幸福の結末

有箱

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不足①

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 人知を越える力を、半ば信じきれていなかった。だが、それはすぐ覆されることとなった。
 魔人は意図も簡単に願いを叶え、要求を完全に遂行してみせたのだ。

 娘は健康体を取り戻し、富豪の恋人が出来た。しかも要求通り自然に。娘を見初めた男が名医で、瞬く間に体を直してしまうなんて考えもしなかった。

「一先ずこれで全部叶えた。あとは様子見だな。で、旦那は本当にいいのかい? 金や女や健康、なんでも手に入るんだぜ?」

 推薦するかのように具体例をあげられ、叶った世界に自分を置いてみる。メリットこそあれどデメリットはないだろう。事実、どれも現在手持ちになく不自由はしている。だが、その上で不要と判断した。なぜなら。

「私には必要ない。いや、違うな。私は得てはいけないんだ」
「ふーん、変なの」

 必要以上を願えば、それこそ多くの対価を必要とするだろう。
 
***
 
 力の働きがあってから、彼女の活動拠点は広くなった。以前とはかけ離れた輝きに安堵する。最低限の身なりだけ魔人に整えてもらい、外野に扮して様子を伺い続けた。ただ、これはただの見守りではない。

 魔人曰く、彼女は幸福ではないらしい。微かな憂いを見つけたというのだ。輝きに目を取られ、私には見えなかった憂いが。ゆえに今は、彼女の中の不足を探している。

 あの後、充実感の確保と、才能が日の目を見るよう導いてもらった。小さな料理屋を開いた彼女は、上限だと思っていた輝きを越え、煌めいてみせた。
 だが、駄目だった。その他多くの案を投じてみたが、それでも補えなかった。

 万事休すーー幾ら思考を絡めても何も出てこない。そんな差し迫った状況であるのに加え、期限の七日めに突入していた。

「こうなったら、俺が直接聞いてきてやるよ」
「幾らなんでも、それは不自然じゃないか?」
「大丈夫だ。それに願いを叶えられないなんて面白くない」

 特有の感覚を口にし、魔人は姿を変える。目の前に立っていたのは娘の恋人だった。
 計画を察し、節穴だったと拍子抜けする。確かに、信頼している相手になら、話せることもあるというものだ。

 きっとこれで、本物の願いが判明するだろう。
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