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第十五章リース=ロスの幣制改革
第十五章第十節(ロンドン八カ国銀協定)
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十
三二年はまた、合衆国大統領の選挙イヤーに当たった。
選挙戦は現職フーバー大統領の再選が有力視されるなか、民主党の新人フランクリン・デラノ・ルーズベルト候補は関税問題、通貨問題とともに、銀問題の解決を政治綱領に掲げて選挙戦に臨んだ。序盤は大方の予想通りフーバーが有利だったが、中盤から選挙戦は予想外の展開を見せ、地滑り的にルーズベルトが当選する。
すると、またぞろ銀論者たちがうごめきだした。
ルーズベルト新大統領は一九三三年三月四日の就任とともに、選挙公約の実現へ向けて動き出す。そして五月十二日に成立させたのが、「農業救済並びに通貨増発条例」である。同法は、大統領が適切と判断する割合で金銀比率を定める権能を大統領に与えた。また、法の制定から六カ月間、外国政府の米国に対する債務の元利払いを銀で受け入れてもいいという権限も大統領が併せ持った。
こちらの方は実に奇妙な条項で、もともと金で支払えない国が銀なら支払える訳などなく、実質的に何の意味もなさなかった。
前者の権能も実際に発動されることはなかったが、大統領がいつでも銀の価額を左右できるという市場へのアナウンスメント効果を発揮した。
シルバーメンはその後も活発に活動し、筆頭のピットマン上院議員は同年七月にロンドンで開かれた「世界経済会議」に米国代表団の一人として出席している。
国際間の協調により世界恐慌からの脱出を図ろうとした同会議は、却って各国のエゴを露呈する結果に終わったが、銀に関わる利害の大きな諸国間では画期的な取り決めが成立した。
さしものピットマンも会議の空気を読んで複本位制復活を提唱するのは思い止まった。その代わり本会議に対する“分会”に当たる「経済通商委員会」を主導して、メキシコ、カナダ、ペルー、ボリビア、中華民国、スペイン、インドとの間に「ロンドン八カ国銀協定」を締結させた。
銀を巡る初の国際協定となったこの協定は、銀本位制から金本位へ移行したインドやスペインから米国が銀を買い上げ、銀価格の安定を図るというものだ。
これにより合衆国は、翌三四年の元旦から四年間で国内算出銀を毎年二四四〇万オンスずつ買い上げ、主要国合計で三五〇〇万オンスを買い上げることとなった。
シルバーメンはこれに満足せず、さらに暗躍を続けた。金融の世界では、金とドルの交換比率を一オンス=三十五ドルに固定した一九三四年一月の「金準備法」が有名だが、極東の歴史に関する限りは同年六月十九日にルーズベルトが署名した「一九三四年銀買入条例」の方が重要だ。
この条例は合衆国の通貨準備の四分の三を金で、残り四分の一は銀で保有すると定め、その比率に至るまで法定価格で政府が銀を買い上げるよう義務付けた。
実際の買い上げ価格は一オンス=一ドル二十九セント二十九から貨幣鋳造費として五〇パーセントを差し引いた、六十四・五セント。これは当時の市場価格に対して二十一セント高であり、政府が銀産業者に対して五〇パーセントの“プレミアム”を保障することを意味した。
このことが世界の銀価格に大きな影響を及ぼし、取り分け銀本位国の中華民国経済を奈落の底へと引きずり下ろした。
三二年はまた、合衆国大統領の選挙イヤーに当たった。
選挙戦は現職フーバー大統領の再選が有力視されるなか、民主党の新人フランクリン・デラノ・ルーズベルト候補は関税問題、通貨問題とともに、銀問題の解決を政治綱領に掲げて選挙戦に臨んだ。序盤は大方の予想通りフーバーが有利だったが、中盤から選挙戦は予想外の展開を見せ、地滑り的にルーズベルトが当選する。
すると、またぞろ銀論者たちがうごめきだした。
ルーズベルト新大統領は一九三三年三月四日の就任とともに、選挙公約の実現へ向けて動き出す。そして五月十二日に成立させたのが、「農業救済並びに通貨増発条例」である。同法は、大統領が適切と判断する割合で金銀比率を定める権能を大統領に与えた。また、法の制定から六カ月間、外国政府の米国に対する債務の元利払いを銀で受け入れてもいいという権限も大統領が併せ持った。
こちらの方は実に奇妙な条項で、もともと金で支払えない国が銀なら支払える訳などなく、実質的に何の意味もなさなかった。
前者の権能も実際に発動されることはなかったが、大統領がいつでも銀の価額を左右できるという市場へのアナウンスメント効果を発揮した。
シルバーメンはその後も活発に活動し、筆頭のピットマン上院議員は同年七月にロンドンで開かれた「世界経済会議」に米国代表団の一人として出席している。
国際間の協調により世界恐慌からの脱出を図ろうとした同会議は、却って各国のエゴを露呈する結果に終わったが、銀に関わる利害の大きな諸国間では画期的な取り決めが成立した。
さしものピットマンも会議の空気を読んで複本位制復活を提唱するのは思い止まった。その代わり本会議に対する“分会”に当たる「経済通商委員会」を主導して、メキシコ、カナダ、ペルー、ボリビア、中華民国、スペイン、インドとの間に「ロンドン八カ国銀協定」を締結させた。
銀を巡る初の国際協定となったこの協定は、銀本位制から金本位へ移行したインドやスペインから米国が銀を買い上げ、銀価格の安定を図るというものだ。
これにより合衆国は、翌三四年の元旦から四年間で国内算出銀を毎年二四四〇万オンスずつ買い上げ、主要国合計で三五〇〇万オンスを買い上げることとなった。
シルバーメンはこれに満足せず、さらに暗躍を続けた。金融の世界では、金とドルの交換比率を一オンス=三十五ドルに固定した一九三四年一月の「金準備法」が有名だが、極東の歴史に関する限りは同年六月十九日にルーズベルトが署名した「一九三四年銀買入条例」の方が重要だ。
この条例は合衆国の通貨準備の四分の三を金で、残り四分の一は銀で保有すると定め、その比率に至るまで法定価格で政府が銀を買い上げるよう義務付けた。
実際の買い上げ価格は一オンス=一ドル二十九セント二十九から貨幣鋳造費として五〇パーセントを差し引いた、六十四・五セント。これは当時の市場価格に対して二十一セント高であり、政府が銀産業者に対して五〇パーセントの“プレミアム”を保障することを意味した。
このことが世界の銀価格に大きな影響を及ぼし、取り分け銀本位国の中華民国経済を奈落の底へと引きずり下ろした。
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