3 / 7
3
しおりを挟む
戦争が日常を奪うのは早かった。いや、日常だけじゃない。喜怒哀楽の感情も、全てを奪っていった。
最後まで残った憎悪や疑問も、殺されるのに時間は掛からなかった。
「……私、もう家に帰りたい……」
ぽつり、溢された弱音が耳に灯る。寝返りで顔を向けると、頬に光沢が見えた。隣にいるのは、共に戦禍を抜けてきた戦友である。とは言え、彼女のことは名前一つ知らない。
現在、私たちは寝室と言う名の固い部屋に詰められている。もちろん癒しなどはなく、体の痛みで数時間前に目覚めていた。無論、不眠は痛みのせいだけではない。
「そういうの言わない方がいいよ。て言うか私語禁止」
敢えて厳しく忠告する。味方であろうと、危険因子は排除対象だ。発言が命を奪うシーンを、見てきたのは同じはずなのに。
「でも辛いの。ただ家族とか友達と仲良く楽しく過ごしたかっただけなのに。戦うの怖いし帰りたい……」
「私もう喋らないからね」
突き放して、再び寝返りで背く。相当堪えているのか、彼女は嗚咽を鳴らしだした。見つかったらどうなることかーー頭が経過を導き、鋭い痛みが胸を指す。だが、一々引っ掛かってはやりきれない、と痛みを殺した。さすがに、共感による痞えまでは消せなかったが。
許されるのなら、私だって今すぐ駆け出して帰りたい。お母さんと弟にぎゅっと挟まれたい。でも、今は夢でしか無理だから。
私は、その時まで私を砕き続けるのだ。
最後まで残った憎悪や疑問も、殺されるのに時間は掛からなかった。
「……私、もう家に帰りたい……」
ぽつり、溢された弱音が耳に灯る。寝返りで顔を向けると、頬に光沢が見えた。隣にいるのは、共に戦禍を抜けてきた戦友である。とは言え、彼女のことは名前一つ知らない。
現在、私たちは寝室と言う名の固い部屋に詰められている。もちろん癒しなどはなく、体の痛みで数時間前に目覚めていた。無論、不眠は痛みのせいだけではない。
「そういうの言わない方がいいよ。て言うか私語禁止」
敢えて厳しく忠告する。味方であろうと、危険因子は排除対象だ。発言が命を奪うシーンを、見てきたのは同じはずなのに。
「でも辛いの。ただ家族とか友達と仲良く楽しく過ごしたかっただけなのに。戦うの怖いし帰りたい……」
「私もう喋らないからね」
突き放して、再び寝返りで背く。相当堪えているのか、彼女は嗚咽を鳴らしだした。見つかったらどうなることかーー頭が経過を導き、鋭い痛みが胸を指す。だが、一々引っ掛かってはやりきれない、と痛みを殺した。さすがに、共感による痞えまでは消せなかったが。
許されるのなら、私だって今すぐ駆け出して帰りたい。お母さんと弟にぎゅっと挟まれたい。でも、今は夢でしか無理だから。
私は、その時まで私を砕き続けるのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる