エルフ育成日記

最悪爽快マン

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着替えは終わり、食事も投薬も終わった。あとは脇の下などに氷嚢を挟みゆっくり休ませる。疲れてしまったのか呻き声も手足をばたつかせるのもやめてしまい、今は穏やかに寝息をたてている。

「ズエン様!胸のお傷を消毒いたします!」
「この程度ならいらない」
「尿を触った手で傷つけられた可能性もあるので、洗浄した方がいいかと!」

大声で救急箱を押し付けられる。使用人Cはいつも大げさだが、その大げさに救われる時もある。大人しく消毒を受け入れることにした。

「ご主人様、そちらが終わったらお食事にしてください」

部屋の入り口から声をかけられる、タガーだろう。

「まだ鍛錬が終わっていない」
「ご主人様が食べないと片付けが出来ないので鍛錬は諦めてください」

じゃあ仕方ない。仕方ないが、素振り700回分の運動量喪失をどこかで補う必要がある。とにかく負荷が欲しい。
食事の後は部屋を掃除して、馬を走らせに行って、ああ、隣人から壊れた柵を直すようにも言われてた。野菜の収穫も手伝わなければ。一日中両手に10kgずつ重りをつけてたらいい感じの負荷にならないか……。

「治療が終わりました!」

使用人Cが言う。ご丁寧に傷口は軟膏で塞がれている。

「次からは服を着てくださいね!佩刀してるのに半裸なんて変態くさいですから!」
「俺はそう思わないが」
「あとちゃんと身体を拭いてから来てください!ちょっと汗臭いです!」
「分かった」

使用人たちは臭いにうるさい。やたらと衣類や部屋をいい匂いにしたがるし花を飾りたがる。獣人は匂いに敏感らしいが花の匂いは良いのだろうか。
以前、仕事で家を1年以上空けた時。帰ってきたら家中が花とフリルとリボンで飾られていた。俺のベッドにはドレスで着飾ったぬいぐるみが敷き詰められ、俺がいつも座るダイニングチェアーにはやたらデカいクマのぬいぐるみが置かれていた。馬ですらリボンをつけられていた。
あの時は使用人全員が狂ってしまったかと思い大変焦ったが、聞いてみると手持ち無沙汰メーターが最高潮に達したからだとよく分からないことを言っていた。家主が居ないからハメを外してしまったのだろう。




夜。
やることを一通り終えた後に子供の様子を見る。
意識はあるようだが、宙を見てボーッとしている。熱はあるがうなされてはいない、痛みを感じている様子もない。穏やかなものだろう。日中は使用人に頼んで軽いストレッチや食事や入浴をしたはずだから、俺がやることは頭の治療だけ。

パサついた髪に手を乗せる。
回復の魔法、手のひら全体に意識を向け、傷が治っていく過程を想像する。壊れた細胞を修復し、神経や血管を繋ぎ、元の姿に戻す。
後頭部から前頭部にかけて優しく、ゆっくり、何度も撫でる。耳やこめかみ、うなじまでしっかりと。
正直効いているのか分からない。分からないが、心なしか表情が穏やかになったような気がする。俺がそう思いたいだけかもしれないが。

「ぁ」

子供はかすかに言葉を発する。昨日からさんざん聞かされている呻き声とも違う、子供らしい高い声だ。
ひたすら撫でる。医者が言うには10分くらいでいいということだが、時間を計っていないため感覚でやっている。撫ですぎてもダメなことはないだろう。
頭にはシラミが顔を覗かせている。毎日薬湯につけて櫛ですいてやればいつかは無くなるだろう、いっそのこと全部剃ってやればいいと提案したが、使用人たちは可哀想だと必死に止めてきた。シラミで痒い方が辛いと思うが。

子供は眠たげに目を瞬かせながら俺の方を見つめてくる。俺を認識しているのかは分からないが、自身に干渉してくる謎の存在がいる事は理解しているだろう。
濁った目には俺の顔しか写っていない。同じように濁ったような表情をした俺の顔は、その子の未来を暗示しているように思えた。




3日後。
奴隷の熱が下がった。怪我の炎症はまだ続いているが、だいぶマシになったといえる。食事もよく食べるし、運動能力の向上も見られる。今日は10分程度なら座る姿勢を保持することができた。

「そろそろ奴隷に名前をつけてあげたらどうですか~?」

使用人Aが食器を片付けながら言う。子供はまだ予断を許さない状況だが、最初よりは大分マシになった。名前をつけてもいい頃合いだろう。

「せっかくなら教皇様から賜ってくるか」
「ええ~?それならボクがつけてあげるよ」
「教皇様なら外さないだろ」
「そういうことじゃなくって~」

俺の名前も使用人たちも全員教皇様から賜ったものだ。教皇様は年間何百人もの名付けをしている、名付けのスペシャリストと言えるだろう。

「流石に教皇様も奴隷の名前なんて考えてくれないでしょ」

そうかも。以前、はるばる外国から来た馬に名前をつけたところは見たことあるが、それは特別な馬だからであって、ただの奴隷に名前をつけるのは憚られることかもしれない。まあ、頼めばロバにでも花にでも虫でも名前をつけてくれるだろうとも思うが。
教皇様は優しいのだ。

「なら俺がつける」
「ズエン様が?」
「お前たちのつける名前は変なのばかりだ」
「なんで?ガッデーム号もアンネカトリーヌ2世も良い名前だったでしょ?」
「人前で呼ぶ時恥ずかしい」
「そうかなあ」

本当に恥ずかしい。馬の名前を呼んだだけなのに周囲から「ん?」みたいな目で見られるのは辛い。馬も馬で、自分がその名前だと覚えているからちゃんと呼ばないと反応してくれない、非常に辛い。


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