続・思わぬ収穫? ~見聞録~

七月 優

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見聞録

キュウテオ国編 ~特別な猫の尻尾⑤~

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 リアトリスとオスカーとコンラッドは、ゆっくりとキュウテオ国の首都に向かっていた。
 国長が住まう建物周辺に、民家はない。周囲を見渡せば、ひんやりとして静謐な山の空気漂う、自然風景ばかりが広がる。
 人が歩いて踏みならした、幅広の土肌の道を下りながら、リアトリスとオスカーは辺りを見回していた。
 往路周辺は、背丈の低い植物が群生している。そこから徐々に植物の背は高くなっていた。山に入る手前などは特に刈られていない草がぼうぼうと生い茂り、夏の生命力の名残りを見せつけられる。
 シロツメクサ・アカツメクサ・ノコンギク・アザミ・タデ・スイバなど、リアトリスには見慣れた野草が所かしこにあった。秋色に染まっていないエノコログサやチガヤやススキも見かけ、リアトリスは知り合いを思い出して、くすりと思い出し笑いする。
 そんな中を、トンボが悠然と宙を飛び交っていた。
 がさがさと草をかき分ける方向を見ると、野良らしい猫が現れる。三毛・ぶち・しまと、模様も種類も様々な猫が至る所に認められ、思い思いに猫たちは行動していた。たまに鳴き声が聞こえてくる。
 長閑で平和であることを、景色はのほほんと伝えてくるかのようだ。

「普段も物静かなんですか?」
「そう、ですね。どちらかと言えば、口数は多くないと思います」

 コンラッドの問いかけに、リアトリスはやや事務的な返答をする。そこでまた会話は途切れ、コンラッドは困ったような表情をしていた。

 確かにリアトリスはさほどお喋りではないし、話が上手いわけではない。加えて、人見知りの気があり、初対面のコンラッドに緊張している。
 けれど、普段はもう少し愛想もいいし、気を遣って会話を弾ませる性質たちであるはずだ。
 それにもかかわらず、今の彼女はコンラッドと無理して話す必要はないという姿勢を貫いていた。彼女にしてはそういった態度を取ることはそこそこ珍しく、敢えてコンラッドと深く関わりたくないとする気配を漂わせている。
 男性と歩く際はいつも左側を選ぶ彼女が、今回は右側を歩いていることもまた、コンラッドに対してどこか一線を引いていることは顕著だった。
 こうなったのもひとえに、コンラッドがリアトリスに対して、ただ交流を深め、観光案内するために近づいたからではないと、彼女がつくづく分かり切っていることが原因である。実際、彼が彼女には利用価値があると見込んで、それが目的で同行を申し出たと、先ほど告げたようなものなのだ。
 いつもは抜けているリアトリスであるが、彼女の経験上、自分に対して損得勘定で接近する人物かどうかの判断を、ねっとりとしつこく見定める場合もある。リアトリスという人物は、他者の気持ちを踏みにじって、自分の意のままにしようと理不尽な命令利用ばかりする輩に嫌悪感を示し、距離を置きたがる傾向が強い。
 コンラッドが、そういう人物かどうかは定かではない。それでも、ただの親切心ではなく、不純な思惑や企みが引き金となって一緒にいるからこそ、リアトリスは彼を手放しで信頼できはしなかった。
 その他、リアトリスがコンラッドに対して打ち解けられない理由としては、キュウテオ国の風景をゆっくりと堪能したいことと、嫉妬しがちな夫がいるからなのかもしれない。
 そんなリアトリスの心情を推し量ってか、オスカーは二人の間に入り、とことこと歩いている。

「今、何を考えていますか?」
「前世のことを。こちらには、前世見たことのある風景と重なるものがあって、前世のことを思い出していました」

 リアトリスは、このまま彼をのらりくらりと躱し、自分らしく振舞えないことは嫌だった。そんな制限をかけなければいけないならと、敢えて自分から攻めに出た。
 リアトリスはオスカーが昨日告げていた、自分の正体を知り監視していたような人物はコンラッドだと、確信があった。だからこそ、彼にこそこそ隠すのも馬鹿らしいと、前世の記憶を持つ転生者であると自ら切り出したのだ。
 おそらく、彼が欲しがっているのは、リアトリスの前世の知識であろう。そのことも、彼女は嫌でも勘づいている。
 餌は撒いた。後はコンラッドの出方を待つのみである。
 
「今、何をお考えですか?」

 思い切って、リアトリスは先ほどのコンラッドと同じ質問を投げかけてみた。

「そうですね。率直に言いますと、あなたの以前生きた世界とこちらの世界では、似たようなものもあったのだなと思っていました」
「はい。似ているものもありますし、どちらかには存在しないものも、たくさんあります」

 やや落ち着き払った様子のコンラッドと顔を合わせつつ、リアトリスは自然とオスカーに視線を向ける。彼女にとって、オスカーたちモンスターは、こちらの世界だからこそ、現実に出会えた存在だ。

「猫はどうですか? 似ていますか?」
「ほとんどは似ていますね。ただ、私は猫に関しては専門家ではありませんので、おそらくはとしか言いようがありません。同じ種類の猫もいれば、どちらかにしか存在しない猫もいる気がします」
「なるほど。では、私のような姿の猫がいたかどうかは、多分分かりませんね」

 コンラッドの告げた内容に、リアトリスは歩みを止めることなく、沈黙のまま考えを巡らせる。数歩前進し、彼女は一番有力な答えを導き出した。そうして、彼が一体何をほのめかしていたのかうやむやにならずに、彼女は彼に返事を組み立てることが叶う。

「はい。おそらくはそちら・・・のお姿を拝見しても、分からない可能性は高いですね」
「・・・・・・検証してみます?」
「いいえ、ご遠慮します」

 コンラッドに僅かに挑発するかのような瞳を向けられ、リアトリスは真顔できっぱりと、否の返答を即座にする。

「理由を訊かせていただいても?」
「はい。私の知り合いの獣人族の血が入った者が、あまり人前で自身の血に流れる獣の姿になりたがらないのを、目にしているからです。彼が他者にそちらの姿をあまり見られたくないのを間近で見てきて、尚且つ彼の伴侶が出来うる限りそちらの姿を自分のみが独占したいという愛情も見てきました。ですから、私個人の興味本位であなた様の違うお姿を、拝見したくはございません。あなた様に恋人や伴侶の方がいらっしゃれば、尚更ご遠慮したいと思います」
「そういうことでしたか」

 リアトリスは親しい友人夫婦を思い出しながら、説明した。そして最後の言葉は、コンラッドに対し、そういう相手がいるなら、自分に構わないで欲しいと暗に非難している。
 コンラッドは、彼女がこの世界のどの夫婦を例に挙げたのか、すぐに察した。それほど、彼女の知り合いの夫婦は、この世界においてかなり有名な二人なのである。
 
「一応お伝えしますと、私はまだ未婚です。婚約者はおりますが」

 ふっと優しい笑みを浮かべて、コンラッドは柔らかい響きで述べた。
 リアトリスは先の言葉にほんの少し意外そうな顔をして、すぐにさっと困惑を示す。
 コンラッドの根幹の種族が獣人族か、リアトリスには判断しかねる。しかし、獣人族の血が入っていることは確かだろう。そうでなければ、「自分の姿のような猫」などと、先ほど発言するはずはないはずだ。

 この世界には、たくさんの種族がいる。
 例えば、リアトリスの前世生きた地球にいた人類と、ほぼ同じ人族。リアトリスは他種族の血も混じっているが、大元の種族は人族に相違ない。

 獣人族は、人族と同様の性質も持ち合わせながら、人族とは異なる、獣や動物の特質や特徴を受け継ぐ種族である。
 それが顕著に体に現れている者は、体の一部などが獣や動物のそれに置き換わっている。或いは、見た目は人族のようでありながら、意識・無意識で流れる血の獣や動物に変身できる者もいる。また、見た目は人族のまま、獣や動物の特質や特徴を受け継ぐものの、変身もしない者といるといわれている。
 獣人族は恋人や伴侶に対して、良くも悪くも殊に一途とされる。獣人族の血が流れているコンラッドもまた、婚約者を唯一無二の存在として慈しんでいることだろう。

 その他様々な種族がいて、こちらの世界で「純血」というと、一種族の性質のみを受け継いだものを指す。その種族の血しか通っていない者とされている。
 それに対して、リアトリスのような「混血」とは、大元の種族以外の血が混じっている者を指す。
 彼女は人族以外の種族の血を受け継ぐ影響で、身長が低く見た目は人族の子どものようだが、今年十九歳を迎える女性であった。

 コンラッドは、見た目は人族そのものだ。故に、獣人族か、獣人族の血が混じった混血かは外見だけでは判断できない。
 けれども、変身できるほどとあらば、混血といえど、獣人族の血は決して薄いわけはない。
 そんなことを推測するも、リアトリスはコンラッドの種族に関し、白黒はっきりつけようとは至らなかった。訊ねたところで、答えが返ってくるかは怪しいとの未来を描いたからだ。興味があるようでないというのも要因。
 それよりも、リアトリスには気になる疑問が浮上し、そちらをはっきりと明らかにしたがった。

「ご婚約者様は、今こうしていることはご存知ですか?」
「いいえ。伝えておりません」
「ご婚約者様もこのキュウテオ国にいらっしゃいますか?」
「ええ。彼女はこの首都に住んでおります」

 明白となった事実に、リアトリスは内心うんざりと呆れるような気持ちを抱く。同時に、やはり同行を断れば良かったとほとほと後悔した。
 片や既婚者、片や婚約者持ち。傍目から見れば、子どもと大人。天地がひっくり返っても、どうこうなるわけはないと、リアトリスは断言できる。
 それでも、コンラッドの婚約者が今こうしていることを目撃し、コンラッドが仕事の一環としてリアトリスとオスカーを観光案内したと後々説明しても、果たして納得いくかは分からない。例え、コンラッドに流れる獣人族の血が、その婚約者しか選ばないと分かっていても、良からぬ想像はされないとは言い切れないのだ。
 誤解はどこにでも転がっている。それで生じた嫉妬、特に異性が絡んだものが時に馬鹿馬鹿しいほど厄介なことを、リアトリスは身に染みて知っていた。
 可能な限り、厄介事を前もって早めに回避したい。面倒事に巻き込まれるのは、実にごめん被るとするのが、リアトリスという人物である。
 リアトリスは、本日何度目か分からない嘆息を心の中でもらし、今後何事もありませんようにと、澄み切った青空に願いを飛ばした。
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