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五章.サロン・ルポゼとストライカー

五章 サロン・ルポゼとストライカー⑭

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「えっ?」

 それは、唐突な質問だった。
 みなみのことをどう思っているか……考えたこともない疑問が、スイの思考スピードを遅れさせる。
 パッと答えられないでいると、見かねた進藤がさらに質問を追加してきた。

「お兄さん、彼女はいるの?」

「は、はい。彼女はいますよ」

「あの子じゃないでしょ?」

「違います」

「ふーん、じゃああの子は恋愛対象じゃないのか」

「まあ、それは……後輩って感覚ですかね」

「何だ、もったいない」

 もったいないとは……進藤が言っていることが、スイにはよくわからなかった。
 何がもったいないのか、その真意の答えがすぐに理解できない。
 腑に落ちていない顔を察知したのか、進藤がスイの耳元まで近づき、ボソッと伝えた。

「あの子、多分お兄さんに気があるよ」

「ど、どういう意味ですか!?」

「そのままの意味だよ。オレの勘は当たるからね。サッカーも勘だけでやってきたし」

 顔が赤くなっているのは、鏡を見なくてもわかるだろう。
 みなみから好意を持たれているなんて、スイは考えたこともなかったし、進藤がいつもの二人の雰囲気を勘違いしているだけだと思える。
 それに、スイにはユアの存在があるために、そんなことは考えられなかったのだ。

「すいません! お待たせしましたー!」

 問題のみなみが、領収書をひらひらさせながら、勢いよく外へ飛び出してきた。
 同時に、近い距離だった進藤が、スイの隣から離れた。
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