かわいくないアイドルに拍手を

有箱

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魅了

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「そんなことがあったんですね。やっぱKIRIKOちゃん可哀想……」

 灰皿の煙草は、知らぬ間に燃え尽きていた。長い灰が蛇のようにくねっている。ニュースの中で踊る彼女は、相変わらず可愛らしかった。
 出来るなら、ずっとステージに立っていたかったけど――あの電話の続きにて、彼女は言った。

「そんなに頑張ってたのに、顔だけで報われないなんて不憫にもほどがありますよ。で、犯人は捕まったんでしたっけ?」
「ああ、捕まったよ。ブス過ぎてムカついたからネットに晒してやった……だそうだ。最低だよな」
「そういうことがあったなら、鮫島さんがアイチューバーに行っちゃうのも分かる気がします……」

 行き着いた解釈に、薄く苦笑してしまう。反面、萎びた顔に少し喜んでもしまった。
 彼女の努力が認知されるのは何年経っても嬉しい。

 今、ネット上の態度も変化しつつある。高い技術を改めて評価し、伴う努力を拾い上げ、健気さに新規ファンと名乗りを挙げる者も出てきた。
 全人口を侵食――とまでは到底届かないが、夢ではない気がする。

 ニュースの内容が変化した。巷で流行りの色々と題し、耳慣れない名詞が淡々と紹介されていく。

「……にしても、ステージから消えたのに人々を魅了してくなんてな。本当に化けものみたいな奴だ」

 例えに少しきょとんとし、やっと八田も微笑した。

「アイドルに化けものなんて、怒られそうですけど確かにあってますね」
 
 自然とお開きになり、玄関口まで一緒に動く。帰宅したら、KIRIKOちゃんの過去動画みてみますね――言いながら手を振る八田へ、小さくいらっしゃいと返事した。
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