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声を失い、硬直してしまう。夢現の区別が曖昧になってゆく。
今、自分は疲れて寝落ちていて、悪夢を見ていて――。
「残念、実行出来なかったね」
ぞわりと背筋に悪寒が伝った。和月は優しく笑んでいて、穏やかな目で白都を見ている。
だけど手には、包丁がある。
「……ごめんね。全部俺が悪いんだ」
和月の謝罪が示すもの、それはずっと求めていた真実だった。
今和月は、自分が御面であると認めたのだ。
「なんで……!」
白都は激情的に叫んでいた。同じタイミングで“逃げなければ”との本能も働き、シートベルトを外そうとするが指先が震えて縺れる。
「動くな」
低く重い声が、行動を制止させた。切り付けられることを恐れ、ただ黙って凍りつく。
「退屈だったんだ、人生が」
投げ捨てるように吐かれた理由が、白都には理解しがたかった。たったそれだけの理由で、これだけの悪事が出来るなんて。信じられない。
「だから面白いことがしたいと思った。見たいと思った。あ、白都くんを選んだのは、色々考察してみて丁度良かったからだよ。まぁ、あんまり楽しくなかったけどね」
白都にとっては大事な友人だった和月だが、和月にとっては友人でも何でもなかったのだと、今はじめて思い知らされる。
「でもさ、白都くんだけかと思ったら皆悩みだすんだもん、それはちょっと面白かったかも。皆友達思いでさ、凄いよねぇ」
和月は笑っていた。しかし、笑顔に楽しげな空気は一切含まれて居ない。
「穂積なんかさぁ、自分事みたいに悩んじゃって、自傷までして馬鹿みたいだよね」
愉快そうに嘲る姿に、白都は唯々愕然としてしまった。
「侑也くんは脅したら死んじゃうし、日向も罪に耐え切れずに死んじゃうし。あ、日向にはね、もう一人の御面として協力させてたんだよ。二人いるなんて考えなかったでしょ。あの子ああ見えて一人で寝られないくらい寂しがりやなんだよねー」
和月は愉快な口調で話を続ける。辻褄が嵌ってゆき、出来事の解明がされてゆく。
御面の正体は、日向と和月だった。それが正解だ。
恐らく和月がバイトの日に日向が肩代わりし、逆に日向と会っていた日は和月が御面を被っていたのだろう。
そんな単純なトリックに気が付かなかったなんて、どこまで愚かなんだと後悔しか出ない。
「君の大事な帝くんを殺したのも俺だよ。白都くんのことで話があるって行ったら家に入れてくれてさ……。でも流石にナイフ見せたら吃驚してた。刺して弱らせてから首絞めて殺したんだけど、彼結構力強くて一旦はどうしようかと思ったよ」
つらつらと晒されてゆく事件の全貌に、白都は歯軋りしていた。
帝の無念を思うと、涙も溢れてくる。いっそこの場で彼を殺してやりたいと、和月を手に掛けるイメージまで膨らんだ。
帝は御面の正体を確信していた。だが、恐らく、それは日向のみだったのだろう。
だから、和月を家に上げるという失態をしてしまったんだ。
「……色々あったけどさ、結局空しさだけだよ、残ってるのは……」
冷たい瞳が目前の景色を見ている。そこには自嘲も含まれているように思えた。
急に視線が白都を捕らえ、包丁の先端が移動する。真横に向けられた包丁の先が、冷たく首筋にくっ付いた。
「ごめんね白都くん、色々奪っちゃってさ……」
少し力が加えられ、一筋の血が流れ出した。真横に位置する死の気配に、心臓が激しく音を立てる。
「……そんなになってもまだ生きたいと思う?」
目の前の凶悪犯は穏やかで、そして悲しげに笑っている。
白都は、鳴り響く心が訴えるままの答えを口にした。
「………………はい……」
「そっか、白都くんは良い子だね」
動作の気配に、反射的にぎゅっと目を閉じる。
「来世では良い友達になれると良いね」
――――だが、聞こえた音と裏腹に、痛みは無かった。
今、自分は疲れて寝落ちていて、悪夢を見ていて――。
「残念、実行出来なかったね」
ぞわりと背筋に悪寒が伝った。和月は優しく笑んでいて、穏やかな目で白都を見ている。
だけど手には、包丁がある。
「……ごめんね。全部俺が悪いんだ」
和月の謝罪が示すもの、それはずっと求めていた真実だった。
今和月は、自分が御面であると認めたのだ。
「なんで……!」
白都は激情的に叫んでいた。同じタイミングで“逃げなければ”との本能も働き、シートベルトを外そうとするが指先が震えて縺れる。
「動くな」
低く重い声が、行動を制止させた。切り付けられることを恐れ、ただ黙って凍りつく。
「退屈だったんだ、人生が」
投げ捨てるように吐かれた理由が、白都には理解しがたかった。たったそれだけの理由で、これだけの悪事が出来るなんて。信じられない。
「だから面白いことがしたいと思った。見たいと思った。あ、白都くんを選んだのは、色々考察してみて丁度良かったからだよ。まぁ、あんまり楽しくなかったけどね」
白都にとっては大事な友人だった和月だが、和月にとっては友人でも何でもなかったのだと、今はじめて思い知らされる。
「でもさ、白都くんだけかと思ったら皆悩みだすんだもん、それはちょっと面白かったかも。皆友達思いでさ、凄いよねぇ」
和月は笑っていた。しかし、笑顔に楽しげな空気は一切含まれて居ない。
「穂積なんかさぁ、自分事みたいに悩んじゃって、自傷までして馬鹿みたいだよね」
愉快そうに嘲る姿に、白都は唯々愕然としてしまった。
「侑也くんは脅したら死んじゃうし、日向も罪に耐え切れずに死んじゃうし。あ、日向にはね、もう一人の御面として協力させてたんだよ。二人いるなんて考えなかったでしょ。あの子ああ見えて一人で寝られないくらい寂しがりやなんだよねー」
和月は愉快な口調で話を続ける。辻褄が嵌ってゆき、出来事の解明がされてゆく。
御面の正体は、日向と和月だった。それが正解だ。
恐らく和月がバイトの日に日向が肩代わりし、逆に日向と会っていた日は和月が御面を被っていたのだろう。
そんな単純なトリックに気が付かなかったなんて、どこまで愚かなんだと後悔しか出ない。
「君の大事な帝くんを殺したのも俺だよ。白都くんのことで話があるって行ったら家に入れてくれてさ……。でも流石にナイフ見せたら吃驚してた。刺して弱らせてから首絞めて殺したんだけど、彼結構力強くて一旦はどうしようかと思ったよ」
つらつらと晒されてゆく事件の全貌に、白都は歯軋りしていた。
帝の無念を思うと、涙も溢れてくる。いっそこの場で彼を殺してやりたいと、和月を手に掛けるイメージまで膨らんだ。
帝は御面の正体を確信していた。だが、恐らく、それは日向のみだったのだろう。
だから、和月を家に上げるという失態をしてしまったんだ。
「……色々あったけどさ、結局空しさだけだよ、残ってるのは……」
冷たい瞳が目前の景色を見ている。そこには自嘲も含まれているように思えた。
急に視線が白都を捕らえ、包丁の先端が移動する。真横に向けられた包丁の先が、冷たく首筋にくっ付いた。
「ごめんね白都くん、色々奪っちゃってさ……」
少し力が加えられ、一筋の血が流れ出した。真横に位置する死の気配に、心臓が激しく音を立てる。
「……そんなになってもまだ生きたいと思う?」
目の前の凶悪犯は穏やかで、そして悲しげに笑っている。
白都は、鳴り響く心が訴えるままの答えを口にした。
「………………はい……」
「そっか、白都くんは良い子だね」
動作の気配に、反射的にぎゅっと目を閉じる。
「来世では良い友達になれると良いね」
――――だが、聞こえた音と裏腹に、痛みは無かった。
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