風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第二部第十三章スチムソンドクトリン

第十三章第十節(隠ぺい)

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                 十

 清国の領土内に列強が“借地”をするという前例をつくったのは、ドイツ帝国による膠州こうしゅう湾租借が最初となる。自国の宣教師が殺害されたのを名目に、典型的な砲艦外交を展開した果てのことだった。
 しかも租借期限は九十九年--。
 当時の華人の世界で九十九は“永久”を意味したから、最初から返す気などさらさらなかった。

 “悪事千里を走る”の例え通り、三週間後には「三国干渉」の片割れロシア帝国が関東州へ租借地を開いた。ただこちらはいきなり“永久”とはせず、先ず二十五年と期限を区切り、その後は「両国の協商によってさらなる延長をする」とした。

 するとロシアのこの動きを警戒した英国が日本へ接近し、日清戦争時から日本軍が占領していた黄海こうかい対岸の威海衛いかいえいを引き継ぐかたちで租借した。また翌年七月にはアロー号事件で割譲していた九竜半島の北側を含む香港全体を、九十九年間租借。となればフランスも負けじと同年十一月、広州湾に九十九年間の租借地を設けた。
 列強の租借期限はいずれも九十九年だったが、不幸にして日本がロシアから譲り受けた旅順・大連の租借地だけが二十五年と短く、間もなく期間満了を迎えようとしていた。

 そんな経緯いきさつや旅・大租借を決めた「パブロフ協定」にあらかじめ「期限延長」をうたっていたことから、日本がいずれ期限の延長を求めるだろうとは列強諸国側でも“織り込み済み”だった。
 だから膠州こうしゅう湾還付を引き換えにした“要求”がこれらに止まったならば、話はさほどこじれる必要もなかった。

 だが日本政府は今回の交渉を好機として、過去十年間の満洲経営を通して日華間に生じた様々な紛議を一挙に解決せんと企図した。それ故、前述の期限延長に加えて「かねて懸案もしくは問題となり、または既に事実上承認もしくは実行されている事項」についても両国政府間に一定の合意を取り交わそうと“希望”した。
 それはあくまで“希望”であって、先方が承諾しないならそれまでのこと--。

 そんな軽い気持ちで交渉のテーブルに乗せたら、あにはからんや……。これに“尾ひれはひれ”がついて因縁を付けられ、騒ぎが膨らんだ。
 なお悪かったのは、“要求”は列強の利害にも関わることだからと事前に関係諸国へ通告していたが、“希望”はあくまで当事者間の問題だからと開示を控えた。この判断があだとなって、「日本は肝心の『要求事項』を隠ぺいした」との味噌が付いた。
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