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10月31日
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[10月31日、月曜日]
気持ちが複雑に揺れるのは、いつもだが嫌になる。苦しくなって、何度だって死にたくなる。
月裏は、回る小包を目にしながらも、上の空で考え事をしていた。
「おはよう、月裏さん」
「あっ、おはよう譲葉君」
しかし譲葉がやって来れば、直ぐに切り替えてみせる。
昨日も、大して実のなる話も無く日曜は終わった。
黙々と活字を追う譲葉を見ては、感情をコロコロと変化させる。満たされる気分になったかと思えば悲しみになったりと、一瞬で切り替わってしまうのだ。
結果、それは疲れになってしまった。
「何食べる?」
「選びに行く」
だが、疲労を持ちながらも譲葉に報いたいとの気持ち自体に変化は無く、月裏は平常を意識し笑い続けて見せた。
だが、仕事中はどうしても表情が死ぬ。それは周囲も同じため違和感にはならないが。
首が痛くなってきて少し顔を上げると、窓から見える空が目に映った。灰色の、秋らしい空だ。
明日から11月が始まる。響きからもう、冬の訪れを感じる月だ。
また変わらない日々を続けてしまった。そして、多分これからも続ける。
月裏は窓を見つめ、飛び降り自殺をイメージした。
「ただいま」
「おかえり、月裏さん」
想像通り、譲葉は小説を読んでいた。帰宅にあわせて閉じたのか今は開かれていないが。
「本、面白い?」
「面白い」
譲葉は頷く。月裏は上手く喜ばせられて素直に喜んだ。しかし直ぐに次の一手も求めてしまう。
――何をすれば、譲葉が満たされるのか。
譲葉の視線が、横に動くのを見ながら考え始める。
「花、増えたな」
だが、切り出されて黙考は一旦停止した。浮かびだす何とも言えない感情ごと、見ない振りをする。
「あっ、うん、久しぶりに買ってみたんだ」
「綺麗だな」
「……分かる?」
「あぁ、綺麗だ」
見詰める瞼が僅かに伏せていて、長めの睫毛が下を向く。その作られたような美しさが、まるで造花みたいだ。
悲しげに黙りこんだまま、その場で咲き続ける花のように、彼は美しい。
「……どうした?」
「えっ、何もだよ」
「……そうか、ならいいが」
月裏は凡そ十日前、譲葉に自殺未遂場面を見られた事を思い出し気まずくなった。
結局、一切触れられずに日々は流れたが、今さら譲葉の気持ちが気になってくる。
同情か、警戒か、見下しか、失望か、恐怖か。
何を思っているかは検討もつかなかったが、気にならない筈は無い。
また根を詰めていないか、気にされているに違いない。
月裏は情けなさに滲む涙を堪えて、いつもの穏やかな口調で就寝の挨拶を告げた。
夜中、月裏はまた目を覚ましていた。正体不明の悲しみが込み上げて、涙を堪えられない。自分で自分が不安定な状態にあると認識できるくらい、心が悪い方へと傾いている。
怖い、明日が怖い。怖い、未来が怖い。生きてゆくのが、怖くて怖くて仕方が無い。
――譲葉は怖くないのだろうか。
事故をし足を不自由にしただけではなく、両親を急に失ったのだ。それでいて、慣れない環境に身を置かなくてはならない状況にもある。
もし自分だったら、堪えきれずに逃げ出してしまうだろう。
譲葉は立派だ。気持ちを顔にも声にも出さず、己の中に仕舞い込んで。その辛さは尋常ではないはずだ。
譲葉を助けたい。けれどこんな自分じゃ助けられない。
月裏は、声を殺して涙を流した。
気持ちが複雑に揺れるのは、いつもだが嫌になる。苦しくなって、何度だって死にたくなる。
月裏は、回る小包を目にしながらも、上の空で考え事をしていた。
「おはよう、月裏さん」
「あっ、おはよう譲葉君」
しかし譲葉がやって来れば、直ぐに切り替えてみせる。
昨日も、大して実のなる話も無く日曜は終わった。
黙々と活字を追う譲葉を見ては、感情をコロコロと変化させる。満たされる気分になったかと思えば悲しみになったりと、一瞬で切り替わってしまうのだ。
結果、それは疲れになってしまった。
「何食べる?」
「選びに行く」
だが、疲労を持ちながらも譲葉に報いたいとの気持ち自体に変化は無く、月裏は平常を意識し笑い続けて見せた。
だが、仕事中はどうしても表情が死ぬ。それは周囲も同じため違和感にはならないが。
首が痛くなってきて少し顔を上げると、窓から見える空が目に映った。灰色の、秋らしい空だ。
明日から11月が始まる。響きからもう、冬の訪れを感じる月だ。
また変わらない日々を続けてしまった。そして、多分これからも続ける。
月裏は窓を見つめ、飛び降り自殺をイメージした。
「ただいま」
「おかえり、月裏さん」
想像通り、譲葉は小説を読んでいた。帰宅にあわせて閉じたのか今は開かれていないが。
「本、面白い?」
「面白い」
譲葉は頷く。月裏は上手く喜ばせられて素直に喜んだ。しかし直ぐに次の一手も求めてしまう。
――何をすれば、譲葉が満たされるのか。
譲葉の視線が、横に動くのを見ながら考え始める。
「花、増えたな」
だが、切り出されて黙考は一旦停止した。浮かびだす何とも言えない感情ごと、見ない振りをする。
「あっ、うん、久しぶりに買ってみたんだ」
「綺麗だな」
「……分かる?」
「あぁ、綺麗だ」
見詰める瞼が僅かに伏せていて、長めの睫毛が下を向く。その作られたような美しさが、まるで造花みたいだ。
悲しげに黙りこんだまま、その場で咲き続ける花のように、彼は美しい。
「……どうした?」
「えっ、何もだよ」
「……そうか、ならいいが」
月裏は凡そ十日前、譲葉に自殺未遂場面を見られた事を思い出し気まずくなった。
結局、一切触れられずに日々は流れたが、今さら譲葉の気持ちが気になってくる。
同情か、警戒か、見下しか、失望か、恐怖か。
何を思っているかは検討もつかなかったが、気にならない筈は無い。
また根を詰めていないか、気にされているに違いない。
月裏は情けなさに滲む涙を堪えて、いつもの穏やかな口調で就寝の挨拶を告げた。
夜中、月裏はまた目を覚ましていた。正体不明の悲しみが込み上げて、涙を堪えられない。自分で自分が不安定な状態にあると認識できるくらい、心が悪い方へと傾いている。
怖い、明日が怖い。怖い、未来が怖い。生きてゆくのが、怖くて怖くて仕方が無い。
――譲葉は怖くないのだろうか。
事故をし足を不自由にしただけではなく、両親を急に失ったのだ。それでいて、慣れない環境に身を置かなくてはならない状況にもある。
もし自分だったら、堪えきれずに逃げ出してしまうだろう。
譲葉は立派だ。気持ちを顔にも声にも出さず、己の中に仕舞い込んで。その辛さは尋常ではないはずだ。
譲葉を助けたい。けれどこんな自分じゃ助けられない。
月裏は、声を殺して涙を流した。
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