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「今日は嬉しい報せがあるんだ。子どもができた。俺は父親になったのさ」
笑顔の婚約者に同じ笑顔を返していたはずが、心も頭も凍り付いた。
ただ顔だけが動くことを忘れ満面の笑みを浮かべ続けている。愛と尊敬を向ける婚約者への、信頼に満ちた笑顔を。
「……ヴィクター様……」
私の声は冬の風のように掠れ、枯れていた。
婚約者のヴィクターは心からの喜びを隠しもせずに、私を説き伏せようと嬉しそうな表情で私の体をぐらぐらと揺らす。
実際、目の回るような混乱が私を襲う。
子どもができた?
私は身篭っていない。
では、誰が?
「喜んでくれるだろう?ルビー、俺たちの愛する息子だよ!」
「……?」
何も言い返せずにいる私をヴィクターの腕がすっぽりと抱き込み、私は広く厚い胸に顔を埋める形になる。
視界を閉ざされ強制的に集中力が増すと混乱は落胆と悲しみを呼び起こした。
ああ、はやり。
私では相応しくないのだ。
私は神官と女奴隷の間に生を受けた〝罪の子〟である。
その私がハレムに縛り付けられるのではなく姫君のダンス教師に抜擢されたのは奇跡だった。そして宮殿での生活で顏を合わせるとはいえ王室騎士団に所属し第三師団長でもあるベケイア伯爵家の令息に求婚されたのもまた奇跡だった。
私の腹から生まれた子などベケイア伯爵家には相応しくない。
私の血筋など紛れ込ませるわけにはいかない。
私の婚約者であるヴィクターがそう考えても責められない。
私は〝罪の子〟なのだ。
その証拠にヴィクターは私が母から受け継いだ深紅の瞳を示すルビーという名前を呼び続けている。私が〝罪の子〟であることを忘れないよう付けられた名前を、ヴィクターはありのまま愛すると言ってくれた。私の存在によって、魔力が潜む邪悪な宝石として忌み嫌われるようになったルビーの名を、愛していると……
違った。
呼び続けたのはやはり、私に忘れさせないためだったのだ。
「……どなたの、お子様なのですか……?」
ヴィクターの腕の中で私はできるだけいつも通りの声を意識する。
ヴィクターは抱擁を解き満面の笑みで私の目を覗き込んだ。
「ありがとう、ルビー。理解してくれると信じていたよ。君は俺にぴったりの最高の女性だ!」
「……ええ……」
悲しみを誤魔化すために私は笑った。
笑顔を纏い続けなければ泣いてしまう。
「息子の名はアレス。まだ赤ん坊だから君を母親だと思ってくれるはずだ」
「そう、ですか……」
私の声は少し震えていた。
頬まで染めて心から歓喜しているヴィクターは、そんな状態の私には気づかない。
「……」
違う。
気にも留めない。
笑顔の婚約者に同じ笑顔を返していたはずが、心も頭も凍り付いた。
ただ顔だけが動くことを忘れ満面の笑みを浮かべ続けている。愛と尊敬を向ける婚約者への、信頼に満ちた笑顔を。
「……ヴィクター様……」
私の声は冬の風のように掠れ、枯れていた。
婚約者のヴィクターは心からの喜びを隠しもせずに、私を説き伏せようと嬉しそうな表情で私の体をぐらぐらと揺らす。
実際、目の回るような混乱が私を襲う。
子どもができた?
私は身篭っていない。
では、誰が?
「喜んでくれるだろう?ルビー、俺たちの愛する息子だよ!」
「……?」
何も言い返せずにいる私をヴィクターの腕がすっぽりと抱き込み、私は広く厚い胸に顔を埋める形になる。
視界を閉ざされ強制的に集中力が増すと混乱は落胆と悲しみを呼び起こした。
ああ、はやり。
私では相応しくないのだ。
私は神官と女奴隷の間に生を受けた〝罪の子〟である。
その私がハレムに縛り付けられるのではなく姫君のダンス教師に抜擢されたのは奇跡だった。そして宮殿での生活で顏を合わせるとはいえ王室騎士団に所属し第三師団長でもあるベケイア伯爵家の令息に求婚されたのもまた奇跡だった。
私の腹から生まれた子などベケイア伯爵家には相応しくない。
私の血筋など紛れ込ませるわけにはいかない。
私の婚約者であるヴィクターがそう考えても責められない。
私は〝罪の子〟なのだ。
その証拠にヴィクターは私が母から受け継いだ深紅の瞳を示すルビーという名前を呼び続けている。私が〝罪の子〟であることを忘れないよう付けられた名前を、ヴィクターはありのまま愛すると言ってくれた。私の存在によって、魔力が潜む邪悪な宝石として忌み嫌われるようになったルビーの名を、愛していると……
違った。
呼び続けたのはやはり、私に忘れさせないためだったのだ。
「……どなたの、お子様なのですか……?」
ヴィクターの腕の中で私はできるだけいつも通りの声を意識する。
ヴィクターは抱擁を解き満面の笑みで私の目を覗き込んだ。
「ありがとう、ルビー。理解してくれると信じていたよ。君は俺にぴったりの最高の女性だ!」
「……ええ……」
悲しみを誤魔化すために私は笑った。
笑顔を纏い続けなければ泣いてしまう。
「息子の名はアレス。まだ赤ん坊だから君を母親だと思ってくれるはずだ」
「そう、ですか……」
私の声は少し震えていた。
頬まで染めて心から歓喜しているヴィクターは、そんな状態の私には気づかない。
「……」
違う。
気にも留めない。
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