風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第十五章リース=ロスの幣制改革

第十五章第十三節(増資)

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                 十三

 連載第二回目はほぼ吉田の独演会となった。

 「米国の態度が根本問題であって、これが方針を変えない以上、銀高は免れない」

 冒頭から米国の銀政策を批判した吉田は、「国民政府要人は昨年、国内銀を安く誘導するため輸出税や平衡税を導入したが、これら人為策はことごとく失敗に終わり、現在は市場に任せる健全通貨政策をとっている」と、小手先の弥縫策びほうさくが空回りしている現状をあげつらった。
 次いで彼の持論である貨幣制度改革の可能性を仄めかした。
 
 「南京政府は発券制度の統一に着手しており、紙幣発行権を中央、中国、国民の三大銀行に集中する方針」

 孔祥熙こうしょうきは三月二十日、現地の新聞記者を前にして民国財政部が一億元の金融公債を発行し、中央、中国、交通の三大銀行を増資する計画を明かした。
 本章第四節で触れたように、中華民国の貿易収支は本来赤字基調にある。それを華僑や宣教師、駐留軍経費などの外貨流入によって黒字を保ってきた。それが世界大恐慌のあおりを受けて先細りとなり、さらに三一年九月の英国は皮切りに日本や米国が相次ぎ金の輸出を停止。ポンドや円、ドルの為替が下落したことで民国産品の輸出はますます停滞した。
 孔はその理由に増資によってマネーサプライを増やし、これら貿易収支の改善に努めると述べ立てた。

 孔祥熙こうしょうき宋子文そうしぶんは財政金融の話となると、中央政府を頭越しに公然と勝手放題をする。今回の件でも政府トップの汪兆銘おうちょうめい張公権ちょうこうけんなど幹部には何の知らせもないまま、独断で押し切った。
 何より許せないのが、彼らがこうした動きを通じて政府内に於ける派閥の勢力拡大を図らんとする傾向のあることだ。

 今回の増資を通じて三大銀行に対する政府の出資率は四九・一パーセントから七四・五パーセントへ拡大する。建前上は“民間”だったこれら銀行は、名実ともに政府の支配下に置かれることとなる。
 これによって通貨発行権をコントロールしようというのが彼らの計画だった。
 
 具体的には政府の財政上“目の上のたん瘤”にあたる外為専業の中国銀行を、完全に政府配下に置くとともに、現在十三を数える上海の発券銀行から権限を取り上げ、これを中央一行に集中するという。さらに南京政府の支配地域に「不換紙幣※」を導入し、財政を安定化させるとも。
 不換紙幣=金や銀など裏付けとなる貴金属を持たずに政府の“信用”によって発行する紙幣。

 表向きは「ごもっとも」に聞こえるが、彼らの狙いが中国銀行総経理で浙江せっこう財閥のライバルでもある張公権を南京政府から追い落とし、蒋介石派の勢力を拡大しようという点にあるのは誰の目にも明らかだった。しかも現在の民国経済の惨状を考えれば、不換紙幣など到底発行できる訳がない。却って金融、経済の混乱を招くのは必定だ。
 結局、この話は空騒ぎに終わって雲散霧消した。
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