421 / 466
第十五章リース=ロスの幣制改革
第十五章第二十二節(ブロック経済)
しおりを挟む
二十二
国際協調によって泥沼の不景気から脱しようと三三年六月、ロンドンに六十四カ国の代表が集まり「ロンドン世界経済会議」が開かれた。
だが、まさに貧すれば鈍する--だ。
結局会議は各国のエゴのなすりつけ合いとなって事実上空中分解する。これによってワシントン会議以来続いた「国際協調体制」は、名実ともに崩壊した。
世界経済会議が失敗に終わるや英連邦やフランスなど同じ通貨圏を持つ国々が植民地との間に関税同盟を結びつつ、第三国へは関税障壁を設けるなどの「ブロック経済」へとひた走る。
これらはスターリング・ブロックやフラン・ブロックと呼ばれ、それに追随するかたちでドイツのマルクブロックやアメリカのドル・ブロックが形成された。
これらに続いて日本と満洲国も円に基づく「日満経済ブロック」を形成し、第三国へ関税障壁を設ける。これが「門戸開放主義」に反するといって難癖をつけられるが、文句があるなら先ず英国やフランスを非難すべきだ。日本と満洲国は、世界の潮流に乗っただけのことではないか。
ブロック経済では関税の引き上げと並行して自国通貨の切り下げ競争が起こる。為替を安値誘導し、少しでも自国の貿易を優位に立たせようという訳だ。みんなで“安売り”を競うから、みんなが“貧乏”へ向かってひた走る。これを「近隣窮乏化政策」と呼ぶ。
この時期は互いに他国を“出し抜こう”と躍起になるから、信頼とか協調よりも“疑心暗鬼”の念が先に立った。
本来なら歓迎されるべき日華親善の「廣田外交」や英国から持ち掛けられた民国向け共同借款も、このムードに乗って色々裏読みされて、不本意な輿論を盛り上げた。
とくにワシントンに端を発した米英提携論は南京政府内の派閥争いにも跳ね返って、ますます話をよじらせた。
三菱銀行上海支店長の吉田政治と入魂の間柄になった宋子文だが、彼も孔祥熙もアメリカで高等教育を受けた英米派だ。片や広東派の唐有壬は日本留学を通じて“近代化”を学び、汪兆銘も強いて言えばフランス留学経験のある親日派だ。
彼らを束ねるはずの蒋介石は孫文の斡旋で越後高田の砲兵聯隊に留学した経験を持つが、留学中の彼の態度は決して真面目と呼べるものではなく、途中で帰国もしてしまったから“親日派”と呼ぶには値しない。
それでも汪兆銘との連立政権では「対日融和政策」に軸足を置いたから、この時期に限って言えば「日本寄り」と言っても差し支えない。
老獪な英国は一面で日本との協調を打ち上げておきながら、南京公使に転じたアレクサンダー=カドガンから実現の見込みも立たない共同借款供与をさも成立しそうな口ぶりで囁き、南京政府内の欧米派を調子づかせた。
汪兆銘は表向きで経済の自立更生を掲げたが、共同借款がちらつくと大陸特有の依存心が頭をもたげた。政府内の親日派、欧米派間の派閥争いが相まって、事態は猫の目のように目まぐるしく変わっていく。
国際協調によって泥沼の不景気から脱しようと三三年六月、ロンドンに六十四カ国の代表が集まり「ロンドン世界経済会議」が開かれた。
だが、まさに貧すれば鈍する--だ。
結局会議は各国のエゴのなすりつけ合いとなって事実上空中分解する。これによってワシントン会議以来続いた「国際協調体制」は、名実ともに崩壊した。
世界経済会議が失敗に終わるや英連邦やフランスなど同じ通貨圏を持つ国々が植民地との間に関税同盟を結びつつ、第三国へは関税障壁を設けるなどの「ブロック経済」へとひた走る。
これらはスターリング・ブロックやフラン・ブロックと呼ばれ、それに追随するかたちでドイツのマルクブロックやアメリカのドル・ブロックが形成された。
これらに続いて日本と満洲国も円に基づく「日満経済ブロック」を形成し、第三国へ関税障壁を設ける。これが「門戸開放主義」に反するといって難癖をつけられるが、文句があるなら先ず英国やフランスを非難すべきだ。日本と満洲国は、世界の潮流に乗っただけのことではないか。
ブロック経済では関税の引き上げと並行して自国通貨の切り下げ競争が起こる。為替を安値誘導し、少しでも自国の貿易を優位に立たせようという訳だ。みんなで“安売り”を競うから、みんなが“貧乏”へ向かってひた走る。これを「近隣窮乏化政策」と呼ぶ。
この時期は互いに他国を“出し抜こう”と躍起になるから、信頼とか協調よりも“疑心暗鬼”の念が先に立った。
本来なら歓迎されるべき日華親善の「廣田外交」や英国から持ち掛けられた民国向け共同借款も、このムードに乗って色々裏読みされて、不本意な輿論を盛り上げた。
とくにワシントンに端を発した米英提携論は南京政府内の派閥争いにも跳ね返って、ますます話をよじらせた。
三菱銀行上海支店長の吉田政治と入魂の間柄になった宋子文だが、彼も孔祥熙もアメリカで高等教育を受けた英米派だ。片や広東派の唐有壬は日本留学を通じて“近代化”を学び、汪兆銘も強いて言えばフランス留学経験のある親日派だ。
彼らを束ねるはずの蒋介石は孫文の斡旋で越後高田の砲兵聯隊に留学した経験を持つが、留学中の彼の態度は決して真面目と呼べるものではなく、途中で帰国もしてしまったから“親日派”と呼ぶには値しない。
それでも汪兆銘との連立政権では「対日融和政策」に軸足を置いたから、この時期に限って言えば「日本寄り」と言っても差し支えない。
老獪な英国は一面で日本との協調を打ち上げておきながら、南京公使に転じたアレクサンダー=カドガンから実現の見込みも立たない共同借款供与をさも成立しそうな口ぶりで囁き、南京政府内の欧米派を調子づかせた。
汪兆銘は表向きで経済の自立更生を掲げたが、共同借款がちらつくと大陸特有の依存心が頭をもたげた。政府内の親日派、欧米派間の派閥争いが相まって、事態は猫の目のように目まぐるしく変わっていく。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【新作】1分で読める! SFショートショート
Grisly
ファンタジー
❤️⭐️感想お願いします。
1分で読める!読切超短編小説
新作短編小説は全てこちらに投稿。
⭐️忘れずに!コメントお待ちしております。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる