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平然の文字を、頭に描き登校する。だが、扉を開けた時、暗示はあっさり崩された。とは言え、目に見えた事件はない。あったのは、葬式よりも暗鬱なムードだった。
「……な、何かあったの?」
未知がもたらす恐怖が、閉口すべきとの考えを打ち砕く。意外にも、小宮さんは躊躇わず口を開いた。
ーー黒崎くんが怪我をした、と。
休み時間、泥中の教室を抜け廊下を歩く。些か空気は澄んでいたが、影響は学校全体を蝕んでいた。嘗ては他の組や職員室なんかでも悪戯はあったらしい。
向かう先は、黒崎くんのクラスだ。同じ階ではあったが、教室は最も奥にある。
「黒崎くんいますか……」
「あー今日休みなんだ。用があるなら連絡しとこうか」
「……いいです」
予測はしていたが、正直裏切られたかった。怪我の度合いを朧気にしたくなかったのだ。理由は単純に恐怖と、黒崎くんの身を案じてのことである。
「あ、二人じゃないと話しにくいこと? それじゃ連絡入れるよう黒崎に言っとくよ。番号聞いていい?」
開示を警戒したものの、状況把握したい心理が勝利した。結果、番号を託して用は終わった。
***
自室の机には教科書や筆箱、その中身までが乱雑に並んでいる。全て鞄に入れていたものだ。空の鞄を振り回したりもしてみたが、目標物だけは現れなかった。
ーースマートフォンがない。恐らく忘れてきた。
今日は偶然、施錠時刻まで残っており、今戻っても校内には入れない。何より、花川さんの存在が抵抗を生じさせた。
普段ならこの時点で諦める。しかし、連絡の約束が咎めた。状況が気になるのはもちろん、電話をとれず、変に心配させるのは気が引ける。まさか、あの選択が時差で後悔になると思わなかった。
警備員が残っている可能性にかけ、身一つで部屋を出た。
***
校門が施錠されていたら潔く引き返す。そんなルールを設け、自転車を走らせる。白んだ宵闇に身が縮んだ。
門を捉える直前、動く影を察知する。花川さんを連想し、走行を止めかけた。だが、すぐ不正解を知る。校門を潜っていったのは黒崎くんだった。傷の具合までは目視できなかった。
目的の追求を差し置き足が動く。携帯の件を手早く伝えれば、教室までいかずに済むかもしれない。
黒崎くんを追って門を潜った。だが、俊足なのか早々見失った。向かうなら恐らく自分の教室だろう。ホラー映画に迷いこんだようだったが、なぜか引き返す選択はなかった。後で思えば、何かに憑かれていたのかもしれない。
目的地を阻むポイントが待ち受けている。私のクラスーー花川さんの出現場所だ。結局、到達前に捕まえたいとの願いは叶わなかった。
視線を反対側に向け、怖々と足を引きずる。早足で通り過ぎようとして、物音に耳を奪われた。
目を向けるつもりは無かった。しかし、視線は勝手に動き、教室内を視野に入れてしまう。そこには真っ黒な人影があった。
瞬間的に翻りかける。しかし、人影が花川さんでないと気付き、留まった。室内にいたのは、またも黒崎くんだった。顔に絆創膏やガーゼはあるが、そこまで酷い傷ではなさそうだ。
何をしているんだろうーー訝しんだのも束の間、屈む動作が見えた。立ち位置の関係で、黒崎くんが死角に消える。感覚に従い引き返そうとも考えたが、単純な解明意欲が取っ払った。無音を意識し、扉を開く。
「黒崎くん何して……」
「見たね」
散らばっていたのは、壊れた掃除道具だった。
微笑まれ、返答を手繰る。だが、引きつった笑みしか滲まなかった。悪戯の犯人が黒崎くんだなんて、誰が考えるだろうか。
「まぁ、見られたのなら仕方ない。変に言い訳する気はないよ」
月明かりに背を向け、黒崎くんが腰をあげる。黒い瞳で私を捉え、態とらしく道具を蹴った。音に肩が跳ねる。
「僕は花川さんの代わりに復讐をしてる。彼女は本当にこの学校を恨んでるから。花川さんが望む通り、学校を潰すんだ。そして殺した奴等に謝罪もさせる」
理由を前にし、絶句を続けてしまう。だが、恐ろしさは少し引いていた。
黒崎くんは、花川さんの為に悪事を働いている。死に追い込んだ奴と学校を潰すーーそんな途方もない目的を肩代わりして。
「このこと口外したら殺すから」
深い呟きが刺さる。それが黒崎くん自身の言葉か、代弁かは判別出来なかった。
しかし、背いた結果に変わりはないのだろう。
「……な、何かあったの?」
未知がもたらす恐怖が、閉口すべきとの考えを打ち砕く。意外にも、小宮さんは躊躇わず口を開いた。
ーー黒崎くんが怪我をした、と。
休み時間、泥中の教室を抜け廊下を歩く。些か空気は澄んでいたが、影響は学校全体を蝕んでいた。嘗ては他の組や職員室なんかでも悪戯はあったらしい。
向かう先は、黒崎くんのクラスだ。同じ階ではあったが、教室は最も奥にある。
「黒崎くんいますか……」
「あー今日休みなんだ。用があるなら連絡しとこうか」
「……いいです」
予測はしていたが、正直裏切られたかった。怪我の度合いを朧気にしたくなかったのだ。理由は単純に恐怖と、黒崎くんの身を案じてのことである。
「あ、二人じゃないと話しにくいこと? それじゃ連絡入れるよう黒崎に言っとくよ。番号聞いていい?」
開示を警戒したものの、状況把握したい心理が勝利した。結果、番号を託して用は終わった。
***
自室の机には教科書や筆箱、その中身までが乱雑に並んでいる。全て鞄に入れていたものだ。空の鞄を振り回したりもしてみたが、目標物だけは現れなかった。
ーースマートフォンがない。恐らく忘れてきた。
今日は偶然、施錠時刻まで残っており、今戻っても校内には入れない。何より、花川さんの存在が抵抗を生じさせた。
普段ならこの時点で諦める。しかし、連絡の約束が咎めた。状況が気になるのはもちろん、電話をとれず、変に心配させるのは気が引ける。まさか、あの選択が時差で後悔になると思わなかった。
警備員が残っている可能性にかけ、身一つで部屋を出た。
***
校門が施錠されていたら潔く引き返す。そんなルールを設け、自転車を走らせる。白んだ宵闇に身が縮んだ。
門を捉える直前、動く影を察知する。花川さんを連想し、走行を止めかけた。だが、すぐ不正解を知る。校門を潜っていったのは黒崎くんだった。傷の具合までは目視できなかった。
目的の追求を差し置き足が動く。携帯の件を手早く伝えれば、教室までいかずに済むかもしれない。
黒崎くんを追って門を潜った。だが、俊足なのか早々見失った。向かうなら恐らく自分の教室だろう。ホラー映画に迷いこんだようだったが、なぜか引き返す選択はなかった。後で思えば、何かに憑かれていたのかもしれない。
目的地を阻むポイントが待ち受けている。私のクラスーー花川さんの出現場所だ。結局、到達前に捕まえたいとの願いは叶わなかった。
視線を反対側に向け、怖々と足を引きずる。早足で通り過ぎようとして、物音に耳を奪われた。
目を向けるつもりは無かった。しかし、視線は勝手に動き、教室内を視野に入れてしまう。そこには真っ黒な人影があった。
瞬間的に翻りかける。しかし、人影が花川さんでないと気付き、留まった。室内にいたのは、またも黒崎くんだった。顔に絆創膏やガーゼはあるが、そこまで酷い傷ではなさそうだ。
何をしているんだろうーー訝しんだのも束の間、屈む動作が見えた。立ち位置の関係で、黒崎くんが死角に消える。感覚に従い引き返そうとも考えたが、単純な解明意欲が取っ払った。無音を意識し、扉を開く。
「黒崎くん何して……」
「見たね」
散らばっていたのは、壊れた掃除道具だった。
微笑まれ、返答を手繰る。だが、引きつった笑みしか滲まなかった。悪戯の犯人が黒崎くんだなんて、誰が考えるだろうか。
「まぁ、見られたのなら仕方ない。変に言い訳する気はないよ」
月明かりに背を向け、黒崎くんが腰をあげる。黒い瞳で私を捉え、態とらしく道具を蹴った。音に肩が跳ねる。
「僕は花川さんの代わりに復讐をしてる。彼女は本当にこの学校を恨んでるから。花川さんが望む通り、学校を潰すんだ。そして殺した奴等に謝罪もさせる」
理由を前にし、絶句を続けてしまう。だが、恐ろしさは少し引いていた。
黒崎くんは、花川さんの為に悪事を働いている。死に追い込んだ奴と学校を潰すーーそんな途方もない目的を肩代わりして。
「このこと口外したら殺すから」
深い呟きが刺さる。それが黒崎くん自身の言葉か、代弁かは判別出来なかった。
しかし、背いた結果に変わりはないのだろう。
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