かわいくないアイドルに拍手を

有箱

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黙祷【2】

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「鮫島さん、またアイチューバー見てるんすか?」

 背後から吐息がかかる。振り返ると、後輩である八田が画面を覗き込んでいた。休憩室への入室に全く気付かなかった。

「煙草か?」
「そうです。帰る前に一服していこうかと……一本要りますか?」

 ポケットから取り出された煙草が、一本差し出される。向こう側、古いブラウン管テレビがKIRIKOを映していた。抑えきれない輝きを放ち、歌う映像が繰り返されている。右上のテロップとは、不釣り合いな映像ばかりだ。

「どうも」

 一瞬目を話した隙に、配信は話題を変えていた。アプリごと飛ばし煙草を受けとる。渡ってきたライターは、新人らしく安物だった。火をつけ、大きく吸って吐く。灰色の煙でKIRIKOが霞んだ。

「KIRIKOちゃん、可哀想でしたよね。僕、彼女のことあんまり知らないけど、よくテレビ出てたのは覚えてます」

 控えめに話を振ってきた後輩は、七年前の事件を知らない。いや、概要は知っているが、一般人程度の知識のはずだ。テレビに向けられた顔は、やや不思議そうだった。

「この事務所にいたんですもんねぇ……。どんな子だったのかとか聞いてもいいものですか?」

 視線が答えを伺っている。下方へ控えめに吐かれた息が、世界にグラデーションを作った――理想と現実を、視覚化したかのように汚ならしく。

「いいよ」

 改めて体勢を直す。KIRIKOの話をするのは、もう何度目だろうか。
 あの子には、本当に悪いことをしてしまった。もう少し守る力があればと今でも思っている。

「KIRIKOはね、本当にいい子だったよ」

 彼女は、僕が初めて担当を任された女の子だった。
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