優しきストーカーとの生活

最終話

　生活の痕跡が残っていたのだろう。後日警察がやってきた。その際受けた数々の質問と、更に後のニュースでおよその事情を把握した。
　やはり、ストーカーと安岡は別人だった。

　あの事件でストーカーは死に、安岡は傷を持ちながら刑務所にいる。彼は全ての真実を自供した。

　私を愛し、ストーキングを行なっていたこと。その最中、私を狙う確かな殺意を見たこと。自らの立場を危ぶみ、警察には行かなかったこと。
　保護の名を借りて私を拉致したこと。

　発言の全ては、悪意によって捻じ曲げられ、危険思想として全国に放たれていた。

　それから一般人として毎日仕事に出ていたこと。私が消えてなお、行為を続けるストーカーに痺れを切らし、殺す決意をしたこと。
　被害者にーー私に見せるつもりはなかったこと。

　その前に居場所が知れ、あの場で事件が起きてしまったが。

　解放から数ヵ月、私は新たな仕事を初めた。とは言え自主的ではなく、必要に迫られてのことだ。
　私はまた、透明人間に戻った。孤独を募らせ嘆く日も多い。ただ、それは昔も同じだ。
　あの時だって透明ではなかった。安岡は私を見ていた。

　普通に話しかけてくれれば良かったのに。そしたら仲良くなれたかもしれないのに。なんて時々思っては、私も同じかと嘲った。

　あの出来事は、今でも私に悪夢を見せる。けれど、孤独でない証明にはなった。
　安岡は、刑期を終えたら会いに来るだろうか。訪れたら、私は何を言うべきだろうか。

　この事件を受け、人々は好き好きに彼を評価した。発言や行動の数々は、世間様の退屈凌ぎに打って付けだったらしい。
　悪は悪だと、正義を振り翳して叩く者。深すぎる愛を讃える者。被害者が可哀想だと、表面だけをなぞる者。
　多くの者がいたが、全員が共通して彼を異常者と認定した。

　しかし、私には安岡が異常だとは思えなかった。そう考える私の方が、異常者なのかもしれない。それならそれで、嫌ではないとも思っている。
　
　叶うなら次は、対等な立場で彼と普通に暮らしてみたい。