風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第十四章上海事変

第十四章第二十節(休戦協定)

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                 二十

 二十九日、英軍司令官の仲介によって日華両軍に休戦協定が成立した。
 だがやっと訪れた「上海の静寂」も、半日と続かず再び「引き裂かれた」。

 引き裂いたのは第十九路軍側だった--。
 北停車場付近にいた装甲列車が日本人居住区へ向けて突然砲撃を開始したのだ。

 民国の軍隊は中央と現場の連絡が悪い。十九路軍側は、「司令部は休戦協定に合意したものの、情報が前線へ伝達されなかったために起こった“事故”」と弁明した。
 さしものアーベント記者と言えども、そうとなれば“弱き華人”の肩を持つ訳にもいかない。翌三十日付の記事には次の文章を盛り込んだ。

 「朝六時四十五分、突如として起こった民国側の砲火により前夜の休戦協定は終わりを告げた」
 
 「砲弾は上海日日新聞社と西本願寺の屋根を破壊した」

 それでも彼の“思い込み”が消えた訳ではなかった。
 同じ記事の別の場所で彼は、「木曜(二十八日)の晩、村井(倉松)総領事は『非常事態宣言に基づき所定の警備区へ向かう我が軍へ、民国軍側が先に仕掛けてきた』と民国側を公式に非難し、突如として戦端を開いた陸戦隊や海軍の行動を正当化しようとした。だがそれは、塩澤提督が声明した閘北ざほく占領の意図をなかったことにしている」と、むしろはばかりなく露骨な歪曲までして見せた。

 なお協定破りが起こっても、民国軍内部の情報伝達の悪さは日本側によく知れ渡っていたから日本軍は即座に応射しなかった。
 しかし一時間、二時間と経っても敵の砲撃は一向に止む気配がない。やがて午前十時頃から銃声が交差しはじめ、午後には日本の空爆が再開される。その際、三個の爆弾が誤って租界へ落下し、一発がフランス租界沿岸の商船を直撃した。

 すると第十九路軍高官は自軍の協定破りを棚に上げ、工部局へ「日本軍が租界の一部を軍事行動の拠点に利用している」と苦情を言い立てる。新聞も民国側の協定破りを脇へ置き、「外人社会は総じて、日本軍による人口密集地への航空機爆撃を非難した」と、これまた日本悪玉論を声高に叫んだ。
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