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# 冬

温もり③

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「変なことって、何?」

「いや……その、ナオが俺を支えるべき……的な」

 明らかに弱気なのがわかるくらい、どんどんと声が小さくなっていった。
 その発言に、恥ずかしさが混じっているのが、丸わかりだ。
 ハキハキと喋らないユウキに、沸々と怒りがこみ上げてくる。

「的なって何よ?」

「だから、その……ナオが無理して、俺のことを心配してくれたら、申し訳ないなって」

 考えがまとまっていない様子に、私の気持ちは一瞬たりとも動かなかった。
 そればかりか、私が混乱している状況を逆撫でしてくるみたいで、深い話をする気も起きない。
 何を言いたいのか明確に理解できない私は、適当に相槌を返すことにした。

「何それ、よくわかんないよ」

「ごめん……俺も上手く言えなくて」

 微妙な空気感を作り上げてしまったことに、罪悪感はない。
 私の複雑な気持ちを解決してくれるような、胸を撃つ内容ではないから。
 イライラ感も相まって、いつもよりも早歩きで進んでいた。
 
「もう着いちゃったね」

 ユウキがたっぷり間を取って話すから、しっかりと話す前にマンションに着いてしまった。
 私としては、これで良かったと思えている。
 中身の薄い会話を続けたところで、無駄な時間を過ごすだけだ。

「待ってナオ。少し話さない?」

「ごめん、明日大事な資格試験なの。今度にしてくれない」

 多少は悪いと思いつつも、情を捨てて断る。
 冷静に考えて、明日の試験の最終チェックをしなければという焦りが、そう決断させた。

「そうなんだ!? ごめん、大事な時に。また今度話させて」

「うん、わかった……」

 ユウキが三階で降りるギリギリまで、その微妙な空気を崩すことはなかった。 
 何を私、苛立っているのだろう。
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