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# 夏

夏休みは合宿に⑤

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 確実に顔を認識できるところまで行くと、ユウキが私の存在に気づいた。
 車イスを支えている女性も驚きながら、小さな会釈をしている。
 まさかの対面で、言葉を失ってしまう。

「ナオ、今帰ったの?」

「え、うん……」

「あ、この人は岸井 沙良(きしい さら)。サークルの先輩で、家が近いからよく送ってくれるんだ」

 紹介を受けた隣の女性は、緊張しながらも表情を緩ませていた。
 小さな会釈も止めて、私の目を見ると、口元を手で隠すようにして自己紹介し始めた。

「ユウキと同じ大学に通っている、岸井です。ナオさんの話は、いつもユウキから聞いております。かなりお世話になっているみたいで。本当にありがとう」

 その言葉だけを聞くと、まるでユウキの保護者みたいで、何か鼻についた。
 私は一応『こちらこそ』と言って対抗したけど、どう見ても関係性は岸井さんの方が濃いと思われる。

「じゃあ私は帰るわね。またサークルで」

 帰り際にまたまた小さな会釈をして、駅とは反対の方に向かって歩き出した。
 岸井さんの家はこの辺らしいけど、まったく見たことがない。
 たぶん区域が違うのかも。

 薄暗いエントランスにユウキと二人になった今、心臓の鼓動が急激に早くなりだした。
 岸井さんの姿が見えなくなった瞬間に、心を決めて聞くことにしていたから。
 岸井さんは、ユウキにとってどういう存在なのか。
 けっこうな頻度で送ってもらっているみたいだし、花火大会も一緒に過ごしていた。
 私が高校二年生の時に、あっさり断られた花火大会に。
 よく考えたら、今日まともに会話していないユウキに向かって、いきなり聞くのもおかしいけど……耐えられなかった。


「ユウキ……あの人、もしかして彼女?」
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