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雪が辺りを白く覆い尽くした。
晩秋、空も大地も雪に覆われ、春までこの雪は解けない。
窓の曇りを指で拭うと凍てつくような痛みが私の意識を更に鮮明にさせた。
「……」
ジェイド。
フローラ姫を、どうか助けて。
「……」
あなたを信じてる。
私は、私の足で、私の手で、スカーレイに辿り着かなければならない。
私は今や、養父であるカイン・ガルムステットと共に元国軍本部で暮らし、内政の為に元宮殿へと通っている。私に仕事はないが、民が神の呪いから解放された象徴〝暁の子〟として人目に晒されているのだ。
意外だったのは、民の反応。
私を蔑み迫害した多くの人々はこの転身を恐れ、全ては亡きアスガルド王家に騙されただけだと主張する者たちが現れた。
養父は私に断罪の権限を与えたが、正直、私は今、自分が迫害されて生きてきたことよりも遥かにスカーレイが大切なので、どうでもいい。
保身なのか、本当に心から神の死を喜んでいるのか定かではないが、私を〝暁の子〟として祝う一派も現れた。
人の心は移ろいやすいものだと、虚しくなる。
忌まわしい呪われた宝石と言われていたはずのルビーが再び持て囃され、高値で売買されているらしい。
私がその名を捨てていることなど、誰も気に留めない。
「来い」
部屋で休んでいた私を養父が誘った。
命じているようでもあるが、笑顔を浮かべ、目を細めて私を見る目つきは相変わらず優しい。
私は即座に腰を上げた。
「スカーレイ様が見つかりましたか?」
「そうだ」
「!」
胸が弾んだ。
眩暈がするほど息が乱れた。
私は即座に防寒着を着込み、養父に導かれるまま元宮殿を出た。
これから極寒の冬がくる。今日はまだましだ。
それでも雪が降り、視界は白く覆われている。
養父は私を馬に乗せ、自身は雪を踏みしめ馬を牽いて歩いた。道は既に往来によって雪が除けられ、歩くのでも支障はなさそうだった。少し馬が可哀相な気がしたが、その体温は私を少しだけ慰めていた。
馬の背で揺れながら私は思案せずにはいられない。
スカーレイは歩いて向かえる距離にいたということなのか、と。
木々や建物が白く翳む中で、私は自身が王都の広場へと誘われていることを理解した。
「……」
そんな近くに?
広場を越えていくのだろうかと考えてみるものの、元軍人である役人たちの姿が増えてきて広場でなにかが行われている雰囲気に気づく。
「なに……?」
養父が馬を止め、私に腕を伸ばした。
養父に体を支えられながら馬を下り、震える体を抱きしめるように毛皮の外套を掻き合わせる。その私の手首を養父が掴んだ。
「こっちだ」
養父は、雪に覆われて、まだ笑っていた。
「……」
不安に襲われる。
スカーレイの遺体が盗まれてから十日以上が経過していた。
雪の中、打ち棄てられていたのだろうか。
胸が締め付けられるように痛い。それとは別に言い知れぬ不安が私の胸を異様に乱す。
何か恐ろしいものが待っている。
私はそう確信した。
及び腰になった私を歩かせる為に養父は私の手首を掴んでいたのだ。私をやや強引に歩かせて養父は雪の中を進んでいった。
雪に霞む視界の中で、役人たちが私たちを目に捉え意味深な一瞥をくれる。
何かがあった。
スカーレイの遺体がただ発見されただけではない。
私は寒さを凌ぐ為というよりは不安を押し殺す為に自由な方の手で外套の胸元を握っていた。
寒さのせいだけではなく、息が乱れた。
恐怖だった。
純白の恐怖の中を、私は進んだ。
そして、見た。
晩秋、空も大地も雪に覆われ、春までこの雪は解けない。
窓の曇りを指で拭うと凍てつくような痛みが私の意識を更に鮮明にさせた。
「……」
ジェイド。
フローラ姫を、どうか助けて。
「……」
あなたを信じてる。
私は、私の足で、私の手で、スカーレイに辿り着かなければならない。
私は今や、養父であるカイン・ガルムステットと共に元国軍本部で暮らし、内政の為に元宮殿へと通っている。私に仕事はないが、民が神の呪いから解放された象徴〝暁の子〟として人目に晒されているのだ。
意外だったのは、民の反応。
私を蔑み迫害した多くの人々はこの転身を恐れ、全ては亡きアスガルド王家に騙されただけだと主張する者たちが現れた。
養父は私に断罪の権限を与えたが、正直、私は今、自分が迫害されて生きてきたことよりも遥かにスカーレイが大切なので、どうでもいい。
保身なのか、本当に心から神の死を喜んでいるのか定かではないが、私を〝暁の子〟として祝う一派も現れた。
人の心は移ろいやすいものだと、虚しくなる。
忌まわしい呪われた宝石と言われていたはずのルビーが再び持て囃され、高値で売買されているらしい。
私がその名を捨てていることなど、誰も気に留めない。
「来い」
部屋で休んでいた私を養父が誘った。
命じているようでもあるが、笑顔を浮かべ、目を細めて私を見る目つきは相変わらず優しい。
私は即座に腰を上げた。
「スカーレイ様が見つかりましたか?」
「そうだ」
「!」
胸が弾んだ。
眩暈がするほど息が乱れた。
私は即座に防寒着を着込み、養父に導かれるまま元宮殿を出た。
これから極寒の冬がくる。今日はまだましだ。
それでも雪が降り、視界は白く覆われている。
養父は私を馬に乗せ、自身は雪を踏みしめ馬を牽いて歩いた。道は既に往来によって雪が除けられ、歩くのでも支障はなさそうだった。少し馬が可哀相な気がしたが、その体温は私を少しだけ慰めていた。
馬の背で揺れながら私は思案せずにはいられない。
スカーレイは歩いて向かえる距離にいたということなのか、と。
木々や建物が白く翳む中で、私は自身が王都の広場へと誘われていることを理解した。
「……」
そんな近くに?
広場を越えていくのだろうかと考えてみるものの、元軍人である役人たちの姿が増えてきて広場でなにかが行われている雰囲気に気づく。
「なに……?」
養父が馬を止め、私に腕を伸ばした。
養父に体を支えられながら馬を下り、震える体を抱きしめるように毛皮の外套を掻き合わせる。その私の手首を養父が掴んだ。
「こっちだ」
養父は、雪に覆われて、まだ笑っていた。
「……」
不安に襲われる。
スカーレイの遺体が盗まれてから十日以上が経過していた。
雪の中、打ち棄てられていたのだろうか。
胸が締め付けられるように痛い。それとは別に言い知れぬ不安が私の胸を異様に乱す。
何か恐ろしいものが待っている。
私はそう確信した。
及び腰になった私を歩かせる為に養父は私の手首を掴んでいたのだ。私をやや強引に歩かせて養父は雪の中を進んでいった。
雪に霞む視界の中で、役人たちが私たちを目に捉え意味深な一瞥をくれる。
何かがあった。
スカーレイの遺体がただ発見されただけではない。
私は寒さを凌ぐ為というよりは不安を押し殺す為に自由な方の手で外套の胸元を握っていた。
寒さのせいだけではなく、息が乱れた。
恐怖だった。
純白の恐怖の中を、私は進んだ。
そして、見た。
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