そして終わりは訪れない

有箱

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 物陰に隠れた社用車の前、防護服を脱ぐ。完全に開放された所で、後方から声が聞こえた。

「やぁウィル。エリックくん。久しぶり。二人ともお疲れさま」

 反応して目をやる。見慣れた車が、窓を開けたまま接近してきた。恐らく捜査の帰りだろう。エリックは、現れた人物に軽く会釈していた。
 彼、ロナルドは現役の刑事である。そして私の元同僚だ。

「ロン、何か用か?」
「見かけたから声をかけただけさ。ウィルは元気かなってね。そろそろ良い人でも見つけないのかなとも」

 事件への遠巻きな接触に、思わず眉を潜めてしまう。対して、ロナルドは居た堪れなさを困笑に変えた。

「どうか私のことは気にしないでくれ。では失礼」

 早々と振り切り、車内に逃亡する。少し後、エリックが乗車したタイミングで、車の発進音を捉えた。

「諦めてくれませんね、彼」
「ああ」

 彼はジェシカの事件をリアルタイムで知っており、私が転職した理由も恐らく悟っている。
 そして、事件の追及を止めてほしいと願っている――軽い口調の中に、本気の願いがあるのは十分理解していた。



「ウィルってパパと同じ仕事なのよね? お片付けするんだっけ?」
「そうだよ」
「やっぱり凄いわ! 私は嫌いだもの」

 本日は休日だ。しかし、空の予定を把握されている為、当然のように彼女――ニコルが家に来ている。
 ニコルは、今年十二歳になるエリックの一人娘だ。片親ゆえ用事で満ちている彼の代わりに、彼女の面倒を見ている。

「あ、でもウィルのお嫁さんになるから練習しなきゃ」
「またそんなこと言って。ニコは可愛いんだからもっと良い人と出会うさ」
「ウィルが良いのー!」

 ただ、面倒と言っても、話したり食事を振舞ったりと、最低限の世話しかしていない。にも拘らず私に懐き、いつも無邪気な顔を見せてくれた。
 私にもし子どもがいたら――そんなよく幻想に呑まれた。
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