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# 冬

揺れるクリスマス⑩

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「ナオは……ずっと俺と一緒に居てくれた。だから、当たり前のように俺を支えてくれる。ナオは優しいからさ。周りと比べても、俺のことを健常者として見てくれるのは、ナオだけだ」

「それは、岸井さんだって思ってるよ」

「沙良は……どこかで俺を哀れんでいるんだ。車イス生活の俺を、心の中で可哀想に思ってる。それが一度見えちゃうと、無理に付き合わせていると考えてしまうんだよ」

 あんなにユウキのことを想っていた岸井さんが、哀れに思うはずがない。
 いくらそれが信じられなかったとしても、ユウキがそう感じたなら否定はできないけど。
 私の知らないところで、二人の間には溝が生まれていたということか。

「でも、ユウキ。だったら尚更、岸井さんと向かい合わないとダメだよ。話す度にパニックになってたら、話が前に進まないでしょ。岸井さんがユウキをどう思っているか、ちゃんと聞いてごらん」

「うん……わかった」

 ユウキが落ち着いたのを確認してから、マンションまで引き返す。
 無言のままエントランスに入ると、ユウキが細くて弱い溜息をついた。
 私はユウキの心情を理解すると、最後に一回だけ背中を擦ってあげる。

「ありがとう……」

 覇気のない声で感謝をされると、もう少しだけそばに居たくなる。
 心を鬼にして、何も声をかけずにお別れした。

 色々なことがあり過ぎて、頭の容量はキャパオーバーになっている。
 ボランティア訪問の後に、戸部君とクリスマスの街並みを歩いて……キスまでして。
 戸部君が好きという気持ちが加速した途端に、またユウキが現れて、その姿が心配になってくる。
 どれだけ感情が揺れれば、気が済むのだろうか、私は。

 とにかく今は、眠りについて脳をリセットしたい。
 寝る前に戸部君へ『おやすみ』とメッセージを送る。
 ベッドに横になって目を閉じると、あっという間に夢の世界に行けた。
 
 夢の中の私は、誰かと手を繋いでいるようだった。
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