風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第十五章リース=ロスの幣制改革

第十五章第十九節(綿産業)

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                 十九

 バーンビー使節団やエドワード、フィッシャーような“親日”がいれば、当然のことながら“アンチ”もいる。
 かつて同盟国だった英国における反日輿論の起源は単純だ。
 第一次大戦の勃発とともにヨーロッパの生産活動は多くが軍需品の生産に転じられた。大戦前は世界最大の綿製品の生産地だったランカシャー地方の綿工業も同じく軍需品の供給にシフトしたから、彼らの既存の市場へ日本やインドの綿製品が入っていった。

 供給が追い付かないから代替品が広まっただけのことなのだが、彼らにしてみれば「同盟国と思っていたら“火事場泥棒”を働きやがった」--ということになる。その商売敵への恨みつらみは、この地方を地盤とする『マンチェスター・ガーディアン』紙の論調に色濃く表われた。
 第十四章で取り上げた「対華二十一箇条問題」を巡って、ロンドンの新聞が総じて日本の政策に肯定的だったのに引き換え、同紙が一貫して「アンチ日本」の旗印を貫いたのも、こうした事情を抜きには語れない。

 しかも大戦が終わってヨーロッパの生産が旧態に復した後も、さほど製品の“品質”を問われない綿製品は“価格”がモノを言った。大戦に先立って英国綿製品の最大の贔屓ひいき客だったインドは「国産品愛用運動」を叫んで英国離れを起こしていたし、大戦がはじまるとともに安価な日本製綿布や綿糸が瞬く間に世界を席巻したから、ランカシャー地方の綿工業は見る影もなく衰退した。

 『マンチェスター・ガーディアン』紙の反日論調はそんな極めて地方色の濃い個別事情に基づくものだったが、バーンビー使節団の頃には別の事情もあって、ロンドン方面へも「アンチ日本」が広がっていく。
 在英大使の松平恒夫は、そうした輿論を代表する人物にヤン・スマッツ将軍とロジアン侯爵フィリップス・ヘンリー・カーという人物の名を挙げている。日本人にはまったく聞き覚えのない名前だが、それもそのはず、彼らは生涯を通じて極東とは一切かかわりを持ったことのない吾人ごじんなのだから……。

 日本にもお馴染みの反日論者を強いて挙げるなら、我らがヴィクター・リットン卿を忘れてはならない。
 “公平”を期して書いたはずの報告書が日華双方から“総スカン”を食らった彼はスッカリ面食らって、その後、英米の各地をまわって対日輿論の形成に尽力する。
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