風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第十四章上海事変

第十四章第三十二節(混成第二十四旅団)

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                                                三十二

 休戦協定の時限が迫った正午近く、英国のジョン・ブレナン総領事とアメリカのエドウィン・カニンガム総領事が第三艦隊旗艦出雲いずもへ野村中将を訪ねて来た。要件は四時間の休戦をさらに延長するよう勧告しに来た。
 だがもし休戦を望むなら、こちらに来るのは筋違いだ。野村提督は「敵軍が挑戦しなければ我が軍から挑戦しない」と、丁重にお引き取り願った。
 その晩、艦隊司令部はその理由をこう説明した。

 「停戦期間中、民国軍は小銃を頻繁に発し、その後野砲弾もまた狄思威路方面に落下した。停戦期間を利用し便衣隊多数潜入の惧れがあり警戒中だ。避難民の混雑は甚だしい。
  停戦期間延長の提議もあったが、禍根を残すものと認め、これを拒絶した」

 陸戦隊が対峙した第十九路軍は、軍長蔡廷楷さいていかいの下に沈光漢ちんこうかん率いる第六十師約一万一千人、王柄壽おうへいじゅの第六十一師約一万二千、區壽年おうじゅねんの第七十八師一万の計約三万三千の兵力だ。十二日には南京から蒋介石直下の第八十七、八十八師も到着し、その後方に配備された。

 一方陸軍は、小倉の第十二師団から第二十四旅団を基幹隊とする混成第二十四旅団を編成し、七日午後から黄浦江こうほこうを三キロほど下った呉淞ウースンクリーク沿いに上陸した。
 呉淞ウースン黄浦江こうほこうが揚子江へと交わる河口にあたり、ここには上海へ出入りする船舶を睨みつける巨大な砲台が設営されている。つい四日前、この砲台から日本の駆逐艦へ砲弾が撃ち込まれた。今後の作戦を容易にするためにも、この砲台を黙らせねばならない。

 砲台の守備隊は思いのほか手ごわかった。陣地には三線にわたる塹壕を張り巡らせ、そこにまるで “ヒル”のように張り付いたまま抵抗を続けた。上陸した日本軍の背後からは便衣隊の狙撃が襲い掛かった。ここでも日本軍は、どこから飛んでくるか分からない銃弾に恐れおののいた。
 戦闘の続報は割愛するが、結局混成旅団は砲台の敵を蹴散らすことはできなかった。ただその動きを鈍らすことで上海派遣軍本隊となる金沢第九師団の上陸を掩護した。
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