おかえり、さよなら、美しき日々。

４-２

　また殴られて目が覚めた。薄明かりに透かされた部屋が、夜明けを物語っている。

　朝食を用意しなければ――仮の日課が頭をよぎるが、体は今日も動いてくれそうになかった。
　見えないのに、古傷にくっきりとした痛みまで感じる。出きったと思った涙が、ひとりでに流れはじめた。

「心花、大丈夫？　また怖い夢を見た？」

　いつも通りの、優しい囁きが耳を撫でる。昨晩の一件には触れず、ただただ慰めの愛撫が頭に触れた。

「ごめんね、私、駄目な人間でごめんね……」
「心花は駄目なんかじゃないよ。優しいからこそ傷つきやすいだけだよ」
「でも、何も出来ない……！　してもらってばっかりで返せもしない！」
「僕は隣にいてくれるだけでいい」
「嘘だよ、そんなの！」

　封じておきたいのに、蓋が見つからない。望んでいないのに、溢れだしてしまう。
　嘘だなんて、本当は思ってないのに。傷つけたくないのに。困らせたくないのに。

「ねぇ、やっぱり薬使いたい！」
「駄目だよ、駄目」
「前のことなんて思い出したっていい！」

　無責任だって分かってる。

「あんな奴のことは思い出しちゃ駄目だ」
「でも思い出さないかもしれないじゃない！」

　辛いかもしれないって分かってる。

「可能性があるなら、僕は嫌だ」

　けれど、目先の安楽が欲しくなってしまうの。