強気な赤ずきんと弱虫オオカミくん

有箱

文字の大きさ
9 / 31

第九話

しおりを挟む
 赤ずきんは、夕方になるにつれて影が増え、さらにぶきみになった森をものともせず、いつも通り歩いていた。
 ちなみにぶきみになった森というのは、オオカミが出ることを怖がって、動物たちが立ち寄らないあの森の事である。

 そんな、動物たちも怖がるぶきみな通路を抜けると、そこにはきれいな夕焼け空が見える森があった。
 そこに着くと、動物たちもちらほら姿を見せ始める。
 空を見ながら足を踏み入れた赤ずきんの前に、さっそくキツネのロイが顔を見せた。

「赤ずきん!今日も楽しかったかい?」

 ロイは男しゃくのような喋り方で、赤ずきんに訊ねた。

「あらロイ、今日もわざわざお迎えに来てくれたの?」

 赤ずきんが言うとおり、ロイはこうして帰ってくるといつもそう訊ねてくれる。

「あぁそうだよ、いつも赤ずきんがちゃんと帰って来るか心配しているんだ」
「全然大丈夫よ、だから心配無用!」

 赤ずきんはきっぱり言い切ると、握りこぶしを作り、親指を上げてロイの前へと突き出した。表情は勝ちほこったような笑顔だ。

「相変わらず強いなぁ」

 ロイが感心していると、赤ずきんの後ろから小さく声が聞こえて来た。

「いつか痛い目にあってもしらないぞ…?」

 赤ずきんが後ろを振り向くと、木の後ろに隠れてチトが赤ずきんを見ていた。木に隠れているのは、今朝赤ずきんに痛い目に合わされたからだろう。
 赤ずきんも今朝の事を思い出して、八重歯を光らせ言う。

「あら、あんたやっぱり食べられたかったの?」

 その一言でチトは、さっさかとどこかへ逃げていってしまった。

「いじわるだな、赤ずきん」

 ロイがくすくす笑うと、赤ずきんもえっへんと笑った。

「そうかしら?」
「だがそれがいい」
「分かってるじゃないの」

 そう言って強く笑うと、これまた上空から声が聞こえて来た。

「赤ずきん」

 赤ずきんは直ぐに、声のする方を見上げる。

「カナ」

 そこには、カナリアのカナが居た。カナは心配そうな顔をして、声を漏らす。

「今日もオオカミには食べられなかったみたいだね、良かったぁ…」
「それどころか一緒にお茶をしたわ」

 赤ずきんがびっくりさせようと今日の出来事を話すと、思った通りカナはびっくりしていた。だが、

「えっ?赤ずきん冗談強いって!」
「冗談じゃないってば」
「でもオオカミは肉食でとっても怖いやつなんだよ!?ちゃんと気をつけなきゃ本当に食べられちゃうかもしれないんだよ!?」

 その話を、信じてくれていないようだった。

「大丈夫、大丈夫」

 赤ずきんにしてみれば、何で皆がそうもオオカミを恐れているのかの方が分からなかった。
 きっと、何も考えていないのに感じてしまう¨潜在意識¨によるものだとは思うのだが。

「もー、赤ずきんのんきすぎるよー」

 だがそれにしても、恐れすぎではないのだろうか。
 赤ずきんはあの弱虫オオカミが、そんなふうに誤解されている事を少しかわいそうに思った。



 動物たちに見送られながら家に帰ると、母親が夕食の準備をしている所だった。父親も仕事が終わって帰って来ていて、母親の準備を手伝っている。
 この二人は実に仲がいい。赤ずきんが嬉しくなる位、いい恋人だと思う。

 赤ずきんも、もらった手みやげを机に置くと、両親の横に立って料理の手伝いを始めた。

 あっという間にご飯の準備ができると、三人は夕食を開始し始めた。

「今日も楽しかったか?」

 食べ物を噛みながら、という行儀のわるさで言ったのは父親だった。だがその自由さはいつもの事だったので、赤ずきんは軽く流した。父親は陽気な人である。

「えぇ、今日はお茶をしたのよ」
「そうか、それでこのごちそうってことだな」

 料理の種類がいつもよりも多いテーブルを見て、父親は何度かうなづく。

「おばあさんは料理が上手だものね」

 母親はおしとやかに笑った。そんな母親は大人しい人である。だから赤ずきんは、自分はどちらかというと父親に似ていると思っている。

「えぇ、オオカミも一緒にお茶したんだから」

 赤ずきんが少し誇らしく笑うと、父親は満面の笑顔で口を吊り上げる。

「オオカミも?はは、そりゃ面白いなー」

 だが、その笑顔が勘違いから来ていると分かり、赤ずきんは少し頬を膨らませた。

「お父さん、冗談だと思ってるでしょ」
「いやいや、思ってないよ」
「絶対思ってるわ」

 そんな二人の楽しそうな言い合いを、静かに見ながら母親はほほえんでいた。

「でもおばあさんも、変わらず元気そうで良かったわ」

 どうしておばあさんの様子が分かるかと言うと、赤ずきんがいつもと変わらないからだった。
 おばあさんに何かあれば、赤ずきんは機嫌が悪いか落ち込んでいるかのどっちかなのだ。

「えぇ、私おばあさんがいてくれないと寂しくてしんじゃうわ、きっと」

 その愛の告白を聞いて、うらやましそうにしたのは父親だった。そして一言呟く。

「おばあさんは愛されてていいなー」

 そんな風に言った父親に、赤ずきんは恥ずかしがらずにさらりと気持ちを伝えた。

「あら、もちろんお父さんの事もお母さんの事も好きよ」
「「ありがとう」」

 同時に答えた父親と母親は、目を見合わせて笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...