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第九話
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赤ずきんは、夕方になるにつれて影が増え、さらにぶきみになった森をものともせず、いつも通り歩いていた。
ちなみにぶきみになった森というのは、オオカミが出ることを怖がって、動物たちが立ち寄らないあの森の事である。
そんな、動物たちも怖がるぶきみな通路を抜けると、そこにはきれいな夕焼け空が見える森があった。
そこに着くと、動物たちもちらほら姿を見せ始める。
空を見ながら足を踏み入れた赤ずきんの前に、さっそくキツネのロイが顔を見せた。
「赤ずきん!今日も楽しかったかい?」
ロイは男しゃくのような喋り方で、赤ずきんに訊ねた。
「あらロイ、今日もわざわざお迎えに来てくれたの?」
赤ずきんが言うとおり、ロイはこうして帰ってくるといつもそう訊ねてくれる。
「あぁそうだよ、いつも赤ずきんがちゃんと帰って来るか心配しているんだ」
「全然大丈夫よ、だから心配無用!」
赤ずきんはきっぱり言い切ると、握りこぶしを作り、親指を上げてロイの前へと突き出した。表情は勝ちほこったような笑顔だ。
「相変わらず強いなぁ」
ロイが感心していると、赤ずきんの後ろから小さく声が聞こえて来た。
「いつか痛い目にあってもしらないぞ…?」
赤ずきんが後ろを振り向くと、木の後ろに隠れてチトが赤ずきんを見ていた。木に隠れているのは、今朝赤ずきんに痛い目に合わされたからだろう。
赤ずきんも今朝の事を思い出して、八重歯を光らせ言う。
「あら、あんたやっぱり食べられたかったの?」
その一言でチトは、さっさかとどこかへ逃げていってしまった。
「いじわるだな、赤ずきん」
ロイがくすくす笑うと、赤ずきんもえっへんと笑った。
「そうかしら?」
「だがそれがいい」
「分かってるじゃないの」
そう言って強く笑うと、これまた上空から声が聞こえて来た。
「赤ずきん」
赤ずきんは直ぐに、声のする方を見上げる。
「カナ」
そこには、カナリアのカナが居た。カナは心配そうな顔をして、声を漏らす。
「今日もオオカミには食べられなかったみたいだね、良かったぁ…」
「それどころか一緒にお茶をしたわ」
赤ずきんがびっくりさせようと今日の出来事を話すと、思った通りカナはびっくりしていた。だが、
「えっ?赤ずきん冗談強いって!」
「冗談じゃないってば」
「でもオオカミは肉食でとっても怖いやつなんだよ!?ちゃんと気をつけなきゃ本当に食べられちゃうかもしれないんだよ!?」
その話を、信じてくれていないようだった。
「大丈夫、大丈夫」
赤ずきんにしてみれば、何で皆がそうもオオカミを恐れているのかの方が分からなかった。
きっと、何も考えていないのに感じてしまう¨潜在意識¨によるものだとは思うのだが。
「もー、赤ずきんのんきすぎるよー」
だがそれにしても、恐れすぎではないのだろうか。
赤ずきんはあの弱虫オオカミが、そんなふうに誤解されている事を少しかわいそうに思った。
◇
動物たちに見送られながら家に帰ると、母親が夕食の準備をしている所だった。父親も仕事が終わって帰って来ていて、母親の準備を手伝っている。
この二人は実に仲がいい。赤ずきんが嬉しくなる位、いい恋人だと思う。
赤ずきんも、もらった手みやげを机に置くと、両親の横に立って料理の手伝いを始めた。
あっという間にご飯の準備ができると、三人は夕食を開始し始めた。
「今日も楽しかったか?」
食べ物を噛みながら、という行儀のわるさで言ったのは父親だった。だがその自由さはいつもの事だったので、赤ずきんは軽く流した。父親は陽気な人である。
「えぇ、今日はお茶をしたのよ」
「そうか、それでこのごちそうってことだな」
料理の種類がいつもよりも多いテーブルを見て、父親は何度かうなづく。
「おばあさんは料理が上手だものね」
母親はおしとやかに笑った。そんな母親は大人しい人である。だから赤ずきんは、自分はどちらかというと父親に似ていると思っている。
「えぇ、オオカミも一緒にお茶したんだから」
赤ずきんが少し誇らしく笑うと、父親は満面の笑顔で口を吊り上げる。
「オオカミも?はは、そりゃ面白いなー」
だが、その笑顔が勘違いから来ていると分かり、赤ずきんは少し頬を膨らませた。
「お父さん、冗談だと思ってるでしょ」
「いやいや、思ってないよ」
「絶対思ってるわ」
そんな二人の楽しそうな言い合いを、静かに見ながら母親はほほえんでいた。
「でもおばあさんも、変わらず元気そうで良かったわ」
どうしておばあさんの様子が分かるかと言うと、赤ずきんがいつもと変わらないからだった。
おばあさんに何かあれば、赤ずきんは機嫌が悪いか落ち込んでいるかのどっちかなのだ。
「えぇ、私おばあさんがいてくれないと寂しくてしんじゃうわ、きっと」
その愛の告白を聞いて、うらやましそうにしたのは父親だった。そして一言呟く。
「おばあさんは愛されてていいなー」
そんな風に言った父親に、赤ずきんは恥ずかしがらずにさらりと気持ちを伝えた。
「あら、もちろんお父さんの事もお母さんの事も好きよ」
「「ありがとう」」
同時に答えた父親と母親は、目を見合わせて笑った。
ちなみにぶきみになった森というのは、オオカミが出ることを怖がって、動物たちが立ち寄らないあの森の事である。
そんな、動物たちも怖がるぶきみな通路を抜けると、そこにはきれいな夕焼け空が見える森があった。
そこに着くと、動物たちもちらほら姿を見せ始める。
空を見ながら足を踏み入れた赤ずきんの前に、さっそくキツネのロイが顔を見せた。
「赤ずきん!今日も楽しかったかい?」
ロイは男しゃくのような喋り方で、赤ずきんに訊ねた。
「あらロイ、今日もわざわざお迎えに来てくれたの?」
赤ずきんが言うとおり、ロイはこうして帰ってくるといつもそう訊ねてくれる。
「あぁそうだよ、いつも赤ずきんがちゃんと帰って来るか心配しているんだ」
「全然大丈夫よ、だから心配無用!」
赤ずきんはきっぱり言い切ると、握りこぶしを作り、親指を上げてロイの前へと突き出した。表情は勝ちほこったような笑顔だ。
「相変わらず強いなぁ」
ロイが感心していると、赤ずきんの後ろから小さく声が聞こえて来た。
「いつか痛い目にあってもしらないぞ…?」
赤ずきんが後ろを振り向くと、木の後ろに隠れてチトが赤ずきんを見ていた。木に隠れているのは、今朝赤ずきんに痛い目に合わされたからだろう。
赤ずきんも今朝の事を思い出して、八重歯を光らせ言う。
「あら、あんたやっぱり食べられたかったの?」
その一言でチトは、さっさかとどこかへ逃げていってしまった。
「いじわるだな、赤ずきん」
ロイがくすくす笑うと、赤ずきんもえっへんと笑った。
「そうかしら?」
「だがそれがいい」
「分かってるじゃないの」
そう言って強く笑うと、これまた上空から声が聞こえて来た。
「赤ずきん」
赤ずきんは直ぐに、声のする方を見上げる。
「カナ」
そこには、カナリアのカナが居た。カナは心配そうな顔をして、声を漏らす。
「今日もオオカミには食べられなかったみたいだね、良かったぁ…」
「それどころか一緒にお茶をしたわ」
赤ずきんがびっくりさせようと今日の出来事を話すと、思った通りカナはびっくりしていた。だが、
「えっ?赤ずきん冗談強いって!」
「冗談じゃないってば」
「でもオオカミは肉食でとっても怖いやつなんだよ!?ちゃんと気をつけなきゃ本当に食べられちゃうかもしれないんだよ!?」
その話を、信じてくれていないようだった。
「大丈夫、大丈夫」
赤ずきんにしてみれば、何で皆がそうもオオカミを恐れているのかの方が分からなかった。
きっと、何も考えていないのに感じてしまう¨潜在意識¨によるものだとは思うのだが。
「もー、赤ずきんのんきすぎるよー」
だがそれにしても、恐れすぎではないのだろうか。
赤ずきんはあの弱虫オオカミが、そんなふうに誤解されている事を少しかわいそうに思った。
◇
動物たちに見送られながら家に帰ると、母親が夕食の準備をしている所だった。父親も仕事が終わって帰って来ていて、母親の準備を手伝っている。
この二人は実に仲がいい。赤ずきんが嬉しくなる位、いい恋人だと思う。
赤ずきんも、もらった手みやげを机に置くと、両親の横に立って料理の手伝いを始めた。
あっという間にご飯の準備ができると、三人は夕食を開始し始めた。
「今日も楽しかったか?」
食べ物を噛みながら、という行儀のわるさで言ったのは父親だった。だがその自由さはいつもの事だったので、赤ずきんは軽く流した。父親は陽気な人である。
「えぇ、今日はお茶をしたのよ」
「そうか、それでこのごちそうってことだな」
料理の種類がいつもよりも多いテーブルを見て、父親は何度かうなづく。
「おばあさんは料理が上手だものね」
母親はおしとやかに笑った。そんな母親は大人しい人である。だから赤ずきんは、自分はどちらかというと父親に似ていると思っている。
「えぇ、オオカミも一緒にお茶したんだから」
赤ずきんが少し誇らしく笑うと、父親は満面の笑顔で口を吊り上げる。
「オオカミも?はは、そりゃ面白いなー」
だが、その笑顔が勘違いから来ていると分かり、赤ずきんは少し頬を膨らませた。
「お父さん、冗談だと思ってるでしょ」
「いやいや、思ってないよ」
「絶対思ってるわ」
そんな二人の楽しそうな言い合いを、静かに見ながら母親はほほえんでいた。
「でもおばあさんも、変わらず元気そうで良かったわ」
どうしておばあさんの様子が分かるかと言うと、赤ずきんがいつもと変わらないからだった。
おばあさんに何かあれば、赤ずきんは機嫌が悪いか落ち込んでいるかのどっちかなのだ。
「えぇ、私おばあさんがいてくれないと寂しくてしんじゃうわ、きっと」
その愛の告白を聞いて、うらやましそうにしたのは父親だった。そして一言呟く。
「おばあさんは愛されてていいなー」
そんな風に言った父親に、赤ずきんは恥ずかしがらずにさらりと気持ちを伝えた。
「あら、もちろんお父さんの事もお母さんの事も好きよ」
「「ありがとう」」
同時に答えた父親と母親は、目を見合わせて笑った。
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