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第十七話
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赤ずきんが歩いている姿を、何も知らないオオカミが少年がじっと見ていた。
「逃げちゃったから、赤ずきんの前に出にくいな…どうして逃げちゃったの?とかきかれても、どうやって答えたらいいかわかんないし…本当の事を言ってあやまった方がいいのかな…でも本当の事を言ったら、また弱虫だと思われちゃう…それは嫌だな…どうしようどうしよう…」
赤ずきんはぼそぼそと聞こえて来る声を聞き取り、そっとその場所へ、オオカミへと近付いてゆく。
「お友だちの事もう一回聞かれたらどうしよう…そうなったら嫌だな…怖いな…でも赤ずきんとお友だちにな
れたら…」
「わっ!」
「ぎゃぁああぁあぁ!!」
後ろから大声でおどかされて、オオカミは隠れていた茂みから飛び出してしまった。赤ずきんに知られたくない事を考えていたために、いつもより驚きが大きい。
「なんだよなんだよ!」
つい勢いでうしろを振り向き、怒った声を投げつける。
「なんでもないわよ」
だが、軽く返事されて、オオカミは引き下がってしまった。
「あんたに聞きたい事があるんだけど」
聞きたいことと言われて、オオカミは昨日の事を思い出した。
これは絶対、友だちが欲しいのかと聞かれる流れだ。まだ答えが決まっていないのに、聞かれても困ってしまう。
「だめだめだめだめ!!聞いちゃだめ!!!!」
オオカミが大声で嫌がる物だから、赤ずきんはふしぎになりながらも質問を止めた。
きっと、動物が持つ隠れた力で、質問の雰囲気を読み取ったのだろう、きっとそうに違いない。
「…うーん、ならいいや」
そう言うと赤ずきんは、すばやくオオカミの前から去っていった。
◇
「…えっ…?」
オオカミは赤ずきんの姿が見えなくなってから、聞かれなかった事への驚きを口から零していた。
赤ずきんの事だから、知りたいことはとことん、どんな手を使っても知ろうとすると思っていたのに。
もしかして今日、赤ずきんは具合でも悪いのだろうか。
オオカミは、意外にあっさりと切り抜けられた問題の事よりも、赤ずきんの方が気になって仕方がなくなってしまった。
◇
「お早う、おばあさん」
「おはよう赤ずきん、今日も来てくれてありがとう」
「今日は家で作ったりんごジュースと、りんごも丸まる持ってきたわ、あとこれ昨日焼いた木の実のパウンドケーキよ」
赤ずきんは一つ一つ説明しながら、机に物を出してゆく。
「ありがとう、おいしそうねぇ、じゃあ朝食にしようかしらね」
おばあさんは立ち上がり、いつものようにキッチンへ手作りのパンを取りに行った。
ふと赤ずきんは、窓のそばに色々な飾りと一緒に置いてある、裏向きにされた写真立てを見つけた。
いつも何気なく見ていたはずなのに、ぜんぜん気付かなかった。
どんな写真が飾ってあるんだろうと立ち上がろうとした時、キッチンから赤ずきんを呼ぶ声が聞こえた。
赤ずきんとおばあさんは、両手に料理を持ち机に座った。
ほんの少ししか時間は経っていないのに、その頃には赤ずきんは、写真立ての事を忘れていた。
赤ずきんは来た時からずっと、ご飯の時間に話そうと決めていた内容を口に出した。
「ねぇおばあさん聞いてよ」
「どうしたの?」
赤ずきんの困った顔と深い溜め息を目にして、おばあさんはきょとんとする。
昨日とは逆の顔をした赤ずきんを見て、何かあるとは思っていたけれど。
「…けさ、動物たちに友だちになって欲しいって言ってみたのよ…」
おばあさんは頷きながら、赤ずきんの話を聞き続ける。
「そうしたらみんな青い顔しちゃって…昔に大変な事があったらしいわ」
赤ずきんはすごく悲しいお話を思い出して、また深い溜め息を零した。
「おばあさん、知ってる?」
「まぁ、そうね」
おばあさんは、少し困った顔をしながら笑った。赤ずきんは不思議になりながらも話を続ける。
「…難しいわよね」
「なんて聞いたの?」
赤ずきんは、動物たちが話してくれたことをそのままおばあさんに伝えた。
おばあさんは、聞きながら悲しい顔をする。
「そんな事言われたら無理なんて言えないわよね、計画失敗よ…」
赤ずきん的にはもちろん内容もショッキングだったが、内容よりも思い通りに計画が進まなかった方が悔しかった。
どうにかして皆のトラウマを消して、オオカミ少年に友人を作ってあげたいものだ、と必死に方法を考える。
どうしてそこまで自分ががんばっているのか、赤ずきんは自分でも分からなかった。
「そうね、確かに難しいわね…でも」
先に待つ言葉が、消えてゆく。赤ずきんは気になって、おばあさんの目を見つめた。
「……前のオオカミちゃんも、悪い子じゃなかったのよ、だから分かってくれたらいいわよね…」
寂しげな顔に、赤ずきんの決意は強く固まる。
おばあさんのためにもオオカミ少年のためにも、森のみんなの笑顔のためにも、間違っていると分かってもらって皆を仲良しにしてあげよう、と。
「私!どうにかしてみるわ!」
おばあさんのためを思うと、やる気がみなぎって来る。
やる気まんまんの赤ずきんを見て、寂しい顔をしていたおばあさんはにっこりと笑った。
「良かった、ありがとう」
それにはまず、おんなオオカミについて知らなければならない。
それには、たとえオオカミ少年が否定しようとも、聞きださなければならないだろう。
戸惑いながらわたわたと逃げようとするオオカミ少年が、頭の中に思い浮かんだ。
オオカミ少年が来るのを待ちながら、今日は部屋に飾る花摘みでもしてみようか。
オオカミ少年が、自分の目の前に姿を現すと決め付けて、赤ずきんは今日の過ごし方を考えていた。
「そうだ、今日は一緒にエッグタルトを作らない?」
が、おばあさんに誘われ、予定を全て消し去る。
「いいわよ!エッグタルト作るの久しぶりね!」
「新鮮な卵がたくさんあるのよ」
「そうと決まれば、作りましょう!」
赤ずきんはすぐお菓子作りに取りかかろうと、空いた皿を重ね両手いっぱいに抱えると立ち上がった。
おばあさんの作るお菓子は、何でもおいしい。
ふわりとただよう香りからステキで、多分誰が嗅いでもよだれを垂らしてしまうだろう。
オーブンを開き、表面がこんがりと色付いたら完成だ。
赤ずきんはミトンを手にオーブンを開き、いくつも並ぶタルトのようすを見つめた。
「逃げちゃったから、赤ずきんの前に出にくいな…どうして逃げちゃったの?とかきかれても、どうやって答えたらいいかわかんないし…本当の事を言ってあやまった方がいいのかな…でも本当の事を言ったら、また弱虫だと思われちゃう…それは嫌だな…どうしようどうしよう…」
赤ずきんはぼそぼそと聞こえて来る声を聞き取り、そっとその場所へ、オオカミへと近付いてゆく。
「お友だちの事もう一回聞かれたらどうしよう…そうなったら嫌だな…怖いな…でも赤ずきんとお友だちにな
れたら…」
「わっ!」
「ぎゃぁああぁあぁ!!」
後ろから大声でおどかされて、オオカミは隠れていた茂みから飛び出してしまった。赤ずきんに知られたくない事を考えていたために、いつもより驚きが大きい。
「なんだよなんだよ!」
つい勢いでうしろを振り向き、怒った声を投げつける。
「なんでもないわよ」
だが、軽く返事されて、オオカミは引き下がってしまった。
「あんたに聞きたい事があるんだけど」
聞きたいことと言われて、オオカミは昨日の事を思い出した。
これは絶対、友だちが欲しいのかと聞かれる流れだ。まだ答えが決まっていないのに、聞かれても困ってしまう。
「だめだめだめだめ!!聞いちゃだめ!!!!」
オオカミが大声で嫌がる物だから、赤ずきんはふしぎになりながらも質問を止めた。
きっと、動物が持つ隠れた力で、質問の雰囲気を読み取ったのだろう、きっとそうに違いない。
「…うーん、ならいいや」
そう言うと赤ずきんは、すばやくオオカミの前から去っていった。
◇
「…えっ…?」
オオカミは赤ずきんの姿が見えなくなってから、聞かれなかった事への驚きを口から零していた。
赤ずきんの事だから、知りたいことはとことん、どんな手を使っても知ろうとすると思っていたのに。
もしかして今日、赤ずきんは具合でも悪いのだろうか。
オオカミは、意外にあっさりと切り抜けられた問題の事よりも、赤ずきんの方が気になって仕方がなくなってしまった。
◇
「お早う、おばあさん」
「おはよう赤ずきん、今日も来てくれてありがとう」
「今日は家で作ったりんごジュースと、りんごも丸まる持ってきたわ、あとこれ昨日焼いた木の実のパウンドケーキよ」
赤ずきんは一つ一つ説明しながら、机に物を出してゆく。
「ありがとう、おいしそうねぇ、じゃあ朝食にしようかしらね」
おばあさんは立ち上がり、いつものようにキッチンへ手作りのパンを取りに行った。
ふと赤ずきんは、窓のそばに色々な飾りと一緒に置いてある、裏向きにされた写真立てを見つけた。
いつも何気なく見ていたはずなのに、ぜんぜん気付かなかった。
どんな写真が飾ってあるんだろうと立ち上がろうとした時、キッチンから赤ずきんを呼ぶ声が聞こえた。
赤ずきんとおばあさんは、両手に料理を持ち机に座った。
ほんの少ししか時間は経っていないのに、その頃には赤ずきんは、写真立ての事を忘れていた。
赤ずきんは来た時からずっと、ご飯の時間に話そうと決めていた内容を口に出した。
「ねぇおばあさん聞いてよ」
「どうしたの?」
赤ずきんの困った顔と深い溜め息を目にして、おばあさんはきょとんとする。
昨日とは逆の顔をした赤ずきんを見て、何かあるとは思っていたけれど。
「…けさ、動物たちに友だちになって欲しいって言ってみたのよ…」
おばあさんは頷きながら、赤ずきんの話を聞き続ける。
「そうしたらみんな青い顔しちゃって…昔に大変な事があったらしいわ」
赤ずきんはすごく悲しいお話を思い出して、また深い溜め息を零した。
「おばあさん、知ってる?」
「まぁ、そうね」
おばあさんは、少し困った顔をしながら笑った。赤ずきんは不思議になりながらも話を続ける。
「…難しいわよね」
「なんて聞いたの?」
赤ずきんは、動物たちが話してくれたことをそのままおばあさんに伝えた。
おばあさんは、聞きながら悲しい顔をする。
「そんな事言われたら無理なんて言えないわよね、計画失敗よ…」
赤ずきん的にはもちろん内容もショッキングだったが、内容よりも思い通りに計画が進まなかった方が悔しかった。
どうにかして皆のトラウマを消して、オオカミ少年に友人を作ってあげたいものだ、と必死に方法を考える。
どうしてそこまで自分ががんばっているのか、赤ずきんは自分でも分からなかった。
「そうね、確かに難しいわね…でも」
先に待つ言葉が、消えてゆく。赤ずきんは気になって、おばあさんの目を見つめた。
「……前のオオカミちゃんも、悪い子じゃなかったのよ、だから分かってくれたらいいわよね…」
寂しげな顔に、赤ずきんの決意は強く固まる。
おばあさんのためにもオオカミ少年のためにも、森のみんなの笑顔のためにも、間違っていると分かってもらって皆を仲良しにしてあげよう、と。
「私!どうにかしてみるわ!」
おばあさんのためを思うと、やる気がみなぎって来る。
やる気まんまんの赤ずきんを見て、寂しい顔をしていたおばあさんはにっこりと笑った。
「良かった、ありがとう」
それにはまず、おんなオオカミについて知らなければならない。
それには、たとえオオカミ少年が否定しようとも、聞きださなければならないだろう。
戸惑いながらわたわたと逃げようとするオオカミ少年が、頭の中に思い浮かんだ。
オオカミ少年が来るのを待ちながら、今日は部屋に飾る花摘みでもしてみようか。
オオカミ少年が、自分の目の前に姿を現すと決め付けて、赤ずきんは今日の過ごし方を考えていた。
「そうだ、今日は一緒にエッグタルトを作らない?」
が、おばあさんに誘われ、予定を全て消し去る。
「いいわよ!エッグタルト作るの久しぶりね!」
「新鮮な卵がたくさんあるのよ」
「そうと決まれば、作りましょう!」
赤ずきんはすぐお菓子作りに取りかかろうと、空いた皿を重ね両手いっぱいに抱えると立ち上がった。
おばあさんの作るお菓子は、何でもおいしい。
ふわりとただよう香りからステキで、多分誰が嗅いでもよだれを垂らしてしまうだろう。
オーブンを開き、表面がこんがりと色付いたら完成だ。
赤ずきんはミトンを手にオーブンを開き、いくつも並ぶタルトのようすを見つめた。
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