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# 冬

揺れるクリスマス⑨

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「ユウキ、岸井さんいいの?」

「これ以上、不甲斐ない姿を見せたくないから」

 あの頃と同じように、このまま家に帰すわけにはいかなかった。
 血が上った頭を、何とか冷やしてあげないと。
 少し散歩しようと車イスのハンドルを持って、駅とは反対方向に足を進める。

「何で取り乱したりしたのよ」
 
 歩きながら、今日何があったか聞き出してみる。
 今はナイーブになっているはずだから、慎重に会話することを意識した。

「申し訳なくて……」

「何が申し訳ないの?」

「沙良に、これ以上付き合ってもらうのが、申し訳なくて……」

 前に来たことがある公園に到着すると、月明かりの下で話をすることにした。
 私はベンチに腰掛けて、ユウキと対面になって話を続ける。

「こないだも言ったでしょ? 岸井さんがユウキにそんな思いを持っているわけないって。面倒くさいとか考えてたら、最初から付き合ってないよ」

「ナオは、そう言うと思うけどさ……みんながみんなそんなにお人好しじゃないんだよ。沙良だって言葉にしないだけで、溜まっていることがあるはずなんだ」

「何、ナオはそう言うって? その決めつけたようなセリフ、こないだも言われたけど意味がわからないよ。私のことなんだと思ってるの」

 前に言われて引っかかっていたことを、この場でもう一度言われた。
 慎重に話すことを心に決めていたのに、やや攻撃的になってしまう。
 だけど、それは私のために絶対に聞いておきたいことだった。
 ユウキの目には、私がどう映っているか。
 今その答えが、ユウキの口から語られようとしている。
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