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出会い編

森の秘密

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 メルとクゥーとぴーちゃんは、湧き水の出ている岩に沿ってもっと奥まで進んでいった。

 すると、また高い木のない開けた場所に出た。ここは、何度も来ている場所。この開けた場所を岩を背に進むと川がある。その川で、洗濯したり、身体を洗ったりしている。その開けた場所の一角から、煙が出ていた。

「あの煙は何かしら? 初めて見るわ。火事だったら大変だわ」
 メルは、煙が出ているところに向かう。クゥーも続く。


 煙の出ているところは、川の側で、長髪の白髪に白髭のお爺さんが石の上に座って、焚火をしていた。体は、細いが姿勢が良く、品があるお爺さん。いい臭いがする。この臭いは、焼き芋だ。さつま芋を焼いているようだ。

 お爺さんは、メルを見て、一瞬、目を見開いた。
「おや珍しい、可愛らしいお客さんだな」
 メルは、この森でレオナードとアレル以外の人間と会ったのは初めてだった。

「私は、ライトールという。ライトお爺さんとでも呼んでくれ。君たちは?」
 ライトお爺さんは、メルに優しく問いかける。ライトお爺さんは、とても物腰が優しく、穏やかだ。とても親しみが持てる雰囲気がある。
「私は、メルです。そして、この犬がクゥーで、青い小鳥がぴーちゃんです」
「ほぉー、君は、メルというのか。そして、お仲間がクゥーとぴーちゃんだな」
 メルは頷き、ライトお爺さんの側にある石に座る。

「ライトお爺さんは、この森に住んでいるのですか?」
「いや。街に住んでいる。私は、歴史が好きなのだ。歴史が好きで、歴史を知る中で、この森のことを知った。この森は、不思議だろう。この森を研究している内にこの森が好きになり、時々ここに遊びに来るようになったのだよ」
 優しい笑みをライトお爺さんはする。続けて言う。
「歴史が好きな者は、この森について知りたくなる。そういえば、少し前にも私にこの森について聞いてきた者がいたな」
 思い出したかのようにライトお爺さんは微笑む。

「ライトお爺さん、私もこの森は、不思議に感じていました。この森について、教えていただけないでしょうか?」
 メルは身を乗り出して聞く。 ライトお爺さんは、微笑みながら、焚火の中を棒で突っつき、中から、焼き芋を取り出した。

 ライトお爺さんは、焼き芋を半分にし、メルに渡す。ライトお爺さんは、メルに微笑みかけ、話し始めた。
「まずは、このビギニン大陸についてだ。この大陸は、この森から始まったと言われている。あそこに、大きな岩があり、そこから水が湧き出ているのを知っているか?」
 メルは、頷いた。あそこと指さした場所は、メルたちが先ほどまでいた洞窟がある大きな岩のことだ。

「その湧き出ている水を『聖水』という。正確には、この森は、その岩から湧き出ている水『聖水』から、始まったと言われている。『聖水』は、どんな植物や生物にも生命力を与える力を持つ水だ。この水から、植物が育ち、この森ができた。そして、生物が生まれ、進化し、動物そして人間が生まれたと言われている。そして、この森では、人と動物が共存し、穏やかに過ごしていたようだ。この森は、この大陸で最初にできた森だったようだ。時が経ち、人や動物が増え、この森を出て、他の場所に住む者も出てきた。ここで育った植物の種が、風に乗り、他の場所でも育つようになった。そして、長い歴史の中で、今があるのだよ。そう、六か国の国ができた。しかし、そのうち、二か国は、エビスシア国になってしまったので、現在、四か国になるな。さて、メルは、幻の『命の葉』を知っているか?」

 メルは、ドキッとした。メルは、薬を作るときに使っている。
「はい、知っています」
「そうか。その『命の葉』は、この森に存在していたようだ。昔、この森には聖女が住んでいたそうだ。聖女は、人や動物達のけがや病を『命の葉』と『聖水』を使って、命を繋いだそうだ。聖女は、この国の人や動物の身体を癒していたということだ。それだけではない。聖女は、様々な災いから、この国を守っていた。聖女がいたころは、この国の人や動物は、皆、老衰でなくなっていたそうだ」
 ライトお爺さんは、優しい笑みを浮かべる。
「老衰は、『命の葉』で助けられないのですか?」
「『命の葉』は、不老不死の効果はない。自然の摂理には逆らえん。人や動物、植物、生きているものには、寿命がある。いいではないか。穏やかに寿命を迎えられるのだ」

(そうね。苦しまず、老衰で穏やかに寿命が迎えられていたなんて、いいわね)
 メルは、頷き、微笑む。
 すると、クゥーが、川を見ながら、「ワン、ワン」と吠えた。メルとライトお爺さんは、何事かと思い、川を見る。川には、流されている白い子猫がいた。流木に捕まっている。
(まぁ、大変。可哀そうに……。助けてあげないと)
 クゥーが、流されてる子猫とメルを交互に見る。助けに行きたそうにうずうずしている。メルは、泳げない。クゥーは、泳げる。
「クゥー、助けてあげて」
 クゥーは、急いで川に入り、川の奥の底の深いところを泳いで、流木に捕まっている子猫をくわえて、戻って来た。白い毛の子猫だ。震えている。メルは、子猫を抱き、焚火の前で体を乾かす。

「かわいい子猫だな」
 ライトお爺さんは、微笑みながら言う。メルは、子猫の震えは治まったが、ぐったりしていることに気づく。
「ライトお爺さん、子猫がぐったりしてます。薬を飲ませに、家に帰ります」
 メルは、子猫の毛を撫でる、メルの気持ちは、心配で、焦っている。
「あぁ、それがいい。家は遠いのか?」
 ライトお爺さんは、優しい笑みを浮かべ、子猫とメルを見る。
「いえ、あの湧き水の出る岩にある洞窟が私の家です」
「洞窟があるのか? 知らなかった……。私も一緒に行ってもいいだろうか?」
 ライトお爺さんは驚いたように目を丸くする。
「えぇ、もちろんです」
 メルとライトお爺さんとクゥーは、急いで洞窟に向かった。


「なんと、これは、凄い」
 ライトお爺さんは、洞窟の前にある庭を見て、目を大きく開け、呟く。メルは、すぐ洞窟の中に入り、子猫を寝かせると、急いで薬を作り始める。
「待っててね。急いで薬作るからね。もう少しだから頑張って。必ず助けるわ」
 ぐったりしている子猫を励ます。メルは、薬ができると、抱きかかえ、急いで薬を飲ませ、飲み込んだのを確認すると、また寝かせる。
(どうか、元気になって)
 祈るような気持ちで、メルは、子猫を撫でる。外にいたライトお爺さんは、洞窟の中を覗き込む。
「なんと、これは、凄い」
 感嘆の声をあげる。薬の研究内容が書かれた洞窟の壁。メルの側には、ランプや薬草、湧き水が入った瓶、空瓶、ヤシの実の器が置いてある。今、メルが薬を作っていた場所には、『命の葉』の葉の一部が置かれていた。
「入ってもいいだろうか?」
 メルは、子猫を撫でながら、頷く。ライトお爺さんは、洞窟の中を見回し、『命の葉』の葉の一部を取り上げる。その葉を触り、果肉を見る。
「メル、これは、『命の葉』ではないか?」
 ライトお爺さんは、信じられないという困惑の表情をしながら、メルに聞く。メルは、頷く。
「はい、おっしゃる通りです。この森にある『命の葉』を使って薬を作っています」
「そうか。すごい。メル、君は、この森で『命の葉』を見つけられたのだな。これは、この森の加護を受けたからだと思われる。私は、今までこの森を何年も探索しているが見つけることはできなかった。君は、昔存在していたという聖女のようだな」
 ライトお爺さんは、尊敬の眼差しでメルを見る。
 メルは、聖女と言われ驚くが、褒められていることがわかり、素直に嬉しくなる。メルは、微笑む。
「光栄です」
(私が、聖女のようなんて嬉しいわ)

 すると、子猫が「ミャウ」と声を上げ、立ち上がった。伸びをしている。元気になったようだ。メルは、安堵し、子猫を抱き上げた。
 この子猫をメルは、初めて発した声が「ミャウ」だったため、ミャウと名付けた。
 ぴーちゃん率いる小鳥たちにヤシの木から実を落としてもらい、メルは、ミャウにヤシの実の中に入っている液体を飲ませた。美味しそうに飲む。
「良かったわ。美味しそうに飲んでくれて」
 メルは、ミャウを撫でながら微笑む。そんな様子をライトお爺さんは微笑ましいなと思い、優しい眼差しをメルに向けていた。

「メル、ここの土は、『聖水』が多く含まれているのだろう。様々な植物が育つようだな」
「ここの植物は『聖水』のおかげで、育ちがよかったのですね」
 メルは、この不思議な場所の謎が『聖水』のおかげだとわかり、すっきりする。
「メル、街でよく効く薬、万能薬を売っているのは、君か?」
 メルは、頷く。
「はい。『命の葉』を使い薬を作り、売っています」
「ああ、そうか。君の薬は、この国の人や動物を穏やかに過ごす手助けになっている。上手に、『命の葉』を使っている。いいことだ。私も手伝えることがあれば、手伝うぞ。言ってくれ」
 メルは、お礼を言い、微笑んだ。
「メル、ミャウを私が飼ってもいいか? 大事にする」
 メルは、ライトお爺さんの申し出に快く頷いた。
(ライトお爺さんなら安心ね。大事に育ててくれるわ)

 ライトお爺さんは、蛇除け草のことも知っていた。そのため、この森の中に入り、何年も前からこの森を探索していた。ライトお爺さんは、黄色い小鳥を飼っていた。その小鳥に道案内をしてもらっている。この森は、道らしい道がない。やはり、ライトお爺さんもメルと同じようで、一人では、森を歩けない。迷子になってしまう。メルは、この森の中で、優しく信頼できるライトお爺さんと知り合いになれて嬉しかった。
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