神さまどうか、恵みの雨を

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神さま(2)

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 拒絶したくなるほど飽きた味を、無理やり咀嚼する。乾いた食感に口内を満たされ、祖母なんかは一口に相当時間をかけていた。
 無言の食卓の中、脳内だけが賑わしい。幾つもの願いを候補に挙げ、実現した場合の世界を想像した。

 例えば、僕の畑にだけ雨を降らせてもらうのはどうだろう。いや、それだと畑が奪われる。じゃあ一箇所には留めず、僕が神に求めた時しか、村に降らないようにしてもらうとか。でもそれだと――。

 考えては案を投げ捨てる。村人の本性を突きつけられてきた僕は、何を選んでも良い選択だと思えなかった。
 神さまのように、結局はいいように利用されるだけ。結論付いてしまい、振り出しに戻る。
 それを繰り返していたら、完食にいつもの倍かかった。

「ばあちゃん、神さまにどんな願いでも叶えてあげるって言われたら、本当は何をお願いしたい?」
「神さまに? そうねぇ」

 少ない水で口直しをしながら、ようやく祖母に声をかける。元々願いなどなかったのか、即答はなかった。潤いを味わいながら、じっくり頭を悩ませている。

「雨を降らせて下さいってお願いするかしらね」

 そうして固められた答えに、思わず指摘を入れそうになった。変わらないじゃないか、と。しかし、祖母のことだともう少しだけ続きを待つ。

「もちろん、ずっとじゃないわよ。時々降って太陽も出る。そういう普通のお天気に戻ったら、皆苛々せず平和に過ごせるでしょう」

 素朴で愛に溢れた願いは、僕の心を引っ掻いた。痛みが蠢き、神さまとの一件を無意識に隠してしまう。
 神さまは、僕の願いなら何でも叶えてくれると言った。だから、祖母の願いを代弁しても実現してくれるだろう。

 でも、実行した先で僕らは――いや、祖母だけでも幸せになれるのか。思えば思うほど分からなくなった。
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