エルフ育成日記

最悪爽快マン

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地面を踏み締めるたび、グチャリと音がする。

限界まで水を吸ったブーツが、歩くたびに水を押し出し地面を濡らす。靴ばかりではない、髪も外套も、綿のYシャツさえぐっしょりと濡れていたが今の自分にはさほど問題もなかった。
今は、剣だ。先の戦いで折れてしまったそれはもう捨ててしまった。腰に下げた形ばかりの鞘、その軽さに苛立つ。早く武器を調達しなくてはいけない。なんでもいい。一刻も早く剣を見つけないと……。いや、ここは街中だ。そう焦らなくてもすぐ見つかる……。心に応えるように、目の前に武器屋を発見した。
それは中古品中心に扱っている、武器中心の雑貨屋のようだった。錆びた金具の嫌な音を響かせながらドアを開ける。埃と、中古品特有の気の抜けた臭い、そしてなんだか奇妙な酸っぱい臭いが鼻をつく。

「いらっしゃい……ってお客さんずぶ濡れでどうしたの」

入り口にほど近いカウンターから声をかけられる。小太りの、初老を過ぎた男だ。

「川に落ちただけだ、それより剣をくれ」
「はあ、ドジしたねえ、しかし剣よりも着替えを買ったほうがいいんじゃない?」
「剣をくれ」
「はいはい…」

変な客だ、そう思っているのが伝わる。俺も自覚はある。

「剣の棚はこっちだよ」

そう指を刺されるのはカウンターの隣。木の棚に何本もの剣が立てかけられている。1本400タロル、市場よりもだいぶ安い。質はあまり良いものじゃないが。ろくな手入れもされていないのだろう、金属は痩けて艶がなく、ところどころ欠けている。とても使えるものじゃないだろう。が、それで良い。
それよりも気になるのは、すぐそばにある大きめの檻だ。店主の半身ほどもある檻は本来、鶏や中型犬を入れておくためのものだ。しかし中に入っているのはのように見えた。
おそらく7歳ほどの子供だ。ひどく痩せこけ、手足は棒のようだ。全身は排泄物などの汚れで真っ黒、長く荒れた髪にはシラミの卵が大量についている。特に目を惹くのは……壊死したであろう、右脚だ。膝の下まで無くなっており、断面は剥き出しの骨が見えている。壊死した黒い肉にはウジ虫がたかり、独特の異臭を放っている。
壊死した傷口は泣き叫ぶほどの痛みがあるだろうに、子供は何も喋らず震えているだけだった。これは……。

「今、剣を2本買うと奴隷をプレゼント!しかも定価の半分700タロルで良いよ!さあどうだい兄ちゃん?」

おちゃらけた様子で店主がいう。馬鹿だな、奴隷にしても幼すぎる上に怪我をして働かせることもできない。明らかな不良品だ。誰も買ってくれないだろうから剣と一緒にして売りに出してるんだろうが、こんなの買うのはかなりの好色か、死体に用がある研究者くらいだろう。

「1本でいい」

そう言って400タロル渡す。店主も分かっていたようで、あまり渋る様子もなく金を受け取る。
剣の中でもいくらかマシなものを手に取り、腰の鞘に差した。安定感のある重みからか心に余裕が出てきた。

「何故、あれを店に置いてる」
「あれ?ああ、あの奴隷のことか?」

興味本位で尋ねると、店主はやれやれと首を横に振った。

「使い物にならないから殺しちまっても良かったんだけね、でも、まあ、最近は面倒な法も出来たじゃないか」

近年整備された法……奴隷の所有権及び死体の扱いについての法律か。確か、奴隷の死体にも主人の所有権が発生するとかで、奴隷でも死体を放置せずちゃんと埋葬の手続きをしなくちゃいけないとかなんとか。

「でもうちに埋葬を頼むだけの金も無いからさ、こうやってずるずると生かしてるのよ」

毎日残飯あげるだけでいいしね、と笑う。しかしこれでは、奴隷からの異臭で客が寄り付かなくなるのではないだろうか。どちらにせよ店主はこの奴隷をどうにかする気もないらしく、いつか買われていくのを願うしかないらしい。

「……おい、このシーツもくれ」

物売り棚の上にあるカビたシーツをとる。

「ああはい、230タロルね」
「タダにしてくれ」
「はあ?」

俺はシーツを広げると、檻の中の奴隷に近づいた。

「こいつを引き取ってやる、だからタダにしろ」
「お客さん、本気で言ってるのか?」
「ああ」
「それまたどうして?」

店主は細い鍵を手に取ると、檻の扉を開放する。檻が開けたにも関わらず奴隷の子供はカタカタと小さく震えるだけだった。

「犬を飼いたかったんだ」

奴隷の子供にシーツを被せる。細く小さな身体を簀巻きのようにすると、肩に背負う。ここまで近づくと異臭が本当に酷い。思わず眉を顰めるが許容範囲だ。

「へえ、それは変わってますねえ……」

意味が分かってるのかそうでないのか分からない反応を示す店主を一瞥しながら、俺は店を去った。子供は状況が大きく変わったというのに暴れたりしない。暴れる体力も無いだろう。少し呻き声のようなものが聞こえる。ここまで弱っていると家に着く前に弱って死んでいるかもしれないな。

その時は、その時だろう。




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