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一章.サロン・ルポゼでハミングを

一章 サロン・ルポゼでハミングを⑲

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「息子様や新人の子と、一度向き合ってみてはいかがでしょうか。ちゃんと話をしてみると、案外納得のいく答えが待っているかもしれませんよ。腑に落ちることができれば、きっとイライラも治まると思います」

「うーん……そうね。確かに思い返すと、あの子たちの意見を聞くことはしなかったわ。勝手にこっちで判断して、イライラの原因にしてた。あの子たちの言い分だってあるのにね。反省しなきゃいけないわ」

 施術前には『反省する』という言葉を使うなんて、想像もできなかった。
 リラックスすると、気持ちも寛容になれるのだ。

「お兄さん、ありがとう。なんだかスッとした。少し睡眠もとれたし、頭の中もスッキリできたわ。また来なくちゃいけないわね」

 満足してもらったみたいで、スイは心から安堵できた。
 こうして一人、また一人とリピーターが増えていく。

「実は初めて受けたのよ、リフレクソロジー」

 膝上まで捲っていたズボンの裾を下げながら発した芝野宮の声は、さっきよりも軽妙で高い声色に変わっている。
 それに合わせて、スイは簡単な片づけを行いながら返答していく。

「大体二、三週間に一回の施術が、ベストなタイミングと言われています。またお疲れが溜まるその頃に、ご予約お待ちしてますね」

「上手いわねお兄さん、通っちゃおうかしら」

 芝野宮が、来店された時と同じ格好に戻ったら、この薄暗い世界から光のある世界、つまり受付へ案内をする。
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