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悪い子リリはどこへいく
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「閻魔さま、僕はやっぱり地獄行きですか……?」
リリは震えていた。何もない空間にいるのはーー否、あるのは二つの魂だけだった。体を失ったリリの前、禍々しい魂が浮かんでいる。
リリは、ここがどこなのか知っていた。体があった頃ーー生きていた頃にある人に言われたことがある。お前みたいな悪い子は、死んだら地獄に落ちるのだと。
閻魔さまは、ゆらゆら魂を震わせ音を響かせた。
「お主は生前、人々に悪戯ばかりしていたようだな」
「ご、ごめんなさい……だから許して下さい」
リリは歩んできた短い人生を思い起こす。物心ついた時から親はいなかった。遠い親戚と暮らしていたが、ほとんど世話をされた記憶はない。その鬱憤を晴らす為に、悪戯を始めたのが最初だった。
「まずは、お主が生前していた悪いことを聞かせてもらおうか」
「……ぼ、僕は……」
リリは罪として胸に残る、様々な悪事を巡らせる。例えば、誰かのお菓子を勝手に食べたり、壁に落書きしたり、はたまた接着剤をドアノブに塗ったり、死角から大声で飛び出したり。そんな悪戯を誰彼構わず仕掛けた。それで誰かが驚いたり、怒ったりするのが愉快で仕方なかったのだ。
そんなこんなで悪戯を続けていたら、十四才になる前に事故で命を失った。その事故だって、通行人を驚かせる為に物陰から飛び出したゆえ、起こった事故だった。
リリは思う。もっと良い子でいれば良かったと。悪いことをしても意味なんてなかったと。
「閻魔さま、どうか悪い子の僕を許して下さい……」
「閻魔さま、か。そう呼ばれるのもいつぶりか……」
「え、間違ってましたか……」
閻魔さまの挟んできた妙な呟きに首を傾げる。リリには呟きの意味が分からなかったーー知る必要もなかったようだが。
「いや、別にそれでいい。では次の質問だ。どうしてそんな悪戯ばかりをした?」
新しい質問が投げられ、リリの意識は再び過去へ戻る。悪戯の理由など特に思いつかなかった。あえて言葉にするならば、反応が面白かったから? いや、それも少し違う気がする。
最早、悪戯はルーティンで、リリにとっては不可欠なものでもあった。答えにするならばこの方が合っているように思う。しかし、リリは答えを言葉に置き換えられなかった。ゆえに、気は引けたが腑に落ちない方を回答にする。
「お、面白かったからです……」
「なにがだ?」
「み、皆が怒ったり驚いたりするのが。あと追いかけてきたりとかも……本当にごめんなさい!」
「なんでそんなものが面白いのだ? 悪戯じゃなくても面白いことはあっただろう?」
「ええと……」
閻魔さまが一体何を聞きたいのか、リリには全く分からなかった。だが、改めて考えると、何が楽しくて悪戯していたのか自分でも不思議になる。リリは"なぜ悪戯だったのか"、じっくり考えてみることにした。
悪戯一つで、意識が自分に向く。顔がコロッと変わる。リリは笑ってその場から逃げ出す。辺りは騒がしくなって、お仕置きしようとリリを追いかける。コントのように大袈裟な反応や行動は、人の数だけ存在した。
その反応が見られる時ーーその時がリリは好きだった。面白くてーーそれだけじゃない。楽しくて好きだった。
その悪戯がなかったら? そんな人生をシュミレーションし、リリは気付く。なぜ、自分が悪戯ばかりしてしまったのか。
「そっか、僕は寂しかったんだ……」
家にいても、いつも一人ぼっちだった。だから外に出て色々な悪戯をしていた。関心が向くのが嬉しくて、何度も人々を怒らせた。またリリなのか!と言って、追いかけられるのが嬉しかった。
「ただ僕は構われたかったんだ……」
存在を知ってほしい。目を向けてほしい。声を掛けられたい。名前を呼ばれたい。触れてほしい。
抱き締めてほしい。心配されたい。大切だよと言われたい。愛されたい。ただ愛されたい。
いつしか捨ててしまった感情が蘇り、魂は震える。悪戯をやめていれば愛されていただろうか。なんて今さらなことを思った。
「そうか……」
閻魔さまは魂の行き先を決めたのか、静かになった。地獄行きだと聞こえる未来を見る。
「もし来世があったら、良い子で生きると誓えるか?」
「誓います。もう悪い子にはなりません」
「よし、お主の行き先が決まった」
どうか地獄行きだけは止めて下さいーー願うリリに判決が下った。
「お主にはこれから、再び蘇ってもらう」
描いた未来と違う言い渡しに、一瞬唖然とする。だが、すぐにその意味を理解した。恐らく、もう一度同じ人生を生きろと言うことだろう。しかも今度は悪戯なしで。
あんなに寂しい日々に戻るのは、地獄よりも辛いかもしれない。
「しかしリリとしてではない。別の者の人生を引き継いでだ。まぁ詳しいことは目覚めれば分かるだろう」
適当に説明され、リリは絶望を感じた。悪い子はバツを受ける。だからきっと、リリだった頃よりも酷い人生を送らされてしまうに違いない。想像すると怖くて堪らなくなった。
「さて、リリよ。お主は重ーい罰を受けなければならない。だから、最後に一回、悪戯することを命じる」
「えっ、そんな」
「そこから人生を建て直すがいい。因みに守らなかったら怖ーい怖ーいお仕置きだ」
悪戯はしないと誓った矢先、しろと命令され崖に立たされた気分になる。閻魔さまは嘲笑うかのように、最後の一文を復唱した。重い罰も怖い仕置きも嫌だ。だが、悪い子のリリに逃げる道などなかった。
「そうだな、目覚めたらすぐに大声で飛び起きて驚かすのがいいな。特別に人を待機させておいてやろう」
「そんなぁ……」
そのあとすぐ、リリの魂はゆっくりと消滅した。
リリは震えていた。何もない空間にいるのはーー否、あるのは二つの魂だけだった。体を失ったリリの前、禍々しい魂が浮かんでいる。
リリは、ここがどこなのか知っていた。体があった頃ーー生きていた頃にある人に言われたことがある。お前みたいな悪い子は、死んだら地獄に落ちるのだと。
閻魔さまは、ゆらゆら魂を震わせ音を響かせた。
「お主は生前、人々に悪戯ばかりしていたようだな」
「ご、ごめんなさい……だから許して下さい」
リリは歩んできた短い人生を思い起こす。物心ついた時から親はいなかった。遠い親戚と暮らしていたが、ほとんど世話をされた記憶はない。その鬱憤を晴らす為に、悪戯を始めたのが最初だった。
「まずは、お主が生前していた悪いことを聞かせてもらおうか」
「……ぼ、僕は……」
リリは罪として胸に残る、様々な悪事を巡らせる。例えば、誰かのお菓子を勝手に食べたり、壁に落書きしたり、はたまた接着剤をドアノブに塗ったり、死角から大声で飛び出したり。そんな悪戯を誰彼構わず仕掛けた。それで誰かが驚いたり、怒ったりするのが愉快で仕方なかったのだ。
そんなこんなで悪戯を続けていたら、十四才になる前に事故で命を失った。その事故だって、通行人を驚かせる為に物陰から飛び出したゆえ、起こった事故だった。
リリは思う。もっと良い子でいれば良かったと。悪いことをしても意味なんてなかったと。
「閻魔さま、どうか悪い子の僕を許して下さい……」
「閻魔さま、か。そう呼ばれるのもいつぶりか……」
「え、間違ってましたか……」
閻魔さまの挟んできた妙な呟きに首を傾げる。リリには呟きの意味が分からなかったーー知る必要もなかったようだが。
「いや、別にそれでいい。では次の質問だ。どうしてそんな悪戯ばかりをした?」
新しい質問が投げられ、リリの意識は再び過去へ戻る。悪戯の理由など特に思いつかなかった。あえて言葉にするならば、反応が面白かったから? いや、それも少し違う気がする。
最早、悪戯はルーティンで、リリにとっては不可欠なものでもあった。答えにするならばこの方が合っているように思う。しかし、リリは答えを言葉に置き換えられなかった。ゆえに、気は引けたが腑に落ちない方を回答にする。
「お、面白かったからです……」
「なにがだ?」
「み、皆が怒ったり驚いたりするのが。あと追いかけてきたりとかも……本当にごめんなさい!」
「なんでそんなものが面白いのだ? 悪戯じゃなくても面白いことはあっただろう?」
「ええと……」
閻魔さまが一体何を聞きたいのか、リリには全く分からなかった。だが、改めて考えると、何が楽しくて悪戯していたのか自分でも不思議になる。リリは"なぜ悪戯だったのか"、じっくり考えてみることにした。
悪戯一つで、意識が自分に向く。顔がコロッと変わる。リリは笑ってその場から逃げ出す。辺りは騒がしくなって、お仕置きしようとリリを追いかける。コントのように大袈裟な反応や行動は、人の数だけ存在した。
その反応が見られる時ーーその時がリリは好きだった。面白くてーーそれだけじゃない。楽しくて好きだった。
その悪戯がなかったら? そんな人生をシュミレーションし、リリは気付く。なぜ、自分が悪戯ばかりしてしまったのか。
「そっか、僕は寂しかったんだ……」
家にいても、いつも一人ぼっちだった。だから外に出て色々な悪戯をしていた。関心が向くのが嬉しくて、何度も人々を怒らせた。またリリなのか!と言って、追いかけられるのが嬉しかった。
「ただ僕は構われたかったんだ……」
存在を知ってほしい。目を向けてほしい。声を掛けられたい。名前を呼ばれたい。触れてほしい。
抱き締めてほしい。心配されたい。大切だよと言われたい。愛されたい。ただ愛されたい。
いつしか捨ててしまった感情が蘇り、魂は震える。悪戯をやめていれば愛されていただろうか。なんて今さらなことを思った。
「そうか……」
閻魔さまは魂の行き先を決めたのか、静かになった。地獄行きだと聞こえる未来を見る。
「もし来世があったら、良い子で生きると誓えるか?」
「誓います。もう悪い子にはなりません」
「よし、お主の行き先が決まった」
どうか地獄行きだけは止めて下さいーー願うリリに判決が下った。
「お主にはこれから、再び蘇ってもらう」
描いた未来と違う言い渡しに、一瞬唖然とする。だが、すぐにその意味を理解した。恐らく、もう一度同じ人生を生きろと言うことだろう。しかも今度は悪戯なしで。
あんなに寂しい日々に戻るのは、地獄よりも辛いかもしれない。
「しかしリリとしてではない。別の者の人生を引き継いでだ。まぁ詳しいことは目覚めれば分かるだろう」
適当に説明され、リリは絶望を感じた。悪い子はバツを受ける。だからきっと、リリだった頃よりも酷い人生を送らされてしまうに違いない。想像すると怖くて堪らなくなった。
「さて、リリよ。お主は重ーい罰を受けなければならない。だから、最後に一回、悪戯することを命じる」
「えっ、そんな」
「そこから人生を建て直すがいい。因みに守らなかったら怖ーい怖ーいお仕置きだ」
悪戯はしないと誓った矢先、しろと命令され崖に立たされた気分になる。閻魔さまは嘲笑うかのように、最後の一文を復唱した。重い罰も怖い仕置きも嫌だ。だが、悪い子のリリに逃げる道などなかった。
「そうだな、目覚めたらすぐに大声で飛び起きて驚かすのがいいな。特別に人を待機させておいてやろう」
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そのあとすぐ、リリの魂はゆっくりと消滅した。
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