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「それはそうと、二人はどうしているんです?」
情けなく苦悩している父に私は尋ねる。
「誰だ……?ロバートか?」
「はい。ロバートはパトリシアとの愛を貫いて結婚すると言っていましたけれど。ロバートには、手紙を偽造した件は秘密のままですか?」
「わからん」
ああ、使えない。
「確認してください。私に許されたいなら、まずはそこをはっきりしてくださらないと」
「……それもそうだな。お前の心の傷が癒えるよう、精一杯やってやろう」
「?」
父は自分の立場というか、責任というものをきちんと理解しているのだろうか。とても疑わしい。
数日後、父は良い報せを持ってきてくれた。
だからといって見直したり、ましてや許そうとは思わない。
「ワージントン伯爵家にもブルック伯爵夫人が直々に詫びを入れたらしい。パトリシアとロバートは結婚しない。二度と会う事もないだろう」
「そうですか」
留飲が下りた……とまではいかないけれど、一つ、すっきりした。
けれど次の瞬間、父はまた信じられない事を口にする。
「ロバートはお前に会いたがっている」
「はい?」
「後悔している。本当は結婚するはずだった、愛しあっていたんだ。当然だろう」
「私の部屋で私の幼馴染とキスをして、私に婚約破棄を叩きつけた男ですよ?」
「パトリシアにすっかり騙されたんだ」
私は呆れてものも言えなかった。
確かにパトリシアのした事は酷いし、私も許せない。でも、父やロバートが自分を棚に上げて全てパトリシアのせいにしようとしているのは、正直、納得がいかなかった。
「待ってください。ロバートだって……」
「まあ、話を聞いてやれ。実は今日、お前に謝りたいと言って来ている」
「え?」
「入りたまえ」
私の意志なんてまるで無視して、父が廊下に声をかけると、蒼白い顔のロバートが重い足取りで姿を現した。
ぎゅっと、胸が痛む。
私が愛した人。私を裏切った人。
「聞いてくれ、レーラ」
「……嫌っ」
私の心の傷は、まだ塞がってすらいなかった。
「嫌よ、出て行って。あなたの顔なんて見たくない」
「わかってくれ。僕は君に裏切られたと思ったんだ」
「そんな事しないわ!」
「今思えばそうだ。あの時の僕は理性を失い、パトリシアを信じてしまった。君がそんな事をするはずないと言い返す事もできたのに、それができなかった。すまなかった、レーラ」
「キスしてたじゃない!!」
そう、ロバートは私を信じなかっただけではなく、心変わりしたのだ。それをなかった事にされてはたまらない。
「あなたは騙されてキスしたの?違うでしょう?あなたの心がパトリシアを選んだから、躊躇なく私を切り捨てたのよ!」
「躊躇なくなんて決めつけないでくれよ!僕の身にもなってくれ!」
「勝手な事を言わないで!」
父もロバートも酷い。
何度私を傷つけたら気が済むの?
「じゃあ、あなたが私の身になって考えてみてよ。ある日突然、悪者にされるの。誕生日に婚約者と幼馴染が愛しあってると知らされて、周囲にはその原因が私にあると思い込まれて、全て失う。耐えられる?」
「だから償うよ。結婚しよう」
あまりに可笑しな提案で、正気を疑う。
実際、私は頭の狂った人たちを相手にしているとしか思えなかった。
「は?あなたと結婚するはずないでしょう?あなたが婚約を破棄すると言ったのよ?」
「だから婚約破棄は撤回する。これで問題解決だ」
「違うわ。あなたは私を裏切ったのよ、何も解決しない」
「裏切っていない。僕は騙された。僕だって被害者なんだ」
そこで父が、困惑したように割り込んでくる。
「どうした、レーラ。結婚したいんじゃなかったのか?」
私は恐ろしい事に気づいてしまった。
父は、私がロバートと結婚したいと言ったと思い込んでいる。
「彼と結婚したいわけないじゃありませんか!たとえ騙されたとしても、私に別の人を愛していると自分の口から言ったのですよ?私の目の前で、他の人にキスを……」
「だから、反省してお前の元に戻ると言ってくれたんだ。何が不満なんだ」
「スチュアート伯爵、これでは話が違う。レーラに許してもらえなかったら僕は勘当されてしまいます!」
ロバートが声を荒げて、一瞬、部屋が静まり返る。
私の悲しみや怒りは凍り付き、完全な軽蔑が胸を占めた。
ロバートは保身のために謝罪しただけ。そんなロバートを父は当然のように擁護する。
男なんて、そんなもの?
くだらない。
「お願いだ、レーラ!君を愛している!本当はずっと君を愛していたんだ!僕が愛しているのは君一人だけだ!結婚してくれ!」
ロバートが泣いて縋ってくる。
私は鼻で笑い、かつて婚約者だった男を見下ろした。
「裏切るとわかっている方の求婚なんて受けません」
「二度と裏切らないと誓う!」
「それのどこが愛なのかしら」
「レーラ、そんな……。僕がこんなに謝っても駄目なのかい?どうすれば元の優しい君に戻ってくれるんだ?」
「……」
「君が元通り笑えるようになるなら、僕はなんだってするよ。愛を証明できる。もう一度だけチャンスをくれ」
なんて都合のいい。
もう乾いた笑いさえ出てこない。
「忘れないで、ロバート。あなたがレーラに付けた傷は、永遠に消えないの。あなたを愛する事は二度とない。あなたに笑いかけるとすればそれは嘲笑だけ。消えてちょうだい」
情けなく苦悩している父に私は尋ねる。
「誰だ……?ロバートか?」
「はい。ロバートはパトリシアとの愛を貫いて結婚すると言っていましたけれど。ロバートには、手紙を偽造した件は秘密のままですか?」
「わからん」
ああ、使えない。
「確認してください。私に許されたいなら、まずはそこをはっきりしてくださらないと」
「……それもそうだな。お前の心の傷が癒えるよう、精一杯やってやろう」
「?」
父は自分の立場というか、責任というものをきちんと理解しているのだろうか。とても疑わしい。
数日後、父は良い報せを持ってきてくれた。
だからといって見直したり、ましてや許そうとは思わない。
「ワージントン伯爵家にもブルック伯爵夫人が直々に詫びを入れたらしい。パトリシアとロバートは結婚しない。二度と会う事もないだろう」
「そうですか」
留飲が下りた……とまではいかないけれど、一つ、すっきりした。
けれど次の瞬間、父はまた信じられない事を口にする。
「ロバートはお前に会いたがっている」
「はい?」
「後悔している。本当は結婚するはずだった、愛しあっていたんだ。当然だろう」
「私の部屋で私の幼馴染とキスをして、私に婚約破棄を叩きつけた男ですよ?」
「パトリシアにすっかり騙されたんだ」
私は呆れてものも言えなかった。
確かにパトリシアのした事は酷いし、私も許せない。でも、父やロバートが自分を棚に上げて全てパトリシアのせいにしようとしているのは、正直、納得がいかなかった。
「待ってください。ロバートだって……」
「まあ、話を聞いてやれ。実は今日、お前に謝りたいと言って来ている」
「え?」
「入りたまえ」
私の意志なんてまるで無視して、父が廊下に声をかけると、蒼白い顔のロバートが重い足取りで姿を現した。
ぎゅっと、胸が痛む。
私が愛した人。私を裏切った人。
「聞いてくれ、レーラ」
「……嫌っ」
私の心の傷は、まだ塞がってすらいなかった。
「嫌よ、出て行って。あなたの顔なんて見たくない」
「わかってくれ。僕は君に裏切られたと思ったんだ」
「そんな事しないわ!」
「今思えばそうだ。あの時の僕は理性を失い、パトリシアを信じてしまった。君がそんな事をするはずないと言い返す事もできたのに、それができなかった。すまなかった、レーラ」
「キスしてたじゃない!!」
そう、ロバートは私を信じなかっただけではなく、心変わりしたのだ。それをなかった事にされてはたまらない。
「あなたは騙されてキスしたの?違うでしょう?あなたの心がパトリシアを選んだから、躊躇なく私を切り捨てたのよ!」
「躊躇なくなんて決めつけないでくれよ!僕の身にもなってくれ!」
「勝手な事を言わないで!」
父もロバートも酷い。
何度私を傷つけたら気が済むの?
「じゃあ、あなたが私の身になって考えてみてよ。ある日突然、悪者にされるの。誕生日に婚約者と幼馴染が愛しあってると知らされて、周囲にはその原因が私にあると思い込まれて、全て失う。耐えられる?」
「だから償うよ。結婚しよう」
あまりに可笑しな提案で、正気を疑う。
実際、私は頭の狂った人たちを相手にしているとしか思えなかった。
「は?あなたと結婚するはずないでしょう?あなたが婚約を破棄すると言ったのよ?」
「だから婚約破棄は撤回する。これで問題解決だ」
「違うわ。あなたは私を裏切ったのよ、何も解決しない」
「裏切っていない。僕は騙された。僕だって被害者なんだ」
そこで父が、困惑したように割り込んでくる。
「どうした、レーラ。結婚したいんじゃなかったのか?」
私は恐ろしい事に気づいてしまった。
父は、私がロバートと結婚したいと言ったと思い込んでいる。
「彼と結婚したいわけないじゃありませんか!たとえ騙されたとしても、私に別の人を愛していると自分の口から言ったのですよ?私の目の前で、他の人にキスを……」
「だから、反省してお前の元に戻ると言ってくれたんだ。何が不満なんだ」
「スチュアート伯爵、これでは話が違う。レーラに許してもらえなかったら僕は勘当されてしまいます!」
ロバートが声を荒げて、一瞬、部屋が静まり返る。
私の悲しみや怒りは凍り付き、完全な軽蔑が胸を占めた。
ロバートは保身のために謝罪しただけ。そんなロバートを父は当然のように擁護する。
男なんて、そんなもの?
くだらない。
「お願いだ、レーラ!君を愛している!本当はずっと君を愛していたんだ!僕が愛しているのは君一人だけだ!結婚してくれ!」
ロバートが泣いて縋ってくる。
私は鼻で笑い、かつて婚約者だった男を見下ろした。
「裏切るとわかっている方の求婚なんて受けません」
「二度と裏切らないと誓う!」
「それのどこが愛なのかしら」
「レーラ、そんな……。僕がこんなに謝っても駄目なのかい?どうすれば元の優しい君に戻ってくれるんだ?」
「……」
「君が元通り笑えるようになるなら、僕はなんだってするよ。愛を証明できる。もう一度だけチャンスをくれ」
なんて都合のいい。
もう乾いた笑いさえ出てこない。
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