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第十五章リース=ロスの幣制改革
第十五章第十一節(座談会1)
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十一
これによって肝心の中華民国経済がどうなったかというと--。
案の定、銀行が保有する銀は止めどなく海外へ流出し、準備銀の不足は金融のひっ迫を引き起こした。
南京政府は銀に十パーセントの輸出税をかけたり、平衡税を導入して流出の阻止を試みたが、治外法権を有する外国銀行を抑えることができず、これらの対策は実質的に“ザル”となった。
むしろ、これにともない内外の銀価格差が広がって、却って銀の密輸出が横行する事態すら招いた。
一九三四年の中頃まで上海には六億元近い銀があったのだが、三五年末には約三億三千万元へほぼ半減する。デフレの悪化と金融ひっ迫により、三四年の末から年明けにかけて、各地で取り付け騒ぎが起こった。
上海市場では明華商業、米商美豊(アメリカン・オリエンタル・バンク・コーポレーション)、寧波実業、上海江南、上海国民、大滬、世界、上海国泰、統原などの諸銀行が休業に追い込まれた。中央、中国、交通の三大銀行を除き、ほとんどすべての銀行が取り付けにあったことになる。
奥地農村の疲弊はさらに深刻で、共産匪賊の跋扈やこれに対する国民党軍との戦乱、軍事費調達を理由とした苛斂誅求、信用不安による金利高などが庶民を苦しめ、経済はマヒ状態に陥る。
「実は……」
ひとしきり吉田が話し終えたところで田知花が切り出した。本日の本題だ。
「民国経済の先行きは、在華居留民のみならず、内地の経済界にとって、ひいては日本全体にとって大きな問題です。我々はいま、その最前線にいて、経済の息遣いを肌身で感じている」
田知花が使った「最前線」という言葉に反応して、吉田の目が光った。男たちの好きな言葉である。
「そこで支店長を中心に、上海で活躍する各界の面々を囲んだ座談会を企画したいのですが……」
最後まで言い切らずに相手の反応を待つ。その先の言葉を引き取るならば、脈はある。はぐらかすようならば、深追いはしない。田知花のいつものやり方だ。
吉田の反応はそのどちらでもなく、ただ黙って宙を見た。
何かを素早く導き出そうとしている。一国一城の主として、銀行の支店長がいちいち本店の顔色など窺う必要のなかった時代のことだ。古田の脳裏をよぎったのは、小役人のような自己保身の計算ではなく、自らの発言が引き起こす影響だろう。すでに古田の存在は、上海の金融経済界を大きく動かす力を以ている。その重鎮は、しばしの沈黙の後、おもむろに口を開いた。
「分かりました。やりましょう」
これによって肝心の中華民国経済がどうなったかというと--。
案の定、銀行が保有する銀は止めどなく海外へ流出し、準備銀の不足は金融のひっ迫を引き起こした。
南京政府は銀に十パーセントの輸出税をかけたり、平衡税を導入して流出の阻止を試みたが、治外法権を有する外国銀行を抑えることができず、これらの対策は実質的に“ザル”となった。
むしろ、これにともない内外の銀価格差が広がって、却って銀の密輸出が横行する事態すら招いた。
一九三四年の中頃まで上海には六億元近い銀があったのだが、三五年末には約三億三千万元へほぼ半減する。デフレの悪化と金融ひっ迫により、三四年の末から年明けにかけて、各地で取り付け騒ぎが起こった。
上海市場では明華商業、米商美豊(アメリカン・オリエンタル・バンク・コーポレーション)、寧波実業、上海江南、上海国民、大滬、世界、上海国泰、統原などの諸銀行が休業に追い込まれた。中央、中国、交通の三大銀行を除き、ほとんどすべての銀行が取り付けにあったことになる。
奥地農村の疲弊はさらに深刻で、共産匪賊の跋扈やこれに対する国民党軍との戦乱、軍事費調達を理由とした苛斂誅求、信用不安による金利高などが庶民を苦しめ、経済はマヒ状態に陥る。
「実は……」
ひとしきり吉田が話し終えたところで田知花が切り出した。本日の本題だ。
「民国経済の先行きは、在華居留民のみならず、内地の経済界にとって、ひいては日本全体にとって大きな問題です。我々はいま、その最前線にいて、経済の息遣いを肌身で感じている」
田知花が使った「最前線」という言葉に反応して、吉田の目が光った。男たちの好きな言葉である。
「そこで支店長を中心に、上海で活躍する各界の面々を囲んだ座談会を企画したいのですが……」
最後まで言い切らずに相手の反応を待つ。その先の言葉を引き取るならば、脈はある。はぐらかすようならば、深追いはしない。田知花のいつものやり方だ。
吉田の反応はそのどちらでもなく、ただ黙って宙を見た。
何かを素早く導き出そうとしている。一国一城の主として、銀行の支店長がいちいち本店の顔色など窺う必要のなかった時代のことだ。古田の脳裏をよぎったのは、小役人のような自己保身の計算ではなく、自らの発言が引き起こす影響だろう。すでに古田の存在は、上海の金融経済界を大きく動かす力を以ている。その重鎮は、しばしの沈黙の後、おもむろに口を開いた。
「分かりました。やりましょう」
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