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13(パトリック)
「おやぁ……?御存じなかったようですな」
「──!」
我に返った瞬間、相手は身の竦むような非難の一瞥を私に向けていた。
そして背を向け賑やかな雑踏に紛れてしまう。
見限られた。
見棄てられた。
そんな印象を受けたが強ち間違いではないだろう。
「……そんな……」
シンシアが、異国から迎えた妃殿下の侍女?
「……」
シンシアの母親クレイン伯爵夫人メイヴィスが婚期を逃した老姫イヴォーン王女の侍女というのは承知していた。
だからシンシアがいずれ宮廷に仕えることを見据え勉学に励んでいるのも、彼女を好ましく思う一因だった。
私と結婚した後、宮廷に仕えるシンシアとは別離の期間が長く訪れる。
併し互いに執務に邁進し、高めあえる、尊敬しあえる、善き夫婦になれる。
そういう未来を夢見ていた。
「……」
それでも母親の威光を笠に着るような性格ではない。
母親を越える役職には就かないだろうと思っていた。
シンシアは優しすぎるから。
そして夫となる私を立てて、私より目立つ役職は辞退するものとばかり思っていた。
「……第五王子ファロン殿下の、妃の、侍女……!?」
私は額を覆い俯いた。
「……っ」
なんという女を手放してしまったのか!
私はシンシアを見縊っていた!
人脈云々ではない。
シンシアの夫としての人生は、ラムリー伯爵家が宮廷の重要人物となれる人生だったのだ。
「……そうか」
私たち夫妻への非難が単純な婚約破棄への批判ではなく、宮廷と繋がりの深い名家の令嬢シンシアを裏切ったことにこそ由来するのだと、私は今、初めて理解した。
「……リリアナ……」
私の妻、リリアナ。
シンシアの足元にも及ばない、私の妻リリアナ。
妻の醜聞を隠したくて治療を口実に監禁してきたというのに、それが何の意味もなかったのだと思い知った。
私は誰の祝宴に向かっている?
私が祝辞を述べる相手の隣に、私と結婚するはずだったシンシアがいるというのに、そんな私が何を言えるだろう?
「最悪だ」
私は踵を返した。
恥ずかしくて、とても顔を出せない。
私は聖職者の道を選んだ父に代わり、若くして爵位を継承した。若輩者と誹られないよう必死に努力してきた。
母親の威光で成り上がろうとしているわけではないと地道に努力しているように見えたシンシアとは、共通の悩みを抱え、境遇も心構えもよく似ている。
それが誤解だったのだ。
シンシアは私のような女であり、だから私たちは互いに相応しい相手なのだと慢心していた。
間違いだった。
最初から、シンシアの方が、私より格上の存在だった……
シンシアは宮廷に上る上級貴族として日々勉学に勤しんでいたのだ。
そして、就くべき役目に就いた。
私が道を誤った時、シンシアは私をどう思っただろう。
私は、私が選んでしまった道の責任を取らなくてはならない。
これ以上、元婚約者としてシンシアに恥をかかせないよう慎ましく生きていかなくてはならない。
そして領民に恥ずかしい思いをさせないよう、ラムリー伯爵家の名誉を回復しなければならないのだ。
酒乱で嘘吐きな妻リリアナ。
彼女を躾け直し、ラムリー伯爵夫人として相応しい人格を備わせてからでなくては社交界に顔を出せない。
私は第五王子結婚の祝いの品を手配し帰路に着いた。
ラムリー伯爵は婚約破棄した相手に顔向けできず自粛した、そう認識してもらえたらいいと願うばかりだ。私個人の羞恥心のみによる欠席だと。
併し、生き様を見つめ直した私を待っていたのは、リリアナという私が選んだ地獄だった。
「──!」
我に返った瞬間、相手は身の竦むような非難の一瞥を私に向けていた。
そして背を向け賑やかな雑踏に紛れてしまう。
見限られた。
見棄てられた。
そんな印象を受けたが強ち間違いではないだろう。
「……そんな……」
シンシアが、異国から迎えた妃殿下の侍女?
「……」
シンシアの母親クレイン伯爵夫人メイヴィスが婚期を逃した老姫イヴォーン王女の侍女というのは承知していた。
だからシンシアがいずれ宮廷に仕えることを見据え勉学に励んでいるのも、彼女を好ましく思う一因だった。
私と結婚した後、宮廷に仕えるシンシアとは別離の期間が長く訪れる。
併し互いに執務に邁進し、高めあえる、尊敬しあえる、善き夫婦になれる。
そういう未来を夢見ていた。
「……」
それでも母親の威光を笠に着るような性格ではない。
母親を越える役職には就かないだろうと思っていた。
シンシアは優しすぎるから。
そして夫となる私を立てて、私より目立つ役職は辞退するものとばかり思っていた。
「……第五王子ファロン殿下の、妃の、侍女……!?」
私は額を覆い俯いた。
「……っ」
なんという女を手放してしまったのか!
私はシンシアを見縊っていた!
人脈云々ではない。
シンシアの夫としての人生は、ラムリー伯爵家が宮廷の重要人物となれる人生だったのだ。
「……そうか」
私たち夫妻への非難が単純な婚約破棄への批判ではなく、宮廷と繋がりの深い名家の令嬢シンシアを裏切ったことにこそ由来するのだと、私は今、初めて理解した。
「……リリアナ……」
私の妻、リリアナ。
シンシアの足元にも及ばない、私の妻リリアナ。
妻の醜聞を隠したくて治療を口実に監禁してきたというのに、それが何の意味もなかったのだと思い知った。
私は誰の祝宴に向かっている?
私が祝辞を述べる相手の隣に、私と結婚するはずだったシンシアがいるというのに、そんな私が何を言えるだろう?
「最悪だ」
私は踵を返した。
恥ずかしくて、とても顔を出せない。
私は聖職者の道を選んだ父に代わり、若くして爵位を継承した。若輩者と誹られないよう必死に努力してきた。
母親の威光で成り上がろうとしているわけではないと地道に努力しているように見えたシンシアとは、共通の悩みを抱え、境遇も心構えもよく似ている。
それが誤解だったのだ。
シンシアは私のような女であり、だから私たちは互いに相応しい相手なのだと慢心していた。
間違いだった。
最初から、シンシアの方が、私より格上の存在だった……
シンシアは宮廷に上る上級貴族として日々勉学に勤しんでいたのだ。
そして、就くべき役目に就いた。
私が道を誤った時、シンシアは私をどう思っただろう。
私は、私が選んでしまった道の責任を取らなくてはならない。
これ以上、元婚約者としてシンシアに恥をかかせないよう慎ましく生きていかなくてはならない。
そして領民に恥ずかしい思いをさせないよう、ラムリー伯爵家の名誉を回復しなければならないのだ。
酒乱で嘘吐きな妻リリアナ。
彼女を躾け直し、ラムリー伯爵夫人として相応しい人格を備わせてからでなくては社交界に顔を出せない。
私は第五王子結婚の祝いの品を手配し帰路に着いた。
ラムリー伯爵は婚約破棄した相手に顔向けできず自粛した、そう認識してもらえたらいいと願うばかりだ。私個人の羞恥心のみによる欠席だと。
併し、生き様を見つめ直した私を待っていたのは、リリアナという私が選んだ地獄だった。
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