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心を慰める時間も、解決策を求める時間も与えられないまま、一週間の時が経過した。
実は、ブザーの件が終了して直ぐ、次なる命令が届き、実行するごとに新たな命令が下され続けていた。
期限はほぼ二十四時間に近い物が多く、常に緊張状態で気が休まらない。
命令では無いメールも途中に挟まれ、
“裏道の使用を止めてはならない”
“携帯の電源は常に入れておくように”
“情報はこちらには筒抜けだから隠蔽は出来ない”
――など、細かな条件や脅しが幾つか足されていた。
その所為あってか、視線を常日頃から感じるようになり、眠れないことは無いが、命令が始まってから熟睡が出来なくなった。
これまでの七日間の間に下された命令も、どれもが幼稚で無意味な物ばかりだった。
“誰が座るかさえ分からない授業用の椅子に、リアルな虫の模型を密かに置く”だとか“図書室の本のページを一枚破って持ち帰れ”だとか、地味な物が目立った。
誰も発見しなかったのか話が持ち上がることさえない物や、数時間だけで完全消化される物などが多く、危機という危機は全く訪れなかった。
脅迫を受けている自覚は大いにあるが、虐めを受けている気分も合わさってきて、複雑な感情に苛まれる。
実際は御面も戯れ程度にメールを送りつけただけで、実は本気なんか欠片もないのでは無いか、と都合のいい考えまで浮上していた。
とは言え、それは想定であり、本心が分からない以上抵抗一つ出来ないのだが。
因みに“御面”というのは、迷惑メールに紛れないよう、アドレス登録しておく際につけた名である。
命令メールが送られてくる際、時々間違ってはいるが、大学の内部構造を知る人物にしか出来ない指定が含まれている場合がある。そこからも、大学関係者だと分かった。
ただ、熟知していると言い切れない分、学年までを絞ることは出来なかった。
犯人の推測が出来ない。遠縁の人物なのか、近しい人物か、まさか縁もない人間なのか、的を絞る為の項目があまりにも少なすぎる。
しかし、ほぼ無関係の人間が、こんなに手の込んだ虐めを仕向けようとするだろうか。自分だったら、知らない人よりも知っていて恨んでいる人間を選ぶだろう。
もし、友人五人の中に犯人がいたら――。
ふっと過ぎった可能性に、白都は首を横振りしていた。付き合い始めて日が長い訳では無いが、信頼もしており、何度も助けてくれた友人達を疑いたくはない。
白都は授業中でありながら、上の空で教師の音読を聞いていた。
***
「……白くん、具合でも悪い?」
箸を空中に浮かせながら弁当を見詰めていると、穂積の声が降ってきた。
表情を仰ぐと、心配そうな瞳がこちらを見詰めていた。
気遣った穂積の方が、何だか青い顔色をしているように見受けられるが。
「いや、大丈夫ですよ。穂積さんは大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、ありがとねぇ」
やんわり笑んだ穂積の横で、日向もなにやら考えごとをする仕草を取っていた。
話を切り替えるため白都が投げ掛けるより先に、侑也が先手を取る。
「ひな、考え事か? 珍しいな」
日向は仕草も視線も変えず、口を小さく開けた。
「……うん、顔が思い出せなくて……」
「顔?」
「知り合いらしい人に声をかけられたんだけど誰か思い出せなくて……」
「まぁ、あるあるだなー!」
「…………そうか、ならいいや……」
日向は、人の顔を覚えるのが苦手だと前に言っていた。白都と知り合った頃も、何度も「どなたでしたっけ」と訊ねられたものだ。
「そういや俺も、ちょっと前知らない人に話しかけられたな。教室聞かれたんだけどさ、俺も知らなくて答えられなかったや」
侑也の回想に、白都は妙な胸騒ぎを覚えた。何に引っかかったのか自分でも分からないが、素直に流せない。
「まぁ、知ってても覚えてない人って居るよね。俺もたくさん居るよ。一年の時の友達とか髪型変わってると思い出せない」
冗談っぽく笑う和月の言葉は、白都自身に新たな可能性を与えた。
今は付き合いの無い人間の仕業かもしれない、と。
理由があって一旦友人を止めた人間ならば、嫌がらせに走るのも分かる。
白都は記憶の中から、一年生の時に仲良くしていた人物の顔を、一から思い出せるだけ浮かべた。
実は、ブザーの件が終了して直ぐ、次なる命令が届き、実行するごとに新たな命令が下され続けていた。
期限はほぼ二十四時間に近い物が多く、常に緊張状態で気が休まらない。
命令では無いメールも途中に挟まれ、
“裏道の使用を止めてはならない”
“携帯の電源は常に入れておくように”
“情報はこちらには筒抜けだから隠蔽は出来ない”
――など、細かな条件や脅しが幾つか足されていた。
その所為あってか、視線を常日頃から感じるようになり、眠れないことは無いが、命令が始まってから熟睡が出来なくなった。
これまでの七日間の間に下された命令も、どれもが幼稚で無意味な物ばかりだった。
“誰が座るかさえ分からない授業用の椅子に、リアルな虫の模型を密かに置く”だとか“図書室の本のページを一枚破って持ち帰れ”だとか、地味な物が目立った。
誰も発見しなかったのか話が持ち上がることさえない物や、数時間だけで完全消化される物などが多く、危機という危機は全く訪れなかった。
脅迫を受けている自覚は大いにあるが、虐めを受けている気分も合わさってきて、複雑な感情に苛まれる。
実際は御面も戯れ程度にメールを送りつけただけで、実は本気なんか欠片もないのでは無いか、と都合のいい考えまで浮上していた。
とは言え、それは想定であり、本心が分からない以上抵抗一つ出来ないのだが。
因みに“御面”というのは、迷惑メールに紛れないよう、アドレス登録しておく際につけた名である。
命令メールが送られてくる際、時々間違ってはいるが、大学の内部構造を知る人物にしか出来ない指定が含まれている場合がある。そこからも、大学関係者だと分かった。
ただ、熟知していると言い切れない分、学年までを絞ることは出来なかった。
犯人の推測が出来ない。遠縁の人物なのか、近しい人物か、まさか縁もない人間なのか、的を絞る為の項目があまりにも少なすぎる。
しかし、ほぼ無関係の人間が、こんなに手の込んだ虐めを仕向けようとするだろうか。自分だったら、知らない人よりも知っていて恨んでいる人間を選ぶだろう。
もし、友人五人の中に犯人がいたら――。
ふっと過ぎった可能性に、白都は首を横振りしていた。付き合い始めて日が長い訳では無いが、信頼もしており、何度も助けてくれた友人達を疑いたくはない。
白都は授業中でありながら、上の空で教師の音読を聞いていた。
***
「……白くん、具合でも悪い?」
箸を空中に浮かせながら弁当を見詰めていると、穂積の声が降ってきた。
表情を仰ぐと、心配そうな瞳がこちらを見詰めていた。
気遣った穂積の方が、何だか青い顔色をしているように見受けられるが。
「いや、大丈夫ですよ。穂積さんは大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、ありがとねぇ」
やんわり笑んだ穂積の横で、日向もなにやら考えごとをする仕草を取っていた。
話を切り替えるため白都が投げ掛けるより先に、侑也が先手を取る。
「ひな、考え事か? 珍しいな」
日向は仕草も視線も変えず、口を小さく開けた。
「……うん、顔が思い出せなくて……」
「顔?」
「知り合いらしい人に声をかけられたんだけど誰か思い出せなくて……」
「まぁ、あるあるだなー!」
「…………そうか、ならいいや……」
日向は、人の顔を覚えるのが苦手だと前に言っていた。白都と知り合った頃も、何度も「どなたでしたっけ」と訊ねられたものだ。
「そういや俺も、ちょっと前知らない人に話しかけられたな。教室聞かれたんだけどさ、俺も知らなくて答えられなかったや」
侑也の回想に、白都は妙な胸騒ぎを覚えた。何に引っかかったのか自分でも分からないが、素直に流せない。
「まぁ、知ってても覚えてない人って居るよね。俺もたくさん居るよ。一年の時の友達とか髪型変わってると思い出せない」
冗談っぽく笑う和月の言葉は、白都自身に新たな可能性を与えた。
今は付き合いの無い人間の仕業かもしれない、と。
理由があって一旦友人を止めた人間ならば、嫌がらせに走るのも分かる。
白都は記憶の中から、一年生の時に仲良くしていた人物の顔を、一から思い出せるだけ浮かべた。
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