ攻勢を実施する際には(中略)中央部の承認を受ける旨を約束したはずだ。ところが昨夕、天津に再び兵変が起こるや、関東軍は中央部から何らの指示を受けることなく独断で(中略)攻勢運動を開始した(中略)。軍がみだりに中央部の意図を蹂躙し、その裏を掻くが如き行動に出るのを、中央部として絶対に是認できるものではない」
二宮次長も東京にいたなら同じようなことを言ったに違いない。だが現地の情勢を肌身に感じ取った今となっては、これらの文言がいかにも認識不足の空言に聞こえてならない。そんな次長の許へ、今度は金谷総長から「急ぎ奉天へ赴き、本庄司令官へ参謀総長の命令履行を念押しすべし」との司令が下る。
繞陽河で錦州軍と衝突してからほどなくした二十七日午後零時三十分、東京の金谷参謀総長から本庄司令官へ、「天津事件への対応は参謀本部が引き受けるので、関東軍の出動は別命があるまで禁止する」と伝えてきた。すでに出発した先頭部隊も、「絶対に遼河以東へは行ってはならない」との厳しいお達しだ。
関東軍にはこれまで度々煮え湯を飲ませてきただけに、今度ばかりは総長も容赦がなかった。進軍停止の厳命を下した上で、命令受領時における部隊配置まで報告させた。
平素「兵は勢いなり」が信条の石原参謀は、すでに彼我の間に戦闘が起こり、自軍に死傷者まで出したままで撤退するのでは、前線の士気に影響すると渋面をつくった。だから、同日午後以降に奉天へ移動してくるはずの第二師団については、原駐地の遼陽へ帰還するよう伝達したが、すでに奉天を発った混成第四旅団に向けては先頭部隊を溝帮子付近に停止させ、今後の情勢を見るよう指示した。
その上で中央へは、「通信手段がないため前線の状況を把握できず、直ちに進軍中の両旅団を引き返させることはできない。最寄りの要地に停めて機を見て後退させる予定」と報告した。
だがその日の午後五時半、三度総長の電報が届く。
「当面の状況如何にかかわらず、すでに遼河以西に進出した部隊を悉く同河以東へ遅滞なく配置せよ」
「すべてはお見通しだ」とばかりである。
かてて加えて、参謀本部内では本庄司令官が中央の指示を仰がずに部隊を動かしたことが問題となっていた。総長の電報に先立つ午後四時には、建川美次第一部長から満洲へ出張中の二宮次長へ宛てて、こうも言ってきた。
「軍司令官は以前、錦州へ攻勢を実施する際には(中略)中央部の承認を受ける旨を約束したはずだ。ところが昨夕、天津に再び兵変が起こるや、関東軍は中央部から何らの指示を受けることなく独断で(中略)攻勢運動を開始した(中略)。軍がみだりに中央部の意図を蹂躙し、その裏を掻くが如き行動に出るのを、中央部として絶対に是認できるものではない」
二宮次長も東京にいたなら同じようなことを言ったに違いない。だが現地の情勢を肌身に感じ取った今となっては、これらの文言がいかにも認識不足の空言に聞こえてならない。そんな次長の許へ、今度は金谷総長から「急ぎ奉天へ赴き、本庄司令官へ参謀総長の命令履行を念押しすべし」との司令が下る。
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