風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

文字の大きさ
395 / 466
第十四章上海事変

第十四章第四十五節(第二回報告書)

しおりを挟む
                四十五

 ここへきてひとつ訂正せねばならないことがある--。

 日本を除く上海領事団からなる調査委員会の「第二回報告書」が二月十二日、ジュネーブで公表された。それによれば、日本の海軍機が閘北ざほくへ爆弾を投じたのは第二回目の停戦協議が物別れに終わった後のことで、二月一日だという。それまではあくまで偵察および“威嚇”が目的で、飛行機に爆弾は搭載していなかった。

 日本の総領事を除いた“欠席裁判”の状態で書かれた報告書にしてそうなのだ。
 では本章第十八節に引用した、一月二十九日付のアーベント記者の記事はいったい何だったのだろうか--? 

 ジュネーブからこれを報じたクラレンス・ストリート記者は、そんなことには一切触れずにしれっと「上海において戦端が開かれたのは(二月)三日のことだ」と書いた。
 図らずもこのことが立証したのは、空爆の始まる前から租界の輿論は「アンチ日本」に染まっていたということだ。
 そこで報告書は別の理由を引っ張り出した。

 「攻撃は完全に日本側から行われた。(中略)そもそも完全なる休戦協定は存在せず、かつ中立国のオブザーバーによる監視が行われていなかったから、協定破りの責任がどちら側に帰するかを判定するのは困難だ。
協定破棄後に状況は極めて悪化した。日本の陸戦隊と在郷軍人らに即決処刑など数知れない“行き過ぎ”があった。日本側に逮捕され、あるいは殺害されたと信じられる多数の華人が行方不明となっている。工部局は二月五日、領事団にこの件を日本側へ照会するよう求めた」
 
 上海の重光葵しげみつまもる公使は「攻撃が日本側から行われた」との記述に対し、「日本側は受けた攻撃に反撃しただけだ」と事実誤認を批判した。また行方不明者は二百七十人に上ると見積もられたが、「華人のことだからいち早く逃亡し、所在の分からなくなった者たちに違いない。仮に行方不明が本当だったにせよ、日本側がこれを殺害したり拘禁したなどと推測されるいわれはない」と反駁した。

 “便衣兵”の処刑は合法か違法か--?
 法律家肌の“天上人てんじょうびと”らによる議論が延々と闘わされ、「日本の残虐性」のみが喧伝された。だが何人なんぴとたりとも “便衣兵”が出没し、老若男女からなる義勇軍が建物の陰から狙撃してくることへの“恐怖”には思いを馳せなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...