風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第十五章リース=ロスの幣制改革

第十五章第十六節(バーンビー使節団1)

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                十六

 昭和十(三五)年の二月、ロンドンでは満洲国顧問で英国政府との連絡役を担うアーサー・エドワーズと大蔵省事務次官のウォーレン・フィッシャー卿が前年暮に断った南京政府からの借款申入れを再度俎上に乗せて、議論を交わしていた。

 中華民国経済はいま、自然災害にともなう農業や商工業の不振や共産党討伐にかかる軍事支出の増大、もともともろかった輸出産業が貿易相手国の為替低落によってさらに脆弱となるなど、瀕死の状態にあった。そこに米国の銀政策が相まって、国内からの銀塊流出は一向に歯止めがかからす、通貨の収縮に起因するデフレーションが一層深刻の度を増していた。

 民国の窮状をこのまま放ってはおけない--。
 折から満洲と日本への歴訪を終えたエドワーズが日本側の認識を伝えると、フィッシャーも食指を動かした。イギリス一国では借款に応じかねるものの、日本やアメリカとの協調が成り立つならば話は別だ。
二人は掛け値なしの善意から、民国経済立て直しの構想を練ることにした。

 三三年二月の国際聯盟総会で脱退を通告した日本だが、聯盟規約は脱退の通告から二年間は聯盟に籍を置くことを義務付けている。従って名実ともに日本が聯盟から脱退したのは三五年のこととなる。

 「国際協調体制」に背を向けた日本は“世界の孤児”となったはずなのだが、そんな日本と国交を断絶した国はひとつもなかった。
 それどころか日本がまだ「満洲国」建国を宣言した段階で、フランスの投資家が新首都のインフラ建設に一枚めないかと投資意欲を燃やしてきた。このときはまだ満洲国側が「具体的な計画が決まっていない」との理由で

 次いで昭和九(三四)年の七月十六日、ロンドンの松平恒雄まつだいらつねお大使の許へ一人の紳士が訪ねて来た。紳士の名前はハーバート・スコット卿。人生の大半を軍人として過ごした人物だが、この時期は「英国産業協会(The Federation of British Industries)」の会頭という地位にあった。
 スコット卿は松平へ一通の書簡を持参し、その趣旨を説明した。書面にはこうあった。

 「当協会はこの度、英国の実業界や政財界がいかなる方面において満洲国発展に寄与できるか、現地の地方実業家らと協力し得るかを視察すべく、満洲国へ『産業使節団』を派遣することとなりました。
 なお視察団は日英実業家同士の親善関係を助長する目的をもって、日本へも訪問したいと考えております」

 スコット卿によれば、使節団は建て前こそ民間の“産業使節団”となっているものの、同時に日英および英国と満洲国の友好関係を増進する目的を内包している。政府当局はもちろん、「プリンス・オブ・ウエールズ」も熱心に関心をよせておられるとのこと。
 この点は使節団に随行する満洲国顧問のアーサー・エドワーズも、満洲国外交部次長に出向中の大橋忠一前ハルビン領事へ宛てた書簡の中で裏書きしている。

 これが世にいう「バーンビー使節団」の派遣となる。
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