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それからというもの、私は腫れものを扱うように世話をされている。
メイドたちは私を見張る役目もあって、入れ代わり立ち代わりではあるものの、片時も離れない。
私は浮気をしたから婚約を破棄された堕落した令嬢で、自殺未遂を犯して親を困らせた問題児で、今はまるで囚人みたい。
父や母が、世の中が、そういう私しか受け入れないのだから仕方ない。
大人しく囚人生活を送って、どれくらい経っただろう。
ある日の事、父が深刻な表情で部屋に入って来るなり言った。
「お前が正しかった。パトリシアは嘘を吐いていた」
「……」
私は椅子に座ったまま父を見つめた。
無実の罪が晴れた嬉しさなんて、微塵も感じない。私の心の中にあったのは、父への軽蔑だった。
「どんなに探してもジェームズが見つからない。もしやと焦り始めた頃、ブルック伯爵夫人が直々に謝ってきた」
「……」
ブルック伯爵夫人とはパトリシアの母親。
夫である伯爵と死別したあとは、交友関係のあった父がずっと気にかけてきた。だから私とパトリシアは幼馴染になった。
「お前が生死の境を彷徨ったという話がどこで洩れたかブルック伯爵家まで伝わって、責任を感じたメイドが自白したらしい」
「……」
「お前の筆跡を真似するために練習した紙の束を持って来たよ。パトリシアの指示で、あの手紙を偽造したと」
「なぜそんな事を?黙っていれば、私に罪を背負わせたまま生きて行けたでしょうに」
静かに尋ねた私の声が恐かったのか、父は少し委縮したように見えた。
「これは恐ろしい事だ、レーラ。お前を苦しめたままのうのうと生きていたら、いずれ、地獄に落ちるだろう」
ほら、そいういう事。
私に対しての謝罪の気持ちなんて、これっぽっちもない。
「許してくれ」
私の苦しみはどうなるの?
ねえ、お父様。地獄を味わった私はどうなるの?
私に地獄みたいな人生を押し付けたまま、自分だけ許されて、それで天国へ行こうっていうの?
虫が良すぎる。
「許してくれと仰るなら、まずごめんなさいと口にしてみたらよろしいのでは?」
「……?」
私の言葉が理解できないのね、お父様。
よくわかるわ。私たち、分かり合った事なんてないもの。
「それか、堕落したという幻の私しか見なかった時のように、許した私を想像して満足なさってもいいんじゃないですか?」
「レーラ」
「まあ、それも幻ですけれど」
なんだか笑える。
今の私はもう、父に信じてもらえなくてもいいと思っている。どうでもいい。
「なぜそんな事を言うんだ。まるで人が変わってしまったみたいだ」
困惑しているの?
お父様、今更それは可笑しいわ。
「お忘れかしら。お父様、私を殺すと仰ったのですよ?あの日、レーラは死にました」
「パトリシアの作り話だった!私も騙されたんだ!」
え?
それが理由になると思ってるの?
……お父様って、馬鹿なの?
「レーラを信じるという道もあったのですよ。だけど、それを選ばなかったのは御自分ですよね」
「レーラ。意地悪を言わないで、私を許すと言ってくれ!」
「そんなレーラはいません」
「じゃあお前は誰なんだ!!」
父は無様に叫び、頭を掻き毟る。
ふと、急に、結婚したくなった。
貴族社会では女が一人で生きていくなんて夢のまた夢。ましてや傷物になった令嬢なんて、家で飼殺されるか修道院に入るしか生きていく宛がない。
けれどもう一つだけ道がある。
「きっとお父様の知らないレーラでしょうね」
「ああ……どうしてこんな事に……!」
「そんなに持て余していらっしゃるなら、他の方に譲ってしまったら如何です?」
「お前は何を言っているんだ」
「レーラを、本人が納得する相手と結婚させるのです。そうすれば無理に受け入れる必要はなくなりますよ」
「お前はレーラじゃないのか」
「先ほど申し上げた通り、殺すと言われてレーラは死にました」
「ああ、意味がわからない!さっきから謝っているじゃないか!どうして苦しめようとするんだ!」
父は困惑している。
いい気味だ。
メイドたちは私を見張る役目もあって、入れ代わり立ち代わりではあるものの、片時も離れない。
私は浮気をしたから婚約を破棄された堕落した令嬢で、自殺未遂を犯して親を困らせた問題児で、今はまるで囚人みたい。
父や母が、世の中が、そういう私しか受け入れないのだから仕方ない。
大人しく囚人生活を送って、どれくらい経っただろう。
ある日の事、父が深刻な表情で部屋に入って来るなり言った。
「お前が正しかった。パトリシアは嘘を吐いていた」
「……」
私は椅子に座ったまま父を見つめた。
無実の罪が晴れた嬉しさなんて、微塵も感じない。私の心の中にあったのは、父への軽蔑だった。
「どんなに探してもジェームズが見つからない。もしやと焦り始めた頃、ブルック伯爵夫人が直々に謝ってきた」
「……」
ブルック伯爵夫人とはパトリシアの母親。
夫である伯爵と死別したあとは、交友関係のあった父がずっと気にかけてきた。だから私とパトリシアは幼馴染になった。
「お前が生死の境を彷徨ったという話がどこで洩れたかブルック伯爵家まで伝わって、責任を感じたメイドが自白したらしい」
「……」
「お前の筆跡を真似するために練習した紙の束を持って来たよ。パトリシアの指示で、あの手紙を偽造したと」
「なぜそんな事を?黙っていれば、私に罪を背負わせたまま生きて行けたでしょうに」
静かに尋ねた私の声が恐かったのか、父は少し委縮したように見えた。
「これは恐ろしい事だ、レーラ。お前を苦しめたままのうのうと生きていたら、いずれ、地獄に落ちるだろう」
ほら、そいういう事。
私に対しての謝罪の気持ちなんて、これっぽっちもない。
「許してくれ」
私の苦しみはどうなるの?
ねえ、お父様。地獄を味わった私はどうなるの?
私に地獄みたいな人生を押し付けたまま、自分だけ許されて、それで天国へ行こうっていうの?
虫が良すぎる。
「許してくれと仰るなら、まずごめんなさいと口にしてみたらよろしいのでは?」
「……?」
私の言葉が理解できないのね、お父様。
よくわかるわ。私たち、分かり合った事なんてないもの。
「それか、堕落したという幻の私しか見なかった時のように、許した私を想像して満足なさってもいいんじゃないですか?」
「レーラ」
「まあ、それも幻ですけれど」
なんだか笑える。
今の私はもう、父に信じてもらえなくてもいいと思っている。どうでもいい。
「なぜそんな事を言うんだ。まるで人が変わってしまったみたいだ」
困惑しているの?
お父様、今更それは可笑しいわ。
「お忘れかしら。お父様、私を殺すと仰ったのですよ?あの日、レーラは死にました」
「パトリシアの作り話だった!私も騙されたんだ!」
え?
それが理由になると思ってるの?
……お父様って、馬鹿なの?
「レーラを信じるという道もあったのですよ。だけど、それを選ばなかったのは御自分ですよね」
「レーラ。意地悪を言わないで、私を許すと言ってくれ!」
「そんなレーラはいません」
「じゃあお前は誰なんだ!!」
父は無様に叫び、頭を掻き毟る。
ふと、急に、結婚したくなった。
貴族社会では女が一人で生きていくなんて夢のまた夢。ましてや傷物になった令嬢なんて、家で飼殺されるか修道院に入るしか生きていく宛がない。
けれどもう一つだけ道がある。
「きっとお父様の知らないレーラでしょうね」
「ああ……どうしてこんな事に……!」
「そんなに持て余していらっしゃるなら、他の方に譲ってしまったら如何です?」
「お前は何を言っているんだ」
「レーラを、本人が納得する相手と結婚させるのです。そうすれば無理に受け入れる必要はなくなりますよ」
「お前はレーラじゃないのか」
「先ほど申し上げた通り、殺すと言われてレーラは死にました」
「ああ、意味がわからない!さっきから謝っているじゃないか!どうして苦しめようとするんだ!」
父は困惑している。
いい気味だ。
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