風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第十二章錦州

第十二章第二十一節(増援隊要請)

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                二十一

「天津軍を救援する!」
「いや、それは単なる口実で、目的は錦州攻撃だろうっ!」
 関東軍と陸軍中央部が綱を引き合うさなか、当の天津軍はというと--。
 
 先にも書いたように、保安隊のよる発砲そのものはさして激しいものではなかった。だが「敵対行為は行わない」と約束したそばからこれを破ったとあって、香椎司令官も「今度という今度は……」との決心を固くした。

 天津軍の兵力はわずか六百、義勇隊を合わせても千人に満たない。対する保安隊は約三千。加えて郊外にたむろする正規軍は三万を数えた。
 数の上では話にならないほどの劣勢だが、香椎はすっかりケンカ腰だ。保安隊へ“過剰”とも言えるほどの反撃を食らわした天津軍は、租界内に戒厳令を布いた上で二十七日の午前五時、王樹常おうじゅじょう主席へ厳しい口調で抗議の電報を送った。その際、同日正午を回答期限として五項目の要求を突きつけた。

 「一、即時敵対行為の中止。
  二、民国側軍隊の列国軍隊駐屯地から二十支里撤退の確実なる実行。
  三、武装保安隊のさらなる後退。
  四、河北省内にある部隊の移動中止。
  五、排日および侮日行為の絶対的取締」

 だがさすがに天津軍側が、第三項と第四項をすんなり受け入れるとは思えない。見るに見かねた桑島主計くわしまかずえ総領事は軍をなだめようとしたが、軍の剣幕に「もはや説得は無理」とあっさり見切りをつけた。
 代わりに桑島は幣原外相へ宛て、「租界の権益を維持するためには、至急増援部隊の派遣が必要」と送り、もし最悪の事態に至った場合は老幼婦女子は引き揚げさせるので、急ぎ引き揚げ船の手配をしてくれるよう要請する。

 関東軍を猜疑の目で遇した政府や軍部中央も、総領事からの要請とあっては無下にできない。
 即日、塘沽タンクーに停泊中の駆逐艦から陸戦隊九十人を送って香椎司令官の指揮下へ置くとともに、佐世保からは駆逐艦八雲やくもを急派した。
 同時に陸軍も関東軍から一部部隊を派遣する案を検討し、一個大隊五百人を大連から船で送ることとなった。
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