20 / 31
第二十話
しおりを挟む
オオカミ少年は、夜になっても家を見ていた。
今は赤ずきんが帰ってしまい、おばあさん一人だけがいる家。
「……おばあさんも、一人ぼっちの時はさみしいかな…おばあさんなら、友だちになってくれるかな…お菓子おいしかったな、パーティ楽しみだな…」
にこにこと優しくほほえむおばあさん。赤ずきんは怖いけれど、とても優しいおばあさんなら。
オオカミ少年は、木から飛び出して玄関へと向かった。
トントンと、ノックが響く。おばあさんは編み物していた手を止めて、ゆっくりと立ち上がった。
「こんな夜にお客さんなんて珍しいわね~、はぁい?」
「………こ、こんばんは」
もじもじと、斜め下を見つめるオオカミ少年がいる。
「あら、オオカミちゃん、どうしたの?一人?」
「…うん、えっと…あの…」
「赤ずきんなら、もう帰ったけれど、会わなかった…?」
「…ち、違うんだ…えっとあの…あのね、おばあさん、ばらしちゃった…?」
言おうとしていたことよりも前にそんな言葉が飛び出してしまい、オオカミ少年は自分でびっくりしてしまった。
いや、気になっていたのは気になっていたが。
「お友だちが欲しいって話?」
「そう!それ!」
おばあさんは焦るオオカミ少年とは逆の、ふわりとした笑顔を浮かべた。
「言ってないわよ?赤ずきんは気付いていたみたいだけど」
「えっ、気付いてたの?」
今までずっと強さを見せ続けていたはずなのに、弱虫は見ぬかれていたらしい。
なんて恥ずかしい……
オオカミは恥ずかしさから、両耳を少し引っぱった。
「えぇ、それで色々がんばっていたみたいだけど、お話いかなかった?」
「…お話ってもしかしてお菓子パーティ…?」
オオカミ少年は、友だちが欲しいとの願いとお菓子パーティの関係がいまいちつながらずに、首をかしげる。
「そうよ、オオカミちゃんにお友だちを作ってあげたくて、計画してるみたい」
お友だちになりたくてではなく、お友だちを作ってあげたくてとの言い方の違いに、オオカミ少年は気付いた。
「…じゃあ、やっぱり赤ずきんは…」
しゅんと寂しげに下を向いたオオカミ少年を見て、おばあさんは心の奥にある本物の願いを感じ取る。
「もしかして、赤ずきんとお友だちになりたかったの?」
「えっ!ち、違うよ!だって赤ずきん怖いし!」
オオカミ少年はつい言ってしまった嘘が、おばあさんを怒らせていないか怖くなった。
だが、おばあさんの心には、怒りさえ生まれなかった。
「そうねー、オオカミちゃんにとっては怖いかもね、でも赤ずきんは本当は優しい子なのよ」
「でも、耳とかとられる」
本当は『知ってる』と言いたかったが、赤ずきんを認めてしまう気がして、またムダな強がりをしてしまった。
「うーん、おちゃめだと思うけどねぇ」
まじめなオオカミ少年を傷つけないように、おばあさんはやんわりと本当の事を教える。
赤ずきんは、勝気でちょっとむりやりな部分はあるが、とてもいい子だ。いい孫だと自慢したいくらい、優しさを持っている。
「もっと素直になっても良いと思うわよ」
オオカミ少年は、本当の思いを言い当てられ、ぎくりとなった。
だが、もう全部ばれているのだ、おばあさんの前で今さら強がっても意味ないともちゃんと分かっている。
「…で、でも本当の事言ったら、弱い子って思われちゃう…」
「私は思わなかったわ、オオカミちゃんとお友だちになれて、嬉しいとも思っているのよ」
「えっ?お友だち!?」
オオカミ少年は耳をぴんと立て、しっぽを左右にゆらゆらと揺らす。
沈んでいた気持ちが一気に浮き上がり、空まで飛べそうな気分になった。
おばあさんは、もう自分の事を友だちだと思ってくれていた。自分が言わなくてもお友だちだと言ってくれた。
それがとても嬉しくてうれしくて、オオカミ少年は顔をまっかにして笑った。
「それにしても、寒いわねー、少しあがってゆく?」
「うん!」
おばあさんはオオカミ少年の笑顔を見て自分もほほえみながら、心の中には小さなさみしさを持っていた。
今は赤ずきんが帰ってしまい、おばあさん一人だけがいる家。
「……おばあさんも、一人ぼっちの時はさみしいかな…おばあさんなら、友だちになってくれるかな…お菓子おいしかったな、パーティ楽しみだな…」
にこにこと優しくほほえむおばあさん。赤ずきんは怖いけれど、とても優しいおばあさんなら。
オオカミ少年は、木から飛び出して玄関へと向かった。
トントンと、ノックが響く。おばあさんは編み物していた手を止めて、ゆっくりと立ち上がった。
「こんな夜にお客さんなんて珍しいわね~、はぁい?」
「………こ、こんばんは」
もじもじと、斜め下を見つめるオオカミ少年がいる。
「あら、オオカミちゃん、どうしたの?一人?」
「…うん、えっと…あの…」
「赤ずきんなら、もう帰ったけれど、会わなかった…?」
「…ち、違うんだ…えっとあの…あのね、おばあさん、ばらしちゃった…?」
言おうとしていたことよりも前にそんな言葉が飛び出してしまい、オオカミ少年は自分でびっくりしてしまった。
いや、気になっていたのは気になっていたが。
「お友だちが欲しいって話?」
「そう!それ!」
おばあさんは焦るオオカミ少年とは逆の、ふわりとした笑顔を浮かべた。
「言ってないわよ?赤ずきんは気付いていたみたいだけど」
「えっ、気付いてたの?」
今までずっと強さを見せ続けていたはずなのに、弱虫は見ぬかれていたらしい。
なんて恥ずかしい……
オオカミは恥ずかしさから、両耳を少し引っぱった。
「えぇ、それで色々がんばっていたみたいだけど、お話いかなかった?」
「…お話ってもしかしてお菓子パーティ…?」
オオカミ少年は、友だちが欲しいとの願いとお菓子パーティの関係がいまいちつながらずに、首をかしげる。
「そうよ、オオカミちゃんにお友だちを作ってあげたくて、計画してるみたい」
お友だちになりたくてではなく、お友だちを作ってあげたくてとの言い方の違いに、オオカミ少年は気付いた。
「…じゃあ、やっぱり赤ずきんは…」
しゅんと寂しげに下を向いたオオカミ少年を見て、おばあさんは心の奥にある本物の願いを感じ取る。
「もしかして、赤ずきんとお友だちになりたかったの?」
「えっ!ち、違うよ!だって赤ずきん怖いし!」
オオカミ少年はつい言ってしまった嘘が、おばあさんを怒らせていないか怖くなった。
だが、おばあさんの心には、怒りさえ生まれなかった。
「そうねー、オオカミちゃんにとっては怖いかもね、でも赤ずきんは本当は優しい子なのよ」
「でも、耳とかとられる」
本当は『知ってる』と言いたかったが、赤ずきんを認めてしまう気がして、またムダな強がりをしてしまった。
「うーん、おちゃめだと思うけどねぇ」
まじめなオオカミ少年を傷つけないように、おばあさんはやんわりと本当の事を教える。
赤ずきんは、勝気でちょっとむりやりな部分はあるが、とてもいい子だ。いい孫だと自慢したいくらい、優しさを持っている。
「もっと素直になっても良いと思うわよ」
オオカミ少年は、本当の思いを言い当てられ、ぎくりとなった。
だが、もう全部ばれているのだ、おばあさんの前で今さら強がっても意味ないともちゃんと分かっている。
「…で、でも本当の事言ったら、弱い子って思われちゃう…」
「私は思わなかったわ、オオカミちゃんとお友だちになれて、嬉しいとも思っているのよ」
「えっ?お友だち!?」
オオカミ少年は耳をぴんと立て、しっぽを左右にゆらゆらと揺らす。
沈んでいた気持ちが一気に浮き上がり、空まで飛べそうな気分になった。
おばあさんは、もう自分の事を友だちだと思ってくれていた。自分が言わなくてもお友だちだと言ってくれた。
それがとても嬉しくてうれしくて、オオカミ少年は顔をまっかにして笑った。
「それにしても、寒いわねー、少しあがってゆく?」
「うん!」
おばあさんはオオカミ少年の笑顔を見て自分もほほえみながら、心の中には小さなさみしさを持っていた。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ぽんちゃん、しっぽ!
こいちろう
児童書・童話
タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる