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13(リディ)
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「メイドを雇って村の男たちに家を修理させる!?いつまでお坊ちゃんのつもりなの!?あなたはもう貴族じゃないのよ!只の無能な男!頭を下げて働かせてもらう側なの!馬鹿なことを言ってる暇があったら薪割りのひとつでも覚えなさいよ!!」
思いの丈をぶちまけてしまった。
もう我慢の限界だったから後悔はない。
「……」
サディアスは稀に見ぬ無表情でぽかんと私を凝視したかと思うと、眉を顰めて俯いた。
傷ついた?
それとも怒ったの?
私の方が何百倍も怒ったし、何千倍も傷ついた。
「毎日、毎日……私がどんな気持ちで食べ物を恵んでもらっていると思っているの?流れ着いた余所者が道端に立って手あたり次第に声をかけたり、一軒一軒回って玄関先で跪いて物乞いするのよ?」
「……」
「その間あなたは家の前の荒れた土にその辺の枝を拾っては空想の城を描いて遊んでる。帰ってきた私の手からイモを受け取って中へ運ぶのがなんだって言うのよ。こっちはずっと持って歩いて来てるの!」
「……じゃあ、次からは僕も行くよ」
「今更遅いわよ!それに、あなた嫌われてるから居ても邪魔」
今まで辛辣な言葉のひとつも浴びた経験がないのか、サディアスは俯いたまま硬直している。
「元メイドだから家の中のことをやるのは私?じゃああなたは外で何をするわけ?あなたは家の中でも外でもただ機嫌よく笑ってるだけで役に立つことは何もしない。枝を拾って来て、枝を積んで、枝でいつか住むお城の絵を描いてる。あなたは今、私というメイドをタダ働きさせて怠けているろくでなし!元貴族!もうお坊ちゃんじゃないの!私の夫だと言うなら平民らしく働いて!!」
言いたいことを言い切ってみると、想像の数倍気が楽になった。
サディアスには現実を見てもらわなくてはいけない。嫌われ者の余所者で、お情けで村はずれの小屋を宛がわれただけの私たちには選択肢など多くはない。
夢を見る暇もない。
その日その日を食べていくのに精一杯なのに、サディアスは何もせず私に笑顔を向け愛を囁く。
何もしないだけならまだましだった。
悪いなりにも、ましだったのだ。
「味のないスープが嫌?あなたがワイラーを怒らせたせいで誰からも塩を分けてもらえないのよ」
「……」
「謝ってきて。仕事を紹介して貰うにしても話はそれからなんだから」
サディアスが顔を上げた。
初めて私に笑顔を向けず、無表情よりやや思い詰めたような硬い表情だった。
その顔で大真面目に言った。
「忌憚ない意見をありがとう」
「……」
話の流れが読めない。
サディアスは怒っているようには見えないものの、完全に笑みを消してくれたおかげで深刻な今の状況を自覚してくれたのかと淡い期待を抱かせた。
現実はその逆だった。
「それじゃあ君は、僕に、平民に頭を下げて働けって言うんだね」
一筋縄ではいかない。
「あなたも平民」
「違う」
「違わない」
「僕は由緒正しいエヴァンズ伯爵家の跡取だ」
「勘当されたの!」
「跡継ぎは僕だけだし、勘当と宣言すればこの体に流れる血がそっくり入れ替わるわけでもないんだよ」
「はあ?」
この男は馬鹿かもしれないと何度も思った。
でも、想像以上に馬鹿かもしれない。
「実の子だろうと勘当されたからあなたはもう貴族じゃないでしょう?」
「否、僕は死ぬまでエヴァンズ伯爵家の誇りを捨てはしない」
「……」
サディアスが馬鹿ということに気を取られて迂闊に見過ごしそうになったが、何としてもワイラーに謝罪させなくてはならない。
「サディアス、あなたは勘当されて平民落ちした元貴族なの。エヴァンズ伯爵令息なんかじゃない。ここでは新入りなんだから、ワイラーに頭を下げなくちゃいけないの。今の暮らしはね、殺されはしないけどって感じ。最悪」
誇張はないが意識的にきつい言葉を選んだ。
「最悪か」
「ええ、そう。満足しているとでも思った?」
「思ってた。僕は君がいればどこだって満足だ」
「私も私みたいな働き者がもう一人欲しいわよ」
ガタリと音を立ててサディアスが席を立つ。
「どこへ行くの?」
「ワイラーに謝ってくる」
「慎重に言葉を選んでちょうだいよ?もう自分は平民で、嫌われた新入りだってことを忘れないで」
「わかった。リディ、君も忘れないで」
「え?」
サディアスが扉に手を掛ける。
狭い小屋だからテーブルから玄関は私でさえ七歩の距離。すぐそこだ。
サディアスが扉を開けた瞬間、冷たい風が吹き込んできてくすんだ金髪を揺らした。
碧い瞳は真っ直ぐに私を見つめている。
「君の為にやるんだ」
「……」
まるで私を責めるような捨て台詞に言葉を失くしているうちにサディアスは優雅に扉を閉めた。
まだ上品ぶっているのが憎たらしい。
プライドだけ高い能無しのくせに。
私は二人分のスープを平らげた。
これから川まで歩いていって洗濯しないといけない。近くに井戸がないから。一日中、水を運んでばかりいられない。
ああ、やだ。
もう嫌だ。
生まれ育った村に帰りたい。
こんなの望んだ結婚生活じゃない。
思いの丈をぶちまけてしまった。
もう我慢の限界だったから後悔はない。
「……」
サディアスは稀に見ぬ無表情でぽかんと私を凝視したかと思うと、眉を顰めて俯いた。
傷ついた?
それとも怒ったの?
私の方が何百倍も怒ったし、何千倍も傷ついた。
「毎日、毎日……私がどんな気持ちで食べ物を恵んでもらっていると思っているの?流れ着いた余所者が道端に立って手あたり次第に声をかけたり、一軒一軒回って玄関先で跪いて物乞いするのよ?」
「……」
「その間あなたは家の前の荒れた土にその辺の枝を拾っては空想の城を描いて遊んでる。帰ってきた私の手からイモを受け取って中へ運ぶのがなんだって言うのよ。こっちはずっと持って歩いて来てるの!」
「……じゃあ、次からは僕も行くよ」
「今更遅いわよ!それに、あなた嫌われてるから居ても邪魔」
今まで辛辣な言葉のひとつも浴びた経験がないのか、サディアスは俯いたまま硬直している。
「元メイドだから家の中のことをやるのは私?じゃああなたは外で何をするわけ?あなたは家の中でも外でもただ機嫌よく笑ってるだけで役に立つことは何もしない。枝を拾って来て、枝を積んで、枝でいつか住むお城の絵を描いてる。あなたは今、私というメイドをタダ働きさせて怠けているろくでなし!元貴族!もうお坊ちゃんじゃないの!私の夫だと言うなら平民らしく働いて!!」
言いたいことを言い切ってみると、想像の数倍気が楽になった。
サディアスには現実を見てもらわなくてはいけない。嫌われ者の余所者で、お情けで村はずれの小屋を宛がわれただけの私たちには選択肢など多くはない。
夢を見る暇もない。
その日その日を食べていくのに精一杯なのに、サディアスは何もせず私に笑顔を向け愛を囁く。
何もしないだけならまだましだった。
悪いなりにも、ましだったのだ。
「味のないスープが嫌?あなたがワイラーを怒らせたせいで誰からも塩を分けてもらえないのよ」
「……」
「謝ってきて。仕事を紹介して貰うにしても話はそれからなんだから」
サディアスが顔を上げた。
初めて私に笑顔を向けず、無表情よりやや思い詰めたような硬い表情だった。
その顔で大真面目に言った。
「忌憚ない意見をありがとう」
「……」
話の流れが読めない。
サディアスは怒っているようには見えないものの、完全に笑みを消してくれたおかげで深刻な今の状況を自覚してくれたのかと淡い期待を抱かせた。
現実はその逆だった。
「それじゃあ君は、僕に、平民に頭を下げて働けって言うんだね」
一筋縄ではいかない。
「あなたも平民」
「違う」
「違わない」
「僕は由緒正しいエヴァンズ伯爵家の跡取だ」
「勘当されたの!」
「跡継ぎは僕だけだし、勘当と宣言すればこの体に流れる血がそっくり入れ替わるわけでもないんだよ」
「はあ?」
この男は馬鹿かもしれないと何度も思った。
でも、想像以上に馬鹿かもしれない。
「実の子だろうと勘当されたからあなたはもう貴族じゃないでしょう?」
「否、僕は死ぬまでエヴァンズ伯爵家の誇りを捨てはしない」
「……」
サディアスが馬鹿ということに気を取られて迂闊に見過ごしそうになったが、何としてもワイラーに謝罪させなくてはならない。
「サディアス、あなたは勘当されて平民落ちした元貴族なの。エヴァンズ伯爵令息なんかじゃない。ここでは新入りなんだから、ワイラーに頭を下げなくちゃいけないの。今の暮らしはね、殺されはしないけどって感じ。最悪」
誇張はないが意識的にきつい言葉を選んだ。
「最悪か」
「ええ、そう。満足しているとでも思った?」
「思ってた。僕は君がいればどこだって満足だ」
「私も私みたいな働き者がもう一人欲しいわよ」
ガタリと音を立ててサディアスが席を立つ。
「どこへ行くの?」
「ワイラーに謝ってくる」
「慎重に言葉を選んでちょうだいよ?もう自分は平民で、嫌われた新入りだってことを忘れないで」
「わかった。リディ、君も忘れないで」
「え?」
サディアスが扉に手を掛ける。
狭い小屋だからテーブルから玄関は私でさえ七歩の距離。すぐそこだ。
サディアスが扉を開けた瞬間、冷たい風が吹き込んできてくすんだ金髪を揺らした。
碧い瞳は真っ直ぐに私を見つめている。
「君の為にやるんだ」
「……」
まるで私を責めるような捨て台詞に言葉を失くしているうちにサディアスは優雅に扉を閉めた。
まだ上品ぶっているのが憎たらしい。
プライドだけ高い能無しのくせに。
私は二人分のスープを平らげた。
これから川まで歩いていって洗濯しないといけない。近くに井戸がないから。一日中、水を運んでばかりいられない。
ああ、やだ。
もう嫌だ。
生まれ育った村に帰りたい。
こんなの望んだ結婚生活じゃない。
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