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終わる前に、一度だけでいいんだ
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本拠地に近付くほど、戦闘が増える。比例して緊張も高まってゆく。初めは少なかった、仲間との混戦も幾度とあった。
僕らは必死で駆け回り、何人もの敵兵を殺した。傷も増え、心身ボロボロだ。
「……アルルテ、大丈夫?」
木陰に身を隠し、周囲の安全を確認する。すぐさま右から返事が来た。
「大丈夫よ。転んで少し擦りむいたくらい。戻りましょう」
一足早く安全を見極めたのだろう。アルルテは立ち、歩き出す。ただ、やけに急いている様子が気になった。
ふと、死角側に違和感を察知した。先ほどは無かった何かが見え、反射的に振り向いてしまう。
そこには、重なった二つの遺体があった。同じ制服を着ていることから、仲間だと分かった。顔は全く知らなかったが。
こんなことはよくある話だ。しかし、今日はどうしてか強く胸が痛む。姿が、自分達と重なったからかもしれない。
アルルテが早く場を去りたがったのも、その所為だろう。
「待ってアルルテ、早いよ」
去りゆく背中を追う。ふと、また逆の方向に違和感を察知した。今度こそ、全く見慣れない何かだ。
遠くに――しかし、行けなくもない距離に――珍しい色を見つけた。ポツンと一つだけある。茶でも青でも、灰でも赤でもない色だ。多分、知識の中には無い色である。
花、だろうか。
目を細めてみたが、形まで捉えられなかった。
伝えるべきか迷ったが、不確定な段階では躊躇ってしまう。花でなかった場合、激しく落胆させるだろうから。
必然と思えるような、案が降ってきた。――夜ならば、密かに近付けるかもしれない。
*
音一つ立てないよう、眠るアルルテに背を向ける。
「……どうしたの?」
だが、声で止められた。裾から、小さな力まで伝わってきた。
気配に敏感な僕らに、安眠と言うものはない。だからこれは想定内だ。
振り向くと、アルルテは不安げな顔をしていた。
「えーっと、なんだか傷が痛くなってきちゃって、薬草でも探そうかと。起こした?」
「ううん、眠れなかった。色々考え出したら止まらなくなっちゃって。明日やっぱり死ぬのかなーとか、死って怖いのかなーとか。今更な話よね」
僕らは明日、本拠地に乗り込む。他の仲間たちと合流し、捨て身の一斉攻撃を仕掛けるのだ。
所謂、人生の終焉を迎えにいくことにもなる。そうなれば不安になるのは当然だろう。
「そんなことない。口に出さないだけで僕だって怖いし、きっと皆も怖いよ」
「ニイチはいつも優しいのね。そんな貴方にはあの花を……えっとなんて名前だったかしら?」
置いてあった本を、アルルテは持ち上げる。ページを捲る手は震えていた。
「忘れちゃった?」
「実は緊張しすぎて頭真っ白なの」
言いながら笑ってもくれたが、硬さまでは拭えていなかった。本に向き直った瞳が、文字を見ていないのは明らかだった。
花を見つけて渡せば、緊張も少しは和らぐだろう。本物の笑顔も見られるかもしれない。
「じゃあ、探してくるからアルルテは寝てて。花のことは明日、戦いが終わったら教えてくれればいいから」
わざと、言葉に未来を含めた。そんな気休めに、意味なんてないけど。
明日なんて来なきゃいいのに。
逃げるように、早足で歩んだ。
*
夜間は皆休息しているのか、監視の目が緩くなる。しかし、それを良いことに警戒を薄めては命取りに成りかねない。
薄暗い世界は、昼間よりも不明瞭だ。だが、色のあった場所は大方見当が付いており、迷子の心配はなかった。
ただ、一心に進む。色が花であることを願って。
渡した時の表情を描いて。心について語りだす声を思って。
何時間経っただろう。いや、実はそれほど経っていないかもしれない。しかし、緊張で全身汗だくだった。
だが、目的地には着いた。木陰の隙間を、まるで導くように月光が照らしている。色のある場所だ。
駆け寄り、近付く。地に近い場所、それは小さく咲いていた。花だ。聞いていた特徴や、挿し絵を思いだし確信した。
光を遮る自分の影が邪魔だ。取り去ろうと花を摘み、再確認も兼ね月光の元に掲げた。
初めて見る花は可愛らしく、美しくもあった。
早く帰って、アルルテに――。
「ニイチ、危ない!」
聞こえた声にハッとなり、顔をあげる。気の緩みに気付き、しまったと翻った。
僕らは必死で駆け回り、何人もの敵兵を殺した。傷も増え、心身ボロボロだ。
「……アルルテ、大丈夫?」
木陰に身を隠し、周囲の安全を確認する。すぐさま右から返事が来た。
「大丈夫よ。転んで少し擦りむいたくらい。戻りましょう」
一足早く安全を見極めたのだろう。アルルテは立ち、歩き出す。ただ、やけに急いている様子が気になった。
ふと、死角側に違和感を察知した。先ほどは無かった何かが見え、反射的に振り向いてしまう。
そこには、重なった二つの遺体があった。同じ制服を着ていることから、仲間だと分かった。顔は全く知らなかったが。
こんなことはよくある話だ。しかし、今日はどうしてか強く胸が痛む。姿が、自分達と重なったからかもしれない。
アルルテが早く場を去りたがったのも、その所為だろう。
「待ってアルルテ、早いよ」
去りゆく背中を追う。ふと、また逆の方向に違和感を察知した。今度こそ、全く見慣れない何かだ。
遠くに――しかし、行けなくもない距離に――珍しい色を見つけた。ポツンと一つだけある。茶でも青でも、灰でも赤でもない色だ。多分、知識の中には無い色である。
花、だろうか。
目を細めてみたが、形まで捉えられなかった。
伝えるべきか迷ったが、不確定な段階では躊躇ってしまう。花でなかった場合、激しく落胆させるだろうから。
必然と思えるような、案が降ってきた。――夜ならば、密かに近付けるかもしれない。
*
音一つ立てないよう、眠るアルルテに背を向ける。
「……どうしたの?」
だが、声で止められた。裾から、小さな力まで伝わってきた。
気配に敏感な僕らに、安眠と言うものはない。だからこれは想定内だ。
振り向くと、アルルテは不安げな顔をしていた。
「えーっと、なんだか傷が痛くなってきちゃって、薬草でも探そうかと。起こした?」
「ううん、眠れなかった。色々考え出したら止まらなくなっちゃって。明日やっぱり死ぬのかなーとか、死って怖いのかなーとか。今更な話よね」
僕らは明日、本拠地に乗り込む。他の仲間たちと合流し、捨て身の一斉攻撃を仕掛けるのだ。
所謂、人生の終焉を迎えにいくことにもなる。そうなれば不安になるのは当然だろう。
「そんなことない。口に出さないだけで僕だって怖いし、きっと皆も怖いよ」
「ニイチはいつも優しいのね。そんな貴方にはあの花を……えっとなんて名前だったかしら?」
置いてあった本を、アルルテは持ち上げる。ページを捲る手は震えていた。
「忘れちゃった?」
「実は緊張しすぎて頭真っ白なの」
言いながら笑ってもくれたが、硬さまでは拭えていなかった。本に向き直った瞳が、文字を見ていないのは明らかだった。
花を見つけて渡せば、緊張も少しは和らぐだろう。本物の笑顔も見られるかもしれない。
「じゃあ、探してくるからアルルテは寝てて。花のことは明日、戦いが終わったら教えてくれればいいから」
わざと、言葉に未来を含めた。そんな気休めに、意味なんてないけど。
明日なんて来なきゃいいのに。
逃げるように、早足で歩んだ。
*
夜間は皆休息しているのか、監視の目が緩くなる。しかし、それを良いことに警戒を薄めては命取りに成りかねない。
薄暗い世界は、昼間よりも不明瞭だ。だが、色のあった場所は大方見当が付いており、迷子の心配はなかった。
ただ、一心に進む。色が花であることを願って。
渡した時の表情を描いて。心について語りだす声を思って。
何時間経っただろう。いや、実はそれほど経っていないかもしれない。しかし、緊張で全身汗だくだった。
だが、目的地には着いた。木陰の隙間を、まるで導くように月光が照らしている。色のある場所だ。
駆け寄り、近付く。地に近い場所、それは小さく咲いていた。花だ。聞いていた特徴や、挿し絵を思いだし確信した。
光を遮る自分の影が邪魔だ。取り去ろうと花を摘み、再確認も兼ね月光の元に掲げた。
初めて見る花は可愛らしく、美しくもあった。
早く帰って、アルルテに――。
「ニイチ、危ない!」
聞こえた声にハッとなり、顔をあげる。気の緩みに気付き、しまったと翻った。
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