おいしい中華の作り方

有箱

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前編

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 我が家は貧乏だ。決して謙遜しての表現ではない。マジな奴である。貯金額なんか酷すぎて言えたものではない。

 よく、ママ友と話をしていると「家《うち》、お金なくてー」とか言う人間が出てくるが、そういう奴ほど外食ランチの話をしたがるものだ。

 それを耳にする度、それはあるって言うんやで……と呟きたくなるが飲み込んでいる。そのくらい貧乏だった。
 
 なぜ、そこまでお金がないかと言うと、離婚し収入が減ったからである。まぁ、よくある話と言えよう。

 今はシングルマザーとして、可愛い可愛い一人息子を育てている。
 
 息子は今、小学五年生だ。反抗期と言う反抗期はまだなく、かなり真っ直ぐ育ってくれている。内気なところが少し心配だが、そこは徐々に変わって行くだろう。

 大きくなったら僕がお母さんを助ける、が口癖なのだが、本気で期待していたりする。いや、彼が幸せになってくれればそれで良いけどね。



 今日は土曜日だ。土、日は学校が休みの息子に合わせ、私もパートを入れていない。
 と言うことで、今日は一日中一緒にいられる最高の日なのである。

 本日も朝からトランプをしたり、勉強を見たり、学校での話を聞いたりと有意義な時間を過ごした。
 
 そんな私だが、今ちょっとした試練にぶつかっている。と言っても、全く深刻なものではない。 
 発端は数分前。唐突な息子の一言だった。

「お母さん、お昼ご飯は中華がいっぱい食べたい」

 普段ほとんど意思を伝えてこない息子から、的確な要望があったのだ。しかも、内容まではっきりしているらしく、容赦の欠片なく次々料理名をあげて行く。
 五つ挙がり、まだ続きそうだった為、その辺りにある裏紙とペンを引っ張り出した。



 完成したメモを見る。結局、十の候補が上がってしまった。途中で止めてそれだ。息子よ、どんだけ食べたいものあったの。

 からあげ、玉子スープ、はるまき、餃子、エビマヨ、麻婆豆腐、ニラ玉、炒飯、ゴマ団子、杏仁豆腐の文字が並ぶ。

 さすがに全ては無理だが、半分くらいなら叶えられるだろう。どれも定番料理ばかりで、レシピなしでもなんとか作れそうだし。

 ただ、試練と言うのはそこではない。
 
 メモを持ち、向かった先はキッチンだ。冷蔵庫に貼ってある在庫リストと見比べる。

 我が家の買い物には、的確な決まりがあった。簡単に言うと、一週間分買い置きルールである。

 大体のメニューを買い物前に決めておき、七日分纏めて買うのだ。店に行く回数を減らし、無駄な出費を避けようと言った狙いがある。

 慣れるまでが大変だが、慣れてしまえば以外とやっていけるものだ。
 ただ、今日のようなイレギュラーがあると、まだまだ戸惑うが。

 しかも、そのショッピングデイが毎週日曜だった。
 お気付きだろうか。本日は土曜――最後の一日なのである。いわゆる、材料が限定されていると言うことに!

 使いきりを前提にして買っている為、材料は今日の昼と夜、そして明日の朝分――計三食分しかなかった。
 しかも、節約やすい食材を多く揃えている為、一般的ノーマルな材料が無かったりもするから大変だ。
 
 今ある材料で中華定食を拵える。それこそが母である私に課せられた試練だった。



 リストによると、冷蔵庫に玉子が二つ。そして、冷凍庫に幾つかの食材が残っているようだ。

 しめじと舞茸、スライスした玉ねぎ、それから豆腐に生うどん。唐揚げには欠かせない鳥むね肉や、マッシュしたかぼちゃなんかもある。

 腐らせないをモットーとする節約に冷凍は必須であり、土曜は大抵ここから削ることになった。

 それから野菜室にキャベツが四分の一とにんじんが一本。野菜ストッカーにじゃが芋も見えた。
 最後に粉ものと乾物カゴを軽く確認し、食材チェックは終了だ。

 材料から、作れそうなメニューを見繕う。料理が食卓に並んだ場面を想像し、作るものを決めた。

 本日の中華定食は、唐揚げと春巻きメインで、付け合わせにキャベツの千切りを。そしてバランスを見て白飯と玉子スープにしよう。食事最後のお楽しみには、ゴマ団子を用意して。
 
 さて、調理開始だ。息子よ、楽しみにしていたまえ。
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