上 下
86 / 186
五章.サロン・ルポゼとストライカー

五章 サロン・ルポゼとストライカー⑬

しおりを挟む
「ありがとうございました!」

 みなみの声が店内に響くと、元のコートとサングラス姿に戻った進藤が、受付カウンターまで進んでいった。

「次は君に施術してもらいたいな」

「本当ですか!? 頑張ってセラピストにならないと」

「じゃあ、その頃にまた来るね」

 二人の会話は、店内中に響いていた。
 スイが遅れて戻ると、肘をカウンターについたナンパモードの進藤と目が合った。

「進藤様、こちらがカモミールです」

「え、進藤様こんなに買ってくれるんですか!?」

 みなみが目を真ん丸にして驚いている……それもそのはずだ。
 ハーブティーを即日で大人買いするお客様は、今まで一度もいなかった。

「気に入ったからね、このハーブティー。それに、オレサッカー選手だからさ。こういうところに金使わないと」

 必死に領収書を書いているみなみを置き去りにして、先に店の外に出る進藤。
 スイが追いかけるように外に出てみると、少しヒヤッとした春風が通り過ぎた。

「あの子、可愛いね」

「ありがとうございます。うちの看板娘なんですよ」

 スイは何故か、自分が褒められたかのような感謝を伝えてしまう。
 スイは男性のお客様に、みなみのことを『あの子可愛いね』とよく聞かれるのだ。
 その度に『看板娘』という言葉を使って話を逸らすのだが、その理由はスイ自身でもわからなかった。

「お兄さんはあの子のこと、どう思ってんの?」
しおりを挟む

処理中です...