はい、私がヴェロニカです。

希猫 ゆうみ

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17(ソレーヌ)

誰からも求められ、望まれて産まれてくる腹の中の子が、アレクシウスのようにならない為にどうしたらいいか。
私は考えなければならない。

両親のどちらに似るかわからないが、父親のようにお人好しな軟弱者として育つ危険がある。
私は、それを阻まなくてはならない。

教会に預けたアレクシウスは、私とは相容れない自我を植え付けられ、今も母である私を心の内で裁き、許さない。
この腹の子は、そうはさせない。

「私の手で、立派に育てていける」

私は貴族の何たるかを教えるには未熟で不適任と言えるだろう。
それは子ども好きの父親に任せてしまえばいい。

私にできること。
それは、崇高な志と強靭な肉体を持つ、強い次期当主を育てるということ。

フェラレーゼ伯領は長閑で平和な平原が領土の八割を占めており、農村地帯の肥沃な土地が民させ肥えさせている。
彼ら、彼女らは獣のように好き勝手に子どもを作っている。働き手を増やすという意味ではいい行いだ。

あの、子どもを集めた武闘会。
有望な子どもたちに小麦や野菜、牛や羊や豚の世話をさせておくなど、勿体ない。

私が育て上げてやれば、フェラレーゼ伯領の栄光は更に輝きを増すだろう。

「……ガイウス」

未だ平坦な腹部に手を当てて、ベッドで休む夫の名を呼ぶ。
主治医は私の健康の為に寝室を分けるべきだと主張した。私はそれを快諾し、可愛い年下の夫を自由に休ませた。

「ガイウス。私を選んだことを、いつか喜べるようにしてあげる」

英雄を育て上げる。
それこそが、平民上がりの元女騎士が伯爵夫人となった意味だったのだと、誰もが納得するはずだ。
私に再び称賛の言葉を浴びせ、目を輝かせ、嬉々として私を追いかけるだろう。

そしていつか、すっかり、そうであると思い込むようになるはずだ。
伯爵と親しかったメイドの一人が主を誘惑し、勝手に孕んだと。たとえ宮廷で評価された菓子職人であろうと、称賛は実に簡単に翻る。断言できる。私が、そうであったのだから。

ああ、ヴェロニカ。
可愛いヴェロニカ。
お前は隠れて泣くでしょう。私を恨みもするでしょう。

その時に、立ち上がれるかどうか。
ヴェロニカ、お前にその強さがあるかしら。

誰からも愛され、持て囃されてきた女が、主を寝取るなどという大罪を犯し姿をくらませた。
誰からも蔑まれ、忌み嫌われる淫乱で狡賢い女になったお前は、私のように立ち上がれはしない。

血を流したことも、命をかけたこともないお前に、私の気持ちはわからない。

「決して挫けない、従順な子を……私は」

造り上げると誓う。
この腹に宿った命は私のものだ。私が全て、正しく、整えてやらなければならない。

「……」

ヴェロニカは野垂れ死ぬだろうか。
それならそれで構わない。でも、少し……可哀相なことをした。

「ふふ」

だが、生かしてはおけない。
ガイウスの心は我が子とその母親から離れるだけの強さを持ち合わせていないのだ。軟弱者。

オリヴァーは可愛かった。
でもあれは、ヴェロニカによく似ていた。

私は私の子を抱き、愛する。
私の子どもは一人。これから産まれてくる、約束の宝物。

健康に気をつけなくては。
ここは戦場に比べたら生温い楽園だが、私は適齢期を過ぎている。

だが、命を懸けるのは、これが初めてではないのだからやり遂げられる。
私の勝ちだ。やっと正せた。

私は私の足で歩く。
私の道が、今、敷かれたのだ。
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