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27(グレッグ)
不審な馬車からは二人の声が洩れていた。
怒りに任せて扉を叩き、迷いなく開ける。
「……!」
「……!!」
ロバートとパトリシアが、こちらを向いて驚いたまま固まっている。
御者風に整えたかったのか、ロバートはかなりちぐはぐな服装だ。
パトリシアは一応は貴族令嬢だから着飾っているが、年齢にそぐわない、社交界にデビューしたばかりのようなドレスだった。
愚かにも程がある。
こんな害悪でしかない恥晒し共は、闇に葬って然るべきじゃないか?
自分の中にこうも残酷な性格が隠れていたとは、驚いた。
レーラに纏わりつくこの汚い小悪党どもを、葬り去りたい。虫を叩き潰すように。だがそれは、思いこそすれ絶対に行動に移しはしない馬鹿な想像だ。
「パトリシア……」
おっと。
人殺しみたいな声が、この喉から出てしまうとは。
いけない、いけない。
「ワ、ワイズ子爵……これは……!」
「妻への付き纏いですが、やめて頂いていいですか?」
いつも通りの口調に戻る事ができた。
「付き纏いだなんて……っ、違いますわ?私たち、だって、今では姉妹ですもの」
「おやおや。どうやら都合のいい夢を見ているようですね」
「ゆ、夢……?」
パトリシアの声に怒気が混じる。
「おかしな事を仰らないで。私の母は、レーラの父親と結婚したのです。私たちは姉妹です」
「うん。この際はっきり言おうか」
「なんですの?」
「神経を疑うよ」
「!」
それまで黙って固まっていたロバートが、息巻いて殴りかかろうとしたが、足が縺れ狭い馬車内で転んだ。
「ぐっ」
「これはこれは、悪運が強いなぁ。勘当され、今では将来の危うい令嬢のヒモたる貴殿が、この私に暴力事件でも起こしたら、次は絞首刑が待っている。いやぁ、危機一髪。おめでとう」
大袈裟に言って脅す。
これで大人しくなってくれる事を願った。
が。
「……さすが、レーラを選んだだけの事はありますわ。なんて意地の悪い、心根のねじ曲がった方でしょう。ロバート、大丈夫?」
パトリシアは敵意を顕わにしつつ、ロバートには甘い声をかけた。
母親のブルック伯爵夫人がどうこうとは言い切れないが、娘のパトリシアはかなりの他責傾向があるようだ。誰かを悪者にしていないと死ぬのか?
醜悪な歪みに呆れる。
「運命の恋人たちよ、これが最後通告だ」
レーラと関りのある人物だから、できる限り穏便に済ませたかった。
しかし、何度騒ぎを起こし世間から冷たい視線を浴びようと、我の強さは益々増長し、登場する度悪くなる。いつか『復讐だ』などと因縁をつけてくる危険が、もう無視できない。
「こう目の前をうろつかれては、貴族として、大人として、然るべき処罰を受けさせざるを得なくなる。駆け落ちしたまえ。それほど愛しあっているならば、二人で生きて行けるだろう」
「……」
二人は黙り込んだ。
先に口を開いたのはパトリシア。
「それは、可笑しな話ですわ」
ロバートがハッと顔をあげる。
「……え?」
「私はブルック伯爵令嬢であると同時に、スチュアート伯爵令嬢です。駆け落ちなんて、そんなはしたない事をする意味がわかりませんわ」
「パトリシア……?じゃあ、僕を……僕を愛していると言ったのは、嘘なのか?それさえも嘘だったのか!?」
「落ち着いて」
パトリシアが高圧的にロバートを嗜める。
「愛は素晴らしいものよ。あなたを匿ってあげたでしょう?」
「パトリシア……?」
「このままいけば私は二つの領土を受け継ぐわ。今は不遇でも、有力な貴族なの。私を愛しているのなら、ずっと傍にいたらいわ。駆け落ちなんて苦労する必要ないの」
「……」
運命の恋人たちは、互いにちぐはぐな視線を絡めた。
しばらく沈黙が続き、パトリシアが勝利を確信したかのような艶やかな笑みを浮かべる。
そこで私は隣の人物に声を掛けた。
「聞きましたか?判事」
「!?」
狭い馬車の中でパトリシアとロバート双方が飛び上がる。
「はっ、判事!?」
私が少し脇へずれると、入れ替わりに友人が馬車の中を覗き込んだ。
「ブルック伯爵令嬢パトリシア。貴族の邸宅に侵入し、子爵夫人を強請り、母親と養父の領土を我が物にしようと企んでいるらしいが、ワイズ子爵の顔を立てて見逃してやろう」
「陰謀です!!私は……!」
「確かに聞いた。牢獄に入りたいかね?」
「…………いやああぁぁぁぁぁっ!」
そう叫んだ後、パトリシアは頭を抱えて蹲り、奇声をあげ泣き叫んだ。
私はロバートを促し、馬車を夜の闇に密かに送り出した。
その陰が見えなくなり、車輪の音さえ聞こえなくなったところで、隣の人物の肩を叩く。
「ありがとう、友よ」
「なんのこれしき」
無論、判事などではない。
レーラを煩わせる下賤な連中など、穏やかに音もなくどこかえ消えてくれたらそれでいいのだ。
手を汚す価値もない。
これで消えてくれたらいいが……
怒りに任せて扉を叩き、迷いなく開ける。
「……!」
「……!!」
ロバートとパトリシアが、こちらを向いて驚いたまま固まっている。
御者風に整えたかったのか、ロバートはかなりちぐはぐな服装だ。
パトリシアは一応は貴族令嬢だから着飾っているが、年齢にそぐわない、社交界にデビューしたばかりのようなドレスだった。
愚かにも程がある。
こんな害悪でしかない恥晒し共は、闇に葬って然るべきじゃないか?
自分の中にこうも残酷な性格が隠れていたとは、驚いた。
レーラに纏わりつくこの汚い小悪党どもを、葬り去りたい。虫を叩き潰すように。だがそれは、思いこそすれ絶対に行動に移しはしない馬鹿な想像だ。
「パトリシア……」
おっと。
人殺しみたいな声が、この喉から出てしまうとは。
いけない、いけない。
「ワ、ワイズ子爵……これは……!」
「妻への付き纏いですが、やめて頂いていいですか?」
いつも通りの口調に戻る事ができた。
「付き纏いだなんて……っ、違いますわ?私たち、だって、今では姉妹ですもの」
「おやおや。どうやら都合のいい夢を見ているようですね」
「ゆ、夢……?」
パトリシアの声に怒気が混じる。
「おかしな事を仰らないで。私の母は、レーラの父親と結婚したのです。私たちは姉妹です」
「うん。この際はっきり言おうか」
「なんですの?」
「神経を疑うよ」
「!」
それまで黙って固まっていたロバートが、息巻いて殴りかかろうとしたが、足が縺れ狭い馬車内で転んだ。
「ぐっ」
「これはこれは、悪運が強いなぁ。勘当され、今では将来の危うい令嬢のヒモたる貴殿が、この私に暴力事件でも起こしたら、次は絞首刑が待っている。いやぁ、危機一髪。おめでとう」
大袈裟に言って脅す。
これで大人しくなってくれる事を願った。
が。
「……さすが、レーラを選んだだけの事はありますわ。なんて意地の悪い、心根のねじ曲がった方でしょう。ロバート、大丈夫?」
パトリシアは敵意を顕わにしつつ、ロバートには甘い声をかけた。
母親のブルック伯爵夫人がどうこうとは言い切れないが、娘のパトリシアはかなりの他責傾向があるようだ。誰かを悪者にしていないと死ぬのか?
醜悪な歪みに呆れる。
「運命の恋人たちよ、これが最後通告だ」
レーラと関りのある人物だから、できる限り穏便に済ませたかった。
しかし、何度騒ぎを起こし世間から冷たい視線を浴びようと、我の強さは益々増長し、登場する度悪くなる。いつか『復讐だ』などと因縁をつけてくる危険が、もう無視できない。
「こう目の前をうろつかれては、貴族として、大人として、然るべき処罰を受けさせざるを得なくなる。駆け落ちしたまえ。それほど愛しあっているならば、二人で生きて行けるだろう」
「……」
二人は黙り込んだ。
先に口を開いたのはパトリシア。
「それは、可笑しな話ですわ」
ロバートがハッと顔をあげる。
「……え?」
「私はブルック伯爵令嬢であると同時に、スチュアート伯爵令嬢です。駆け落ちなんて、そんなはしたない事をする意味がわかりませんわ」
「パトリシア……?じゃあ、僕を……僕を愛していると言ったのは、嘘なのか?それさえも嘘だったのか!?」
「落ち着いて」
パトリシアが高圧的にロバートを嗜める。
「愛は素晴らしいものよ。あなたを匿ってあげたでしょう?」
「パトリシア……?」
「このままいけば私は二つの領土を受け継ぐわ。今は不遇でも、有力な貴族なの。私を愛しているのなら、ずっと傍にいたらいわ。駆け落ちなんて苦労する必要ないの」
「……」
運命の恋人たちは、互いにちぐはぐな視線を絡めた。
しばらく沈黙が続き、パトリシアが勝利を確信したかのような艶やかな笑みを浮かべる。
そこで私は隣の人物に声を掛けた。
「聞きましたか?判事」
「!?」
狭い馬車の中でパトリシアとロバート双方が飛び上がる。
「はっ、判事!?」
私が少し脇へずれると、入れ替わりに友人が馬車の中を覗き込んだ。
「ブルック伯爵令嬢パトリシア。貴族の邸宅に侵入し、子爵夫人を強請り、母親と養父の領土を我が物にしようと企んでいるらしいが、ワイズ子爵の顔を立てて見逃してやろう」
「陰謀です!!私は……!」
「確かに聞いた。牢獄に入りたいかね?」
「…………いやああぁぁぁぁぁっ!」
そう叫んだ後、パトリシアは頭を抱えて蹲り、奇声をあげ泣き叫んだ。
私はロバートを促し、馬車を夜の闇に密かに送り出した。
その陰が見えなくなり、車輪の音さえ聞こえなくなったところで、隣の人物の肩を叩く。
「ありがとう、友よ」
「なんのこれしき」
無論、判事などではない。
レーラを煩わせる下賤な連中など、穏やかに音もなくどこかえ消えてくれたらそれでいいのだ。
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