風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第二部第十三章スチムソンドクトリン

第十三章第四節(倫理的制裁)

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                 四

 「スチムソン・ドクトリン」を巡って、「満洲における日本の軍事行動に向けられたアメリカ合衆国の『倫理的制裁』」と解する論評がある。
 「リットン調査団」の報告書と併せ、「平和を愛する諸国民の公正と信義」に立脚した“国際社会”なるものが、独り野心旺盛で野蛮な“戦前日本”なるものへ向けて毅然きぜんとダメ出しを食らわした--。
 とでも言わんばかりの話になっている。

 スチムソン氏ご自身も、『極東の危機』の中で「ドクトリン」を公表した背景をこう振り返っている。

 「比較的無意義な結果を生んだにすぎなかった覚書作成のだらだらした経過に終結を与え、また不満足な議論の交換に終止符を置くととともに、アメリカが突っ込んだ議論には介入しまいと考えた論争になお重要な権利を包含していると伝え、日本に対する注意としても役立ちうるごとき声明書をもって、この折衝を打ち切るために、或る方法を考究せねばならない。
(中略)
  満洲における平和の侵害を世界が道徳的に承認しないという正式の意志表示をするために或る種の方法を決定し、さらにできるならば右の意志表示の背後に、賠償すべき責任を有する当事国に圧力を生ずべき制裁の意を書き入れておくことは最も重要であった」

 ついでにヘンリー・スチムソン氏の対日政策に関するアーミン・ラッパポート氏の研究によると、「不承認」を通告するという考えは早くも関東軍が錦州を爆撃した十月の上旬、イリノイ州選出の議員がフーバー大統領に宛てた書簡の中で提起されたという。大統領は北満危機さなかの十一月九日にこれを閣議へ持ち出し、討議をはじめた。
 だがこの時点では、スタンレー・ホーンベック極東部長をはじめ国務省内の反対にあって、大統領もいったんは引っ込めた。

 その後の情勢悪化に危惧を覚えたスチムソン長官が、十二月二日に再考した上で独自に草案を起草したという。それが証拠に長官は、同月十四日にセオドア・ルーズヴェルト政権時代の国務長官エリフ・ルートへ宛て、「関東軍が錦州まで進出したら不承認を通告する決意である」との書簡を送っている。
 そして案の定、錦州を巡る事態はとめどなく緊迫していき、長官はいよいよこの決意を実行へ移す段となった。

 年が明けて東部時間の一月二日、ついに関東軍が錦州へ入ったとの知らせを受けるや、スチムソン長官はすぐさま最終草案を書き上げ、二日後にはフーバー大統領の決裁を得て公表するに至ったという。
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